第2部 PFIの導入へ向けて −第3章−
       

はじめに と 目次  あなたのまちにPFIを ケーススタディ PFIはじめて物語

8 PFI導入に当たって留意すること

 ここでは、主に、英国におけるPFIと比べることで、我が国のPFIの導入にあたっての若干の留意点を述べてみたい。

(1) 先進国からの教訓を生かして −「PFIからPPP」を先取り−

 英国でPFIを当初からスムーズに導入できたわけではなく、試行錯誤のうえ軌道にのってきているというのが現状である。我が国においては、この英国での過程を踏まえた後発者のメリットを存分に生かすべきであろう。

 現在、英国では、PFIを発展させたPPP(Public Private Partnership)というコンセプトが新たに導入されている。

 これは、従来のすべての公共事業をまずPFI事業として検討し、「民間でできるものはすべて民間に」という大原則を緩和して、PFI事業の事業別適性を踏まえ、「官民の役割分担」を重視した官民の提携を目指すものである。

 我が国においても、「PFI法」第3条の基本理念に「民間事業者に行わせることが適切なものについては、できる限りその実施を民間事業者にゆだねる」とあるように、「官民の役割分担」を重視したかたちとなっている。

(2) 官民役割分担とは

 いわゆる「第三セクター」が破綻に陥った理由の一つに、官民の役割分担が不明確なことから、もたれあい構造ができてしまったことが挙げられる。 

 PFIは、本来公共部門が行うべきことを民間部門が実施主体となって行う手法である。PFI事業として適格性のある事業を選定し、官民協働により最適なリスク分担を行うことが、「一定の支払い(税金)に対し、最も高い価値(住民サービスの質・量)を提供する。」(=VFM)こととなる。

 PFIでは、事業の実施に際して民間部門はそのノウハウを存分に発揮し、公共部門は、民間部門が提供するサービス水準が、目的(住民の満足するもの)を満たしているかどうかをチェックすることになる。つまり、事業の「実行」が民間部門の役割で、その「実行」に関する条件を設定したり、守らせたりするのが公共部門の役割となる。

(3) 資金調達と支援策について

 英国におけるPFIでは、原則として、PFI事業に必要な資金は民間事業者が自ら調達することとされている。その例外として、ジョイントベンチャー型には、公的資金の出資又は補助があるが、それ以外の公的支援は原則として行われないとされている。

 我が国においても、事業に必要な資金の調達主体は、原則として民間事業者である。また、自治省からの「地方公共団体におけるPFI事業について」(平成12年3月29日付け自治事務次官通知)の中では「PFI事業者に対する安易な出資及び損失補償は、厳に慎むこと」とされている。

 一方、「PFI法」では、国有、公有財産の無償使用(法第12)や無利子貸付け(法第13)、財政・金融上の支援(法第16)などが定められている。

 これらの規定により、PFI事業では、民間事業者が資金調達を行うことが原則であっても、国や地方自治体は、「本来公共施設等の管理者等が受けることのできる支援の範囲内で、民間の選定事業者が受けられるように配慮」し、「選定事業の実施のために必要な資金の確保若しくはその融通のあっせん又は法令の範囲内における地方債についての特別の配慮に努める」ように求められており、英国に比べて、民間事業者に対する支援策が手厚くなっている。

(4) 資金調達方法について

 英国では、資金調達の方法としてプロジェクト・ファイナンスの考え方が早くから根付いており、PFIの資金調達方法としても一般的であるが、一部では、コーポレート・ファイナンスやリース方式、債券発行などで進められる事業もある。

 我が国のPFI事業でも、民間事業者が資金を調達する方法としては、同じように、プロジェクト・ファイナンスを積極的に取り入れるように考えてはいるが、「PFI法」や「PFI基本方針」にもあるように、資金調達の方法はプロジェクト・ファイナンスのみに限られるものではない。

 現に、先行地方自治体の例でも、従来からあるコーポレート・ファイナンスによる資金調達により、PFI事業を行っているものも多い。

 我が国では、プロジェクト・ファイナンス導入の試みは、まだ始まったばかりであり、その推進は、金融関係者を中心とする多くの民間事業者の努力にかかっている。

 「PFI基本方針」にも、「プロジェクト・ファイナンス等新たな手法を取り入れることにより、金融環境が整備されるとともに、新しいファイナンス・マーケットの創設につながることが予想される。」とある。PFIへのプロジェクト・ファイナンスの導入により、資金調達方法の選択肢の広がりと新たなマーケットの創設が期待されている。

 このように、資金調達の方法については、「直接金融、間接金融を問わず、民間資金を多様な手段によって効率的、効果的に活用できることが、PFI事業の円滑な実施に資する」(「PFI基本方針」)とあるように、プロジェクト・ファイナンスも、その選択肢の一つとしてとらえ、事業ごとに最適な方法を選択すれば良いのである。

(5) 事業の「管理者」について

 英国におけるPFIでは、民間同士の契約と同様に、PFI事業を行う民間事業者(PFI事業者)は、公共部門と契約を結び、PFI事業者は施設の管理者として公共サービスを住民に提供する。そして、公共サービス購入型であれば、公共部門はその対価を支払う。事業に対する権限や責任は、契約に従い、PFI事業者に移転される。

 これに対して、我が国では、現行法上、多くの公共施設の管理者には、原則として、公共部門しかなり得ない。

 これについては、先の自治事務次官通知の中で、特に公の施設の取扱いについて述べられており、民間事業者の権限や料金徴収の範囲は、限定的である。なお、「PFI法」等では、「PFI基本方針」で法17条の規制緩和の趣旨を踏まえ、業法及び公物管理法について「PFI事業推進のために必要な規制の撤廃又は緩和を速やかに推進すること」とされているが、現時点において、現行法の枠組みの中でPFI事業を行う場合は、事実上の業務を民間事業者にさせ、法的な管理者は公共部門になるという仕組みになり、「事業者=管理者」とはならない。

(6) 事業の一括発注について

 民間事業者のノウハウを最大限に引き出すためには、設計から建設、維持管理、運営を一括して発注することが望ましく、これがPFIの基本形となる。

 しかしながら、我が国のPFIでは、「PFI基本方針」にも「建設(設計を含む)維持管理及び運営の全部又は一部が一体的に扱われること等により」とあるように、設計から建設、管理、運営までを一括して発注することをもってPFI事業とは定義していない。

 例えば、運営を公共部門が行い、残りを民間事業者に行わせても、また、設計を公共部門が行い、残りを民間事業者に行わせてもPFIとされるのであり、公共部門はその事業に最も適した発注方法を取れば良いのである。

(7) 会計上の取扱いについて

 英国のPFIでは、その目的の一つが公的債務の縮減であり、会計上の債務として事業資産を公共部門のバランスシートに計上しないように、可能な限り公共部門が施設を所有しないようにしている(オフバランス化)

 一方で、我が国のPFI事業では、財政負担の方法として、債務負担行為の設定を行うため、仮にバランスシートを作成するならば負債として計上され、オフバランスとはならない。また、自治事務次官通知では、PFI事業において「債務負担行為に係る支出のうち、施設整備費や用地取得費に相当するもの等公債費に準ずるものを起債制限比率の計算の対象」とするとしている。

(8) 税制優遇措置について

 英国では、PFI事業を行う民間事業者に対する税制上のメリットは与えられていない。固定資産税率が低率であるなど、我が国の税制と異なり一概にいえないが、基本的な考え方は、公共サービス購入型では、民間事業者の支払う税金が公共部門の支払額の中に含まれているため、わざわざ優遇する必要はないというものである。

 一方、我が国のPFIでは、現行制度を基本としながらも、PFI事業の促進を図るため必要な「税制上の措置を講ずること」(16)が求められている。

9 事業実施スキーム

従来の公共事業とPFI事業スキームの違いについて、図表にしたのが次のものである。(図表V−6)

          図表V−6 従来の公共事業スキーム

 

 従来の公共事業では、地方自治体が税、補助金、起債などによって自らが財源を調達し、設計、建設を外部に発注している。そして、施設の管理については、一部民間委託を取り入れたりしながら、公共サービスを提供してきた。

 設計、建設、管理それぞれの段階においては、最も低い金額を提示した事業者が請け負うことになる。しかし、別々の事業者が請け負うため、各段階では最善でも、全体として最善の効果を発揮しているとはいえないときもある。

 これに対して、PFI事業では、基本的には、民間企業が資金を調達し、施設の設計、建設、管理、更には運営も含め、一括して特別目的会社(Special Purpose Company)と事業契約を結ぶ。

 地方自治体は、特別目的会社に対して必要な事業権に関する許認可を与え、サービス購入型では、契約により、提供されたサービスに応じた支払を行う。(図表V−7)

                図表V−7 PFI事業スキーム

 

10 事業実施プロセスとポイント

(1) PFIによる事業手順の流れ

PFIによる事業を実施する場合の手順は、大まかに次の7段階に分けることができる。ここでは、それぞれの段階ごとのポイントや問題などについて、簡単に述べることとする。(図表V―8)

         図表V−8 PFI事業実施のプロセス

 

(2) 事業の発案及びそれ以前

ア PFI事業の導入にあたって

 地方自治体は、公共サービスに対する住民ニーズの十分な把握に努めることが何より必要である。まず「PFIありき」で採算性の低い事業や住民ニーズの低い事業を実施した場合には、いわゆる「第三セクターの破綻」と同様の結果を招くおそれがある。これでは、官民協働のもと新たな社会資本整備を進めるという理想が逆の結果を生むことになりかねない。

 PFIを適正に実施するためには、地方自治体がPFIを導入するにあたっては、「各地方自治体におけるPFI基本方針」を策定することが大切である。この中で地方自治体の基本姿勢を明らかにし、その的確な運用に努めることにより、住民や民間事業者のPFIに対する正しい理解を得られるようになるだろう。

イ 民間部門からの発案について

 PFIの理念は、民間事業者の自主性、創意工夫を尊重し、これを公共サービスに活かすことであることから、積極的に民間事業者からの発案を受け入れることが望ましい。

 公共部門は、こうした民間事業者からの発案の受付、評価等が随時行えるような体制を整備しておく必要がある。

 そして、「PFI法」に定める「実施方針」を策定する際には、この提案の全部(または一部)が、PFI事業として、適正であり、かつ、実現可能である場合には、これをその中に積極的に盛り込んでいくようにすべきである。

 発案者は事業実施の際に有利になるのではないかとの意見もあると思われるが、民間事業者の発案とは、いわばアイディアの募集であり、この段階で評価・決定するものではない。そのため、「発案者=事業実施者」になるとは限らない。

(3) 実施方針の策定及び公表

ア アドバイザーの利用について

 アドバイザーの利用については、「企画・立案は行政の役割で、アドバイザーに任せるのは行政の役割の放棄」と考えるのではなく、専門知識を持つ者や機関をいかに活用していくかを重視していくべきであろう。PFI事業では、専門技術的な要素が多々あるため、アドバイザーは不可欠である。会計・法務・技術の3業務について委託するのが一般的だ。

 アドバイザーを導入する時期についても、実施方針策定の準備段階から、民間事業者との契約の締結段階まで、個々の事業内容に応じて、最適な段階で行っていく。

○ 主な委託内容

@ 実施方針の策定に向けた事業内容の検討
A VFM評価のためのデータ収集・整理、リスク分担の整理
B PFI事業形態の検討

C 入札説明書
(募集要項)、要求水準書(仕様書)案の作成

D 落札者決定基準案、条件規定書案の作成
E 審査会外部委員の人選

 ただし、事業の標準化(マニュアル化)や複雑さの程度によっては、審査会における専門家への意見聴取や公共部門の顧問弁護士の活用などにより、代替することができる場合もある。

イ 民間事業者への貸付けについて

 PFI事業者は、日本政策投資銀行の無利子、低利融資及び()地域総合整備財団(ふるさと財団)の地域総合整備資金貸付け(ふるさと融資)を利用できる。

 日本政策投資銀行の無利子融資を受けるに当たっては、PFIを用いる事業の所管省庁による財務省及び日本政策投資銀行に対する要求手続が必要である。実施方針の公表の段階で、応札希望者に提示できるよう、十分所管省庁との連絡調整を図り、PFI事業者が融資を受けることができるよう協力する必要がある。

ウ 地方財政措置等について

 地方財政措置(地方債や地方交付税交付金等)や補助制度は、地方自治体がPFIを手法として選択する際の重要な要素の一つとなる。通常は地方財政措置等の対象である事業が、PFIを用いたために支援の対象外とされれば、国も含めた公共部門全体ではVFMが生じたとしても、実施する地方公共団体の持ち出し分が増加することがあるからである。そうなると、当該地方自治体の財政支出の増加のみが考慮され、PFI導入の意欲が減退してしまう。

 PFI事業に対する地方財政措置については、「地方公共団体におけるPFI事業について」(平成12年3月29日付け自治事務次官通知)及び「民間資金等の活用による公共施設等の整備の促進に関する法律に基づいて地方公共団体が実施する事業に係る地方財政措置について」(平成12年3月29日付け自治省財政局長通知)において留意事項が示されている。

 同通知では、PFI事業を国庫補助金が支出される事業と地方単独事業で実施される事業に分けている。国庫補助負担金が支出される事業については、直営事業の場合と同様の地方債措置又は交付税措置を講じること、地方単独事業として実施されるPFI事業についても、財政措置の仕組みのある事業や公共性の高い施設で非収益的な施設であれば、財政措置が講じられるようになっている。

しかしながら、補助制度については、現段階ではまだ個々の補助対象が少ない状況にある。今後、地方自治体におけるPFI事業の事例が積み重ねられていく中で、対象事業範囲が拡大されることを期待したい。

エ 税の減免等について

 地方自治体が実施する公共事業と異なり、民間事業者がPFI事業を実施する場合には、固定資産税や法人事業税、各種使用料などの支払が生じる。

 民間事業者に対する税の減免が行なわれない場合には、その分がコストにはね返り、入札価格が高くなるため、従来方式と平等な競争(イコール・フッティング)を成し得ることができない。そこで、税の減免@の有無が問題となるが、安易な減免措置はVFMの減少につながることから、事業内容やその効果を十分に見極め行うことが重要である。

(4) 特定事業の評価・選定、公表

ア 定量的評価とVFM

 PFI事業において、VFMがどれだけ得られるかということは、その目的の根幹部分となる。

 そのため、PFI事業の選定を行う場合には、設計・建設・管理・運営のすべてのコストについて、定量的に(すべての費用を金額に表して)評価を行うように努めなければならない。民間事業者に移転するリスクや定性的に評価される部分(例えば、デザイン、環境配慮など費用を金額に表すことが難しい部分)についても、選定においては、できるだけ数値化して評価すること、そして、それがどうしても困難な場合には、客観性を確保した定性的評価を行うことが、透明性及び公平性の確保の点からも求められている。

イ リスク移転について

 PFI事業は、官民協働事業であることから、民間事業者への適切なリスク移転はVFMの増加へとつながる。しかし、安易にリスクを押しつけると、結局、事業費に転嫁され、VFMが低下する。最適なVFMとなるように、「そのリスクを最も良くコントロールできる者がそのリスクを負う」というリスク配分の原則に照らして、官民のリスク分担をうまく行うことが大切である。(図表V−9)

               図表V−9 リスク移転とVFM

(5) 民間事業者の募集、評価・選定、公表

ア 契約の準備期間等について

 民間事業者は、PFI事業を構成する事業契約の他に、融資契約、保険契約等、諸々の契約をPFI事業に関連して締結する必要がある。したがって、実施方針公表後には、民間事業者が金融機関、弁護士、会計事務所など専門家との調整やマーケット調査ができるよう、十分に時間をとる必要がある。

 また、発案を行う民間事業者は、地元事業者だけとは限らないことから現地調査を十分行うための時間を設けることは、適正な競争を促すことにもつながる。

 そして、事業者の選定後においても、提案事項の微調整を行う可能性が考えられ、実施方針公表から事業契約の締結までは、少なくとも6か月くらいの準備期間が必要であろう。

 地方自治体は、こうした民間事業者の動きに配慮し、実施方針公表後から正式契約の締結に至るまで、民間事業者に必要な情報提供を行い、調整等を十分行うことができる環境を整えることが必要である。結果的に、これが官民双方にとってのより良いPFI事業の成立につながる。

イ 第三セクターが選定事業者となる場合について

 「PFI法」第10条第2項では、第三セクターの事業者がPFI事業者となることも想定している。実際、地方自治体が行うPFI事業において、第三セクターが事業者となる例がいくつか見られる。

 ただし、さきにも述べたが、いわゆる「第三セクター」の事業破綻などその経営状況が近年問題となってきていることから、第三セクターをPFI事業者とする契約には、十分検討し、より具体的かつ明確な責任の分担を行うとともに、透明性を保持した実施を進めるように、「PFI法」や「PFI基本方針」でも特に注意を促している。

ウ 入札方法について

 PFI事業における入札方法は、透明性、公平性の確保という観点から、「PFI基本方針」にも示されているように、総合評価方式による入札方法が現段階では最も望ましいと思われる。

 総合評価方式による一般競争入札の方法は、地方自治法施行令第167条の10の2に定められており、学識経験者などを含む審査会を開催し、落札者決定基準の策定や落札者の決定を行うこととしている。透明性、公平性を確保するよう努めている点が、PFI事業の理念に合致しており、「PFI基本方針」でもその活用に努めるよう述べられている。

 また、公募型プロポーザル方式を利用することで、随意契約の方法で事業者を選定することも可能である。

 なお、民間事業者の応札には、多大の費用と時間を要する。これら負担を軽減し、PFIの実施を推進するためには、選定事業者が1社である以上、応札した他の民間事業者へコンペ料を支払うなどの配慮も必要であろう。これについては、先の自治事務次官通知でも認められている。

 そのほか、総合評価方式による一般競争入札では、多段階選抜での入札を実施することにより、民間事業者の負担の軽減を図ることを検討する必要がある。

(6) 契約の締結等

ア 債務負担行為の設定と地方議会の承認について

 総合評価方式でPFI事業を実施する場合、入札公告前に、債務負担行為の限度額を設定することになる。限度額の設定は、事業期間の運営、維持管理(修繕を含む)の経費を含めたPFI事業総額(現在値ではなく名目値)で設定する。

 債務負担行為の設定金額は、将来に渡る未確定金額を含んだいわゆる予定金額であり、民間事業者の設計や建設に係る資金調達における「金利」や運営や維持管理において生じる「インフレ率」などにより、変更が生じることは念頭におかなければならない。

 債務負担行為の設定の時期は、調達手続に入る前である。ただし、当該PFI事業に係るリスク分担や予定価格の検討などの準備行為は債務負担行為を設定する前に行うことができるとされている。

 債務負担行為の変更を行う場合は、上記のような事項に限って、契約書等によってあらかじめ約定しておき、例えば、民間事業者の事業見通しの甘さなど契約書に定められていない事由による支払の増加などには応じないことが肝要である。

 また、債務負担行為に係る支出のうちで、施設整備費や用地取得費に相当するもの等、公債費に準ずるものが起債制限比率の計算の対象とされることにも注意を要する。

 地方議会の承認について、自治事務次官通知では、運営、維持管理に要する費用を除いた予定価格が一定の金額を超える場合には、あらかじめ地方議会の議決を経ることが求められている。地方公共団体の規模における議会の議決を要する額は次のとおりである。

   都道府県      500,000千円
   指定都市    
 300,000千円
   市
(指定都市を除く) 150,000千円
   町村         50
,000千円

(7) 事業の実施、監視等

ア 設計、建設、維持管理及び運営に関する監視(モニタリング)

 公共事業であるPFI事業において、住民サービスの質を担保し、かつ、VFMを適正に確保するには、事業の実施後における民間事業者に対する監視(モニタリング)がポイントとなる。

 モニタリングの問題は、PFI事業の実績がまだ少ない現段階では、具体的に想定することは難しい。PFI事業者からの一定期間ごとの報告書の提出、地方自治体による監査や住民の代表も含んだ定期監査などにより実効性を確保したい。また、公共サービス購入型事業では、一定の水準を満たした場合には事業者への支払を増額し、逆に満たさない場合には、ペナルティを課すなど民間事業者のインセンティブを高める工夫を凝らし、住民サービスの向上を図りたい。

 さらに、これらの結果を、住民に公表することも、官民のモラルを高め、緊張感のある事業実施を促進するものとなる。

イ 事業破綻時に備えて

 我が国では、近年、第三セクターの事業破綻による地方自治体の債務保証が問題となっていることから、PFI事業の破綻への備えも欠かせない。

 基本的には、事業継続が困難となる事由を契約において具体的に列挙し、責任の所在を明確にするとともに、金融機関の介入権の行使を公共部門と金融機関との直接協定により認めておくことや、契約解除、事業引継ぎ、施設の移管等、状況に応じて、契約に基づき、対応していくこととなる。

 いずれにしても、PFI事業の破綻は住民へのサービス低下につながることからも、公共部門には、事業のモニタリングをきちんと行い、常にその状況を把握していくことが求められる。

破綻したらどうなる

 PFI事業は、20年、30年と長期にわたる事業であるため、特に運営面において様々なリスク(資材調達やマーケティングの失敗、金利の上昇、インフレなど)が想定されます。
 これらのリスクにより、不幸にも事業の経営が成り立たなくなった場合にはどうなるのでしょう。地方自治体は、PFI事業の経営が危ういことが判明した時点で経営の修復に乗り出します。それでも難しい場合には、金融機関と協力し介入権を行使してその是正に努めさせ、最終手段としては契約解除、事業引継先の指定などの行為をとることになります。PFI事業の失敗による地域住民への影響は計り知れません。このため、契約で様々な事態に備え、リスクを分担しその責任を明らかにしています。
 しかし、現実に破綻した場合、事業の引継先がなかったらとか、対外的な責任はといった問題は、最終的には事業主体である地方自治体が負うこととなるでしょう。こうならないためにも、常に経営感覚を持ちながら、かつ、最悪の事態を想定した契約主義の徹底を図る必要があります。

 

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