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第1話:公彦君が取り組んでいるもの
修 :何やってんの。早く飲みに行こうよ。 公彦:修はいいよなあ。まだ学生だから。毎日が休日みたいなもんだよな。 民雄:何言ってんのさ。早くしろよ。オレだって今日仕事早めに切り上げてきたんだから。 公彦:いやー。ちょっと政策研究のことで頭がいっぱいなんだよ。民雄:
なんだよ。政策研究なんていったって机上の空論だろ。 公彦:まあ公共機関が何かをやるということにはそれだけ慎重さを要するのさ。 民雄:うちの会社も「世のため人のため」にならないことをやってるつもりはないけどね。 公彦:でも企業って利益追求団体じゃない。儲からないことはやらないよね? 民雄:まあトータルでみれば儲け主義だ。当然だろ。会社がつぶれちまう。 民雄:でもボランティアとは違うよな。税金という収入があるんだから。
公彦:うーん。なかなかいい議論だな。実は僕がいま取り組んでいる政策研究のテーマは 修 :え。「そういったもの」って? 公彦:民雄の言葉を借りれば「役所仕事は効率が悪い」だとか、 修 :よく分からないな。で、つまるところ公彦の政策研究のテーマって何? 公彦:よくぞ聞いてくれた!テーマは『PFI』なんだよ。 民雄:ああPFIか。実はオレいま会社でPFIのプロジェクトを任されてるんだ。 修 :「PFI」って・・・。ああ日経新聞とかに出ているアレかな? 公彦:そう、それ!PFIは「Private
Finance Initiative」の略で、 修 :うーん。学生の僕にでも分かるように説明してくれない。 公彦:じゃあ「橋」を例に、今までの公共事業との違いを具体的に説明しよう。 修 :この場合「橋をかける」ことが公共サービスということかな? 公彦:そう。従来のやり方だと、まず橋を架けるために公共機関は建設会社、 修 :うん。PFIだと・・・? 公彦:PFIの場合、民間企業が自己資金で橋を架けて、 修 :ああ。なるほどね。それが「民間資金を活用して・・・」つまりそれがPFIなんだ。 公彦:そう。 修 :いや。まてよ。ははーん。読めた。 公彦:んっ。鋭い!多くの自治体はそこを注目しているのは事実だ。 修 :そういえばさっき公彦は「役所仕事は効率が悪い」だとか、 公彦:そう。こうなったらPFIのキーワードをいくつか説明した方がいいな。 修 :何? 公彦:「VFM」とか「NPM理論」とか・・・。 修 :うへー。またアルファベット3文字ですか。 公彦:PFIはもともとイギリスで始まった制度だからね。 民雄:この続きは飲み屋に行ってからにしないか? 公彦:そうするか。今日は久々の3人の飲み会なのに、なんだか固い話でゴメンよ。 修 :いいや。修士論文のヒントになりそうだから、いろいろ教えてよ。 民雄:PFIの話だったらオレも聞きたいな。オレも悩んでるんだよ。
第3話:NPM理論
公彦:まずはPFIの背景にある「NPM(New
Public Management)理論」についてね。 修 :いきなり難しいね。もうちょっと詳しく説明してほしいんだけど。 公彦:①は手続きより結果を重視するために、住民に近い現場に権限を委譲するということだ。 修 :「現場」って・・・『事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!』 民雄:オイオイ。いきなり何を言い出すんだ。 公彦:ああ。でも的は射てるよ。まさにその「現場」だよ。 民雄:民間企業だったら当然の発想だけどな。 修 :もしかして「『税金泥棒』と言われないように」の話はここにつながるのかな? 公彦:そうだね。そして④は公共事業の業績や評価を測定しやすくするために、 修 :ああ。やっと分かった!つまり、まとめると、 公彦:そうなんだよ。分かってもらえた。じゃあ「VFM」は説明しなくてもいいかな? 修 :一応説明して。 民雄:じゃあオレが説明しようか。 修 :え。民雄が知ってるの? 民雄:「VFM」はPFIをちょっとかじってりゃ誰でも知ってるさ。
民雄:「VFM(Value
For Money)」は、公彦みたいに意訳すると「費用対効果」ってとこかな。 修 :どうやって数値化するの? 民雄:要するに 修 :ちょっと待って。公彦の「橋」を例にした説明だと、 公彦:あれは取りあえず修にわかりやすく説明しようと思って 修 :うーん。よけいこんがらかっちゃたなあ。 民雄:修は深く考えすぎなんだよ。じゃあもっと分かりやすく言ってやろうか? 修 :うん。お願い。 民雄:いいか。「刺身」で説明するぞ。 修 :なるほど。その例えは分かる。 民雄:修はホント「例え」に弱いな。 公彦:まあ、PFIのバリエーションはいくつもあるんだよ。 修 :そうなんだ。 公彦:民雄の説明にもあったけど、 修 :安い刺身はチラシに載るけど、うまい刺身も食べたい・・・ってなところかな。 民雄:オマエ例え好きだなあ。 修 :冗談だよ。確かに役所が今のままだったら税金を下げてほしいし、 公彦:そういうこと。これでPFIが何なのか分かってもらえたかな? 修 :なんとなくね。ところで公彦はPFIで何の研究をやってるの? 公彦:とりあえず研究のキーワードとなるのが「住民に身近なPFI」。
公彦:PFIによって公共サービスが良くなることは納税者としてはうれしいことだよね。 修 :②のVFMってやつだね。そりゃそうさ。 公彦:じゃあさ。修にとってPFIで良くなってほしい公共サービスって何? 修 :うーん。なんだろ?「公共サービス」って言葉は分かっても 公彦:じゃ別の角度で質問するね。修がよく使う公共施設って何? 修 :うーん。そうね。まずは図書館かな。それと市民プール。 民雄:学校があるだろ。 修 :あ。そうか。学校も公共施設か。 公彦:さらに付け加えて言えば、小・中学校って義務教育だから、 修 :なるほど。いままで意識したことなかったけど、 公彦:修だけじゃないよ。僕だって民雄だって、 修 :公共サービスが良くなるんだったら、そういった、 公彦:そう。そこなんだよ。僕がPFIを進めたいのは。 修 :なるほど「住民にとって身近な公共サービスにPFIを」ってことか。 民雄:えーっ!そりゃ無理だろう。 修 :へ。なんで? 民雄:あのな。PFIって手続きがものすごく複雑なんだ。 修 :民雄の仕事が大変のは分かったけど、それとさっきの話となんか関係あるの? 民雄:修があげてた施設なんかは公共事業の中ではかなりちっぽけなんだ。 公彦:いや無理じゃないさ。確かに、まだPFIの実績が少ない今の日本では 修 :へー。面白そうだね。なんかこれからが楽しみだな。
公彦:あれ。民雄じゃない。久しぶりだね。そんな本をたくさん積んでどこ行くのさ? 民雄:おう。公彦か。夜8時だというのにまだ蒸し暑いな。いや東図書館に本を返しにさ。 公彦:あれ。だって民雄の家って西図書館の方が近いんじゃないの? 民雄:東図書館の方が何かと便利なんだよ。読みたい本がそろってるし。夜11時まで開いてるし。 公彦:そっか東図書館といえばPFIで整備したやつだ。 修 :おう。公彦。なんだ民雄もじゃん。久しぶり。 民雄:久しぶり。今聞いたんだけど、修の会社であの図書館やってるんだって? 修 :そうなんだよ。うちの会社でPFI図書館第1号なんだ。なかなかいいでしょ。 民雄:いい。いい。すごく便利。対応も丁寧だし。 公彦:修がんばってるよねえ。このまちでPFIって言ったら修は有名人だもんね。 修 :何をおっしゃいますか。もとはといえば、10年前だっけ。 公彦:役所も、僕が提案した「住民に身近なPFI」というのが普及してから、 民雄:へー。そうなんだ。そりゃまたなんで? 公彦:理由はいろいろなんだけど。 民雄:へー。そりゃあ良かったなあ。 公彦:そうだね。今となっては。でもこの10年間はいろいろ大変だったよ。 民雄:そりゃPFIさまさまだね。 公彦:今このまちが良くなったのはPFIのおかげばかりじゃないけど、 修 :そういうこと。どうです?あなたのまちにもPFIを。 民雄:おい。誰に呼びかけてるんだよ?
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