第2部 PFIの導入へ向けて −第3章−
       

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第2部 PFIの導入へ向けて

第3章 PFI導入の考え方

1 「PFI法」の位置付けと法の適用について

(1) 「PFI法」とは何か

 平成11年7月に制定された「PFI法」は、PFI事業を行う際の基本となる法律である。この法律は、既に英国において実施されているPFIの理念やノウハウを参考とし、第三セクターの諸問題などを踏まえながら、プロジェクト・ファイナンスなど従来にない新たな視点を取り入れて、効率的で効果的な社会資本整備を目指すものである。

(2) 法体系における位置付け

 「PFI法」は、私的自治を原則とした私人間に適用される私法とは異なり、公法上の関係に適用される法律である。しかしながら、「PFI法」は、公共事業への民間事業者の積極的な関与を認めているように、公法と私法の両分野に影響を及ぼすものであり、その調整の必要を促すものでもある。「PFI法」第16、17条で法制上の措置や規制緩和等の必要性が述べられているように、PFI事業における公共部門と民間部門の役割と責任のあり方が問題になっているのである。

(3) 「PFI法」と「PFI基本方針」の性格

 「PFI法」と、「PFI法」第4条を受けて策定された「PFI基本方針」との関係は、次のように整理できる。

 「PFI法」は、その目的、定義及び基本理念などPFI事業を実施するための骨格を述べたものであり、「PFI基本方針」は、法の趣旨を受けて、国や地方自治体などが公共施設等の管理者として行うPFI事業の基本的な事項について肉付けしたものである。

 「PFI法」及び「PFI基本方針」は、昨今の地方分権の流れを汲んで、地方自治体の自主性を損なわないような配慮がされている。「PFI基本方針」では「地方公共団体においても、法の趣旨にのっとり、本基本方針の定めるところを参考として、PFI事業の円滑な実施の促進に努めるものとする。」とあるように、地方自治体が行うPFI事業に関する事項について、PFIの理念をいかに運用していくかは、地方自治体の自主性と責任に広くゆだねられているのである。

      図表V−1 「PFI法」と「PFI基本方針」との関係

 PFIに対して「第三セクターの二の舞になるのでは」との不安を抱く声もあるが、「PFI法」の理念を生かせるかどうかは国や地方自治体次第なのである。国や地方自治体が「PFIをどのようにとらえ、どう運用していくのか」を明確にしていくことが大切である。

 なお、地方自治体が行うPFI事業に関しては、既にいくつかの地方自治体で独自の基本方針にあたるものが策定されている。神奈川県では12年9月に「神奈川県におけるPFIの活用指針」を定め、同年12月に東京都も「東京都におけるPFI基本方針」を策定、川崎市も13年1月に「川崎市における新事業手法導入に関する基本方針」を公表している。今後、このような地方自治体の「PFI基本方針」はますます増えてくるものと思われる。

(4) 「PFI法」の適用について

 PFIの目的は、公共事業に民間活力を導入し、より効率的かつ効果的な公共サービスを実現することである。

 既に地方自治体が実施しているPFI事業には、「PFI法」成立以前のものは当然として、「PFI法」の適用を受けていない事業も少なくない。「PFI法」適用によるメリットと、PFI手法導入そのものによるメリットは本来別のものであり、各地方自治体はそれぞれの事情や環境に応じて「PFI法」適用の是非を個別に判断していくべきではないだろうか。

 「PFI法」の適用を受けると、公共部門では次のような効果が期待できる。まず、当該PFI事業は各種地方財政措置や国庫補助等の対象となり得ること。また、地方自治体内部の手続においては、債務負担行為など議会の議決を要するものについて、執行部の説明が容易になり、議会側の理解が得られやすくなることである。

 一方、民間事業者にとってのメリットは、PFI事業を行う際に、日本政策投資銀行等の融資を受けられることが挙げられる。

 PFI事業に対する各種の地方財政措置や国庫補助の対象範囲は、徐々に広がってきているが、まだ十分なものであるとはいえない。今後、適格性を見極めつつ、その対象範囲の拡大が待たれるところである。

2 PFIの目的

 PFIは、本来公共部門が行うべき事業分野に市場原理を導入し、民間の持つ効率性を最大限に活用することで、住民により質の高いサービスを提供する事業手法である。

「PFI法」第1条でも、その目的を、「この法律は、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の建設、維持管理及び運営(これらに関する企画を含む。)の促進を図るための措置を講ずること等により、効率的かつ効果的に社会資本を整備し、もって国民経済の健全な発展に寄与すること」としている。

3 PFIの理念・原則・主義(「PFI基本方針」から)

 PFI事業の実施に当たっては、何よりも民間事業者をサービス提供主体とすることで、行財政の効率化、財政資金の有効活用(VFM)につなげ、公共サービスの水準の向上を図ることに留意しなければならない。

 これを実現するために、「PFI基本方針」では、次のような理念・原則・主義が述べられている。(図表V−2)

        図表V−2 理念・原則・主義

 

4 PFIの対象事業

 PFI事業として民間事業者に行わせることが適当とされる事業は、「PFI法」第2条第1項各号でいう次の公共施設等の整備等である。(図表V−3)

          図表V−3 対象事業

 法第2条第2項において「公共施設等の整備等」とは、「建設、維持管理若しくは運営又はこれらに関する企画をいい、国民に対するサービスの提供を含む。」とされており、ここにはソフト事業も含まれる。

 我が国におけるPFI事業は、箱モノ指向であるといわれている。これは、地方自治体のPFI事業では、設計・建設など初期投資にウエイトの置かれたハード重視型事業が進められているのが実状であり、ソフト事業のPFI事業はあまり進んでいないことによる。しかし、昨今、我が国でも情報技術(IT)革命が叫ばれ、平成15年に電子政府の実現を目指すなど、IT分野の社会資本整備は急速に進んでいくものと考えられる。こうしたIT分野へのPFIの導入―いわゆるIT‐PFI―は、今後有望な分野となるだろう。

      PFIは、ハコモノ指向?

 我が国のPFIでは、社会資本整備に対する民間資本の導入という経済対策の観点から検討が進められてきたことから、民間資本を呼び込むための補助金や低利・無利子融資などの公共部門の支援が数多く盛り込まれています。そのため、PFIの対象が、公共施設などの「箱モノ」(ハード)指向となり、資産取得の目的が強いといえます。一方、英国では、新国民保険記録システム(NIRS2)や通信システムなどソフト面を重視した取組も進んでいます。
 PFIは、設計から運営まで民間のノウハウと技術革新を導入することで、VFMの向上を目指すものであることから、ソフト面のノウハウも取り込まなければ、その効果は半減するといえます。施設を安く取得しても、ランニングコストが従来と変わらないのでは、PFIの意義が薄れます。

5 事業類型

 PFI事業として導入が想定される事業の類型は、官民の関わり方及びコストの回収方法等により、次の三つの事業形態に分けられる。(図表V−4)

(1) サービス購入型(Services sold to the public sector)(公共へのサービス提供型ともいう)

 民間事業者が施設の設計・建設・管理・運営を行い、公共部門は事業の発注者、サービス購入者となる。事業リスクは原則として民間事業者が負担し、事業期間内にかかるコストは公共部門の支払により回収する。

(2) 独立採算型(Financially free-standing projects)(料金徴収型ともいう)

 民間事業者が施設の設計・建設・管理・運営を行う。その点はサービス購入型と変わりないが、施設の利用者から直接料金を徴収することでコストを回収する。公共部門は事業許可を与えるのみで、民間事業者は事業にかかるリスクを負担する。

(3) ジョイントベンチャー型(Joint Ventures)(官民協調型、一体整備型ともいう)

 民間事業者が施設の設計・建設・管理・運営を行うが、コストの回収に当たり、利用者からの料金収入のほか公共部門からの補助金等を充てる。したがって、リスクについては公共部門、民間部門ともに受け持つこととなる。

           図表V−4 3つの事業類型

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6 事業手法

 PFI事業推進の際の契約内容(プロジェクトの推進形態)に着目すると、次のような事業手法に分類できる。(図表V−5)

(1) BOT(Build-Operate-Transfer) 建設―運営―譲渡

 PFI事業者が事業の資金調達を行い、施設を建設し、その運営・サービスを提供する事業手法。事業の契約期間終了時に、施設を公共団体に譲渡する。

(2) BTO(Build-Transfer-Operate) 建設―譲渡―運営

 PFI事業者が施設を建設後、その所有権を公共団体に引き渡すが、施設の使用権又は使用許可をPFI事業者に供与し、施設の運営・サービスを提供させる事業手法。

(3) BOO(Build-Own-Operate) 建設―所有―運営

 BOT手法のように、公共団体への施設移転を行わずに、PFI事業者が、施設の運営・サービスを提供する事業手法。

(4) BOS(Build-Own-Sell) 建設―所有―売却

 PFI事業者が事業の資金調達を行い、施設を建設し、公共団体へ施設を売却して、その売却益を償還原資金とする事業手法。PFI事業者は施設売却後、公共団体とリース契約を結んで、施設貸与を受けるため施設の所有権は持たない。

(5) BLT(Build- Lease-Transfer) 建設―リース―譲渡

 PFI事業者が施設を建設後、その施設を公共団体がリースする事業手法。PFI事業者は、公共団体からリース代金を受け取り、投下資金を回収した後に所有権を公共団体に引き渡す。

ここでは、主な事業手法のみを取り上げたが、他にも様々な手法が考えられる。

図表V−5 PFIプロジェクト推進形態一覧

 

7 PFI導入の効果(「PFI基本方針」から)

 「PFI基本方針」では、PFI事業の着実な実施は、次のような成果をもたらすものと期待されている。

(1) 低廉かつ良質な公共サービスを住民に提供できる

 官民間のリスク管理が適切に分担され、施設の設計・建設・管理・運営が一体的になされることにより、事業コストの削減につながるとともに民間事業者のノウハウが活かされ、良質な公共サービスが提供される。

(2) 公共サービスの提供における公共の関わり方が改革される

 これまで公共部門が行っていた事業を、PFI事業により民間事業者にゆだねることで、公共部門は、サービスを提供する立場からサービスの提供者に対し住民ニーズを代弁する役割へと変わる。

(3) 民間の事業機会を創出することを通じて経済が活性化される

 PFI事業により民間事業者は「公共サービス」市場への参入という新たな事業機会を得ることができる。また、プロジェクト・ファイナンス等の新たな金融手法を取り入れることにより、金融環境が整備され新しい市場が創設されるなど、新分野での産業が生まれ、経済構造改革が推進される。

 

第3章−8 

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