第1部 PFIとは何か −第2章−
       

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第2章 PFIとは何か

1 PFIとは

 PFIとは、これまで国や地方自治体が担うべきとされてきた社会資本整備や公共サービスの提供に関し、設計、建設、運営、維持管理、資金調達、サービスの提供に至るまで、可能な限り民間にゆだねることで、民間の創意工夫を引き出し、住民に対する様々なサービスの効率化と質の向上を図る手法である。

2 他の民活との違い

(1) 民営化との違い

 民営化とは、公共施設の所有権、運営権などすべての権限と責任を民間部門に移転することをいう。市場からの収益を基本に、民間部門が単独で事業を行うことである。

 民営化は、規制の撤廃を通じて、事業者がその事業範囲を広げていくのが一般的であるのに対し、PFIでは、事業者は契約で事業権を得た範囲のみにおいて活動する。また、PFIでは、特定プロジェクトの実行を目的としているので、実施期間が有限であるのに対し、民営化された事業は、原則として永続する。つまり、PFIと民営化はその事業の範囲と期限の有無によって区別する。

(2) 外部委託との違い

 外部委託は、公共部門の管理の下、労働力の外部化によってコスト削減を図るのが主な目的である。外部委託は、今や多くの地方自治体が活用している一般的な民活手法であろう。これらは、単純・定型的な作業を民間部門に委託し、施設の法律上の管理などは事業の実施主体である公共部門が行う。仕事のやり方などに関しては、民間部門の柔軟な工夫をあまり期待できない。

 一方、PFIでは、公共部門に代わって民間事業者が主体的にサービスを提供するため、民間事業者は事業を遂行する上でのリスクを負うとともに、そのノウハウを最大限活用することが求められる。

(3) 第三セクターとの違い

 中曽根首相時代の「民間事業者の能力による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法(民活法)」(昭和61年)のもと、第三セクターが相次いで設立された。もともと第三セクターは、民活法以前よりあったが、この法律の成立によって設立に拍車がかかった。ここでは、民活法を根拠として設立された第三セクターに絞ってPFIと比較することとする。

 第三セクターは、民間企業と公共部門の共同出資による事業体(株式会社)であり、公益的な役割を担うとともに収益事業を実施しようというものである。民間企業の経営ノウハウと公共部門の社会的信頼性を背景として、公益性を発揮しながらも自立し得るという理想的な運営形態として期待されたが、現在多くの第三セクターが経営の危機に瀕している。

 第三セクターとPFIは、いずれも、公的部門の関与が必要な社会資本整備において、民間の資金とノウハウを活用するという点では同じである。

 しかし、第三セクターでは、共同出資であり、事業主体は半官半民であったのに対し、PFIでは事業主体は主に民間部門になる。つまり、PFIでは、当初の契約において、明確化された役割分担と責任分担の下、原則として公的部門は求めるサービスの水準を設定して発注する役割にとどまり、民間事業者が事業主体となるのである。

図表U−1 PFIの位置づけ(略)


3 PFIの歴史

(1) 英国で誕生したPFI

ア サッチャー政権(1979年−1990年)

 1980年代までの英国は、いわゆる「英国病」が蔓延し、経済が長期にわたり低迷し、財政難が深刻化する中、公共サービスの質が著しく低下していた。このような状況下、サッチャー首相は「市場原理の尊重」、「小さな政府」を政策理念とし、行政改革と財政改革を大胆に遂行した。具体的には、国営企業の民営化、政府機関のエージェンシー化などの施策が打ち出され、公共事業に対する民間資金の導入も検討された。民間資金導入に当たっては、二つの原則が提示された。一つは、公共部門が事業を実施する場合に比べて効率的に実施されること、そしてもう一つは、導入した民間資金分だけ公共事業予算を削減すること、である。しかし、この提案は、公共部門から見て民間資金を積極的に利用するインセンティブを持ちにくい内容であった。後に、民間資金を導入するために公共事業予算の削減を求めない、という方向転換がなされ、より自由度の高い事業の実施が可能になっていった。

イ メージャー政権(1990年−1997年)

 メージャー(保守党)政権の頃には「シチズンズ・チャーター(市民憲章)」が公表され、国民を「消費者」と位置づけ、「財政資金を国民のために最大限有効活用する」との考え方(Value For Money−VFM)が示された。この考え方に基づいて、従来公共部門が提供してきたサービスや公共施設の建設、運営をできる限り民間事業者にゆだね、政府はサービスの購入者になるという方針が示され、1992年にPFIが正式に導入された。

 PFI導入当初は公共部門、民間部門双方に戸惑いがあり、なかなか実績が上がらなかった。そこで、1993年には、官民双方がPFI事業に取り組みやすい環境を整えるべく、官民合同で「プライベートファイナンスパネル」が設置される。また、1994年にはすべての公共事業にPFIが適用できるか検討するという手法(「ユニバーサル・テスティング」)が採られ、政府が一体となってPFIの普及を進めた結果、急速に案件は増加していった。

ウ ブレア政権(1997年−)

 ブレア(労働党)政権では、PFIは一層改善される。推進体制の整備、実施プロセスの改善、ノウハウの蓄積、入札コストの削減に関する具体的な提案がされた。新規のPFI事業は、民間企業に公示する前に政府によって徹底的に検討、評価し、最終的に優先順位を決定することで、民間事業者へ事業の参加検討が促された。また、PFI実施プロセスについては、原則の共通化、契約書類のひな形作り、文献整備などを進め、時間や費用の削減を目指した改善が進められた。

 最近では、「PPP(Public Private Partnership)」という、より公共部門の役割を重視したコンセプトが提示され、PFI自体の見直しも図られている。公共性の高い事業分野については、公共部門がもつ優位性を最大限活用すべきであるという考え方に基づき、官民の役割分担をより一層明確にすることで、PFIの適用対象となる事業分野が更に広がることが期待されている。

           図表U―2 英国におけるPFIの経緯

 

厳しい台所事情

 英国のPFIの普及に欠かすことができないものとして欧州通貨統合の流れがあります。
 欧州連合15か国は、1993年のマーストリヒト条約で共通通貨ユーロの導入を決定し、1999年より実施しています。この条約の中の一つに加盟国の公的債務はGDP60%以内、財政赤字はGDP比3%以内に抑えるという項目があり、各国はこの基準の維持・達成に注力してきました。
 英国自体は、当面通貨統合には、参加しない方針ですが、いずれは参加するものとみられており、PFIの活用により財政再建を引き続き進めていくことが重要となっています。

(2) 英国での実績・事例

 英国では、PFIの導入により、通常の公共事業に比べて、道路の場合で15%のコスト削減、刑務所の場合10%、ソフト事業のPFIである国民保険記録システムの場合60%のコスト削減がなされている。労働党政権への移行に伴い、一部プロジェクトの中止が見られたものの、1998年時点で、政府は、PFIによる公共事業費として、2002年までに約130億ポンドを予算計上するとしており、PFIによる公共事業を拡大させる姿勢をみせている。

図表U―3 英国における公共事業費に占めるPFIの割合

 

刑務所もPFIで

 PFI事業が英国に導入されたのが、92年11月です。それ以来、どのような事業がPFIとして行われてきたのでしょうか?
 まず、PFIの発展のきっかけとなったといわれるのが「ダートフォート橋」です。全長約2.8kmの有料橋です。契約期間は最長20年間で、総事業費は約1億4,600万US$かかっています。業績は順調で20年を待たずに投下資本を回収できる見込みです。
 また、ブリジェンドとファザカーリーの刑務所は、その設計から建設、管理運営までを民間に委ねています。95年12月に契約し、契約期間は25年間です。需要リスクは国が負い、脱走、暴動リスクは民間が負うなどしており、官民及び利用者にも好評です。コスト面も、従来に比べ、25年間で10%の減を見込んでいます。
 その他、道路、学校、庁舎、鉄道などから、警察署、軍人住宅まで、幅広い公共施設がPFIで実施されています。

(3) 我が国におけるPFI導入の経緯

 我が国では、平成9年に当時の橋本首相の指示により、経済企画庁(当時)においてPFI導入の検討に着手したことが始まりである。背景には、少子・高齢化の進展に伴い、公共財政の悪化が懸念されるため、社会資本整備の分野において民間の資金・ノウハウを導入して、効率的な整備を行わなくてはならない状況があった。

 政府レベルでは通商産業省(当時)、建設省(当時)が研究委員会を発足させ検討を進めたほか、自由民主党が9年の「第2次緊急国民経済対策」でPFI導入のガイドライン策定を盛り込み、翌10年には「PFI推進調査会」を発足させた。

 その後、同年5月に「PFI法案」を議員立法により国会に提出し、一部修正を経て11年7月30日にPFI法が制定され、同年9月24日から施行されている。

 また、PFI法に基づき、総理府(現内閣府)に有識者を中心とする「PFI推進委員会」が設置され、12年3月に「PFI基本方針」を定めたところである。さらに、13年1月には「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」及び「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」がとりまとめられた。

図表U―4 日本におけるPFI導入の経緯

 

4 PFIのキーワード

(1) VFM(Value For Money)

 VFMとは、PFIにおける最も重要な概念の一つである。「一定の支払いに対し最も高い価値(サービスの質・量)を提供する」という意味で、「国民(住民)のために財政資金を最大限有効活用する」との考え方である。

 公共事業をPFIで行うかどうかは、従来方式で行った場合とのコスト比較、サービスの質の比較で判断される。すなわち、

@サービス水準が一定であれば、行政の負担するコストが従来より低減する
Aコストが従来と同等であれば、サービス水準が向上する
のいずれかは達成できることを測定し、PFIの実施を決定することとなる。

(2) ライフサイクルコスト

 PFIは事業期間全体のコストを視野に入れた事業方式である。施設建設に要する経費のみならず、施設の企画・設計から建設、維持管理、修繕、解体・撤去まで、当該施設の生涯にかかる総費用(ライフサイクルコスト)のシミュレーションにより、VFMの検討を行う。

(3) PSC(Public Sector Comparator)

 PSCは、従来の公共事業方式の場合に、契約期間全体を通じて発生する公共部門のすべてのコストを積算した指標である。施設などの建設費や運営費に加え、事業に関わるリスクも可能な限り合理的に算出され、提案されたPFI事業が、従来型の公共事業方式に比べVFMが得られるか、評価を行う際に使用される。

図表U―5 VFM算出概念図

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

(4) リスク分担

 リスクとは不確実性のことであり、事業に関わるリスクとは事業期間において生じる 可能性のあるすべての不確実要素を指す。事故、需要の変動、物価や金利の変動、測量・調査のミスによる計画・仕様の変更、工事遅延による工事費の増大、事業開始の遅れ、関係法令や税制の変更など、様々な予測のできない事態により損失が発生するおそれがある。PFIでは、これらの事業遂行に関するリスクを、官民双方で適切に分担するという考え方に基づき遂行される。そのため、リスクの所在を明確化(特定)し、個々のリスクについて、それを最も効率的に管理できる主体が責任をもって負担する「最適なリスク分担」が必要となる。必ずしもリスクを民間事業者にすべて移転すれば良いというわけではない。過度にリスク移転すれば、民間事業者ではリスクを適切に管理できず、結果としてコストの増大につながり、事業が成立しないこともあり得るからである。

5 PFI導入のメリット 

(1) 公共サービスに競争原理が働く

 公共サービスの提供主体として、新たに民間事業者が加わることにより、これまで公共部門のみが独占的に供給していたサービスにも、競争による効率化や質の向上などが期待できるようになる。

(2) 一括発注、性能発注による事業コストの削減

 従来の公共事業は、一つの事業について、設計、建設、維持管理・運営のプロセスごとに別々に発注、委託するのが一般的であった。PFIでは、民間事業者の創意工夫を十分に活かすため、全プロセスを一体的に民間事業者にゆだねることが多い。このため、維持管理・運営などの後過程を見据えた効率的な設計、建設が行われ、コストの削減が可能になる。また、これまでは民間事業者に公平な発注をするため、公共側があらかじめ細かく仕様を決めて発注するのが通例であった(仕様発注方式)。PFIでは、提供されるサービスの内容に重点を置くため、民間事業者が「どのようにやるか」はあまり問題とせず、要求するサービス水準のみを仕様で定める(性能発注方式)。性能発注方式を採用することで、民間事業者は自らの持つノウハウを最大限に発揮して提供方法を工夫する結果、事業コストが削減されるのである。

芝5cmの持つ意味

「芝は常に5cmに保つこと」という条件が契約書に記入されたとします。ここで要求しているのは「芝が5cmに保たれる」という結果であり、どのような方法を用いるかではありません。

 事業者は、同じ金額を得るならば、芝を5cmに保つ経費を少なくしてより多くの利潤を得ようとするでしょう。いかに安く芝を5cmに保つか創意工夫を凝らしてくるはずです。(芝刈機がスムーズに動ける施設を設計するかもしれませんし、面積が小さければ張り替えてしまう方が安いと判断するかもしれません。)

 このように、要求するサービスの内容、水準のみを規定する性能発注の方法を採ることにより、民間事業者の創意工夫を発揮させることができるのです。これまでの公共事業に見られてきた施設の過剰な仕様をも回避できることになり、果として建設費のみならず維持管理費も削減させることができるのです。

(3) リスクが明確化され事業の効率化が図れる

 PFIでは、事業に関する様々なリスクを事前に明確化し、将来における責任や財政負担をあらかじめ定めておく。個別のリスクについて、公共部門と民間部門のどちらがリスクの発生率を下げられるか、事故等が発生した場合の損失を最小限に食い止められるのはどちらかなどを考えてリスク分担を行うため、最も効率よく事業を行っていくことが可能になる。参考までに、下記に一般的なリスク分担表を掲げる。なお、事業の特性によってこのリスクの移転は異なってくる。

図表U―6 従来型手法とPFIとのリスク分担比較

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(4) 新たな事業機会が創出され、経済の活性化が図れる

 これまで一般的には公共部門のみが行ってきた公共事業の分野に民間事業者が参入できるようになり、新たな事業機会が創出される。また、PFIが公共部門の支出削減に寄与すれば、新たな行政需要にも応えることが可能になるため、別分野の新しい公共サービスを提供する事業機会が更に増えることも考えられる。

(5) 資金調達が多様化する

 PFIでは、Private Finance という言葉どおり、基本的には民間資金を活用するため、れまでの国債・地方債・補助金などの他に、民間による資金調達が加わることになる。

(6) 事業の透明性が向上する

 事業発案から終結までの過程を公表することで、住民にオープンな形で事業が進められる。事業実施プロセスはもとより、提供されるサービスの内容も明らかになるため、住民の満足度を常に意識することが必要となる。

(7) 他の公共事業へ波及する

 PFIを導入した事業における公共事業のコスト削減や質の向上にとどまらず、他の公共事業にもPFIの特長が汲まれ、職員の意識改革が促進されるなど、行政全体の効率化に寄与する。 

6 PFIを導入する上での一般的な課題

(1) コスト(費用、時間、手間)

 PFI事業は契約が複雑であり、従来の公共事業よりも、入札段階における調査の時間、費用、手間が多くかかる。なかでも、金融面、法制面、技術面では専門性が高く、各分野のアドバイザーの活用が不可欠となる。このアドバイザー費用は事業規模に関わらずかなり高額であるため、縮減できるコストの絶対量が少ない小規模な事業では、とりわけ大きな障壁となる。

(2) 専門家の育成

 PFI事業は、民間事業者とリスク分担などを契約により詳細に取り決めなければならないが、こうした複雑な契約は、従来の公共事業ではあまり例がなく、事業を実現させるためには、高度な専門知識が必要となる。これを克服するためには、専門家の育成が必須である。このことは公共部門だけではなく、民間部門の課題でもある。

(3) 中小企業の参入

 PFIは導入コストが多くかかる手法であり、資金力や経験の面で中小企業の参入が現状では難しい。しかし、中小企業は地元の実情に通じているものが多く、独自の技術や知識を蓄積している企業もある。PFIによる新たな事業機会の創出には、こうした中小企業への配慮が必要である。

(4) 法、財政上の課題

 我が国では、PFI法が施行されて一年余りであり、ガイドラインを含め、ようやく政府レベルでのPFIに対する考え方が整備されはじめてきたところである。しかしながら、個々の事業における規制の廃止や緩和、財政的支援の適用等、法制上、財政上の問題解決は、いまだ多くの課題が残る。

 

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