尋ねてみたことがある。
 なぜ、音楽をやっているのですか?
 と。
 答えは、多分こうだったと思う。
 フェアじゃないじゃん。
 聞いたとき、どういう意味だか分かりかねたから、再度尋ねてみたら。
 だからさ。
 俺達、聞く方は、たかだか数千円出して聞くわけっしょ。
 作る方は、多分すげー苦労しているだろうってのに。
 それで、こう、なんていうか。
 感動したりする。
 それじゃあ。こっちだけ、楽、っていうか、そんな感じで。
 そう考えたときから、自分でもなんかやりたくなっちまったんだ。
 このやり方があっているかどうかはわからねえけどな。
 そんな答えだったと思う。
 だったら、もっと頑張らなきゃいけませんね。と言ったら、
 痛い所をつかれたような顔で。
 ん。だなあ。
 と言っていた。

 祭りは終わる。
 まだ祭りの面影を残す校舎は、暗闇に包まれ静まり返っている。
 軽音楽同好会部室。
 3人は、ぐでー、と床に寝転がっていた。
 部屋はしいんと静かに。

「終わったねえ」
「終わったなあ」
「終わりました」

 3人とも、天井を見つめている。

「俺達さあ……」
「なに?」
「一番下手だったかもなあ」
「あははは、そうかもね」
「そうかもしれませんねえ」

 緊張こそしていたが、なんとか目立つミスなどはしなかった、と思う。
 それでも、けして上手くはなかった。
 つまり、それが実力だと言うことだ。
 で。
 部屋で寝転がっている3人。そうしていない人物が一人。

「……あなたたち、いつまでクサってんのよ」

 彼女は、深く関わっていても当事者ではない。この連中と同じ輪の中には入れない。

「いやあ。別にクサってはいないぞ」
「うん。そうだよ」
「私は有機パーツが多数使われていますから、腐れるらしいですよ。スプラッタですね」
「いや、そういう意味ではなくて」

 間が開く。
 静かな時間。

「まあ、来年も、あるな」
「来年も、やるの?」
「……やらないのか?」
「……んー。やろやろ。来年こそ、観客のハートを釘付けにしちゃおう」
「なんか古い言い回しだな」
「いいってこと。……そーだ。なっちゃんも参加しない?」
「な、何で私が。私には卓球部があるんだってば」
「いやあ。なっちゃん歌上手いし」
「え。そうなんだっけか?」
「そーだよ」
「嫌だってば」

 言い合い。
 幼馴染みの三人。
 どうも、他人と自分には壁があるかの様な感覚を覚えることがある。
 それは、自分が人間でないこととは、あまり関係無く。

「ユニちゃん?」
「はい?」

 声。ちょっとびっくり。

「ということで、なっちゃんもまた参加することになったから」
「なってない、なってない」
「それは、大変素晴らしいことです」
「いや別に確定したわけでは」
「ま、いいじゃん」
「よくはないわよ」

 喋る時は普通。
 やっぱりこれは私の性格なんだろう。
 ちょっと悩んでためいき一つ。それは誰にも気付かれることは無く。

「んじゃ、確かにいつまでもここにいてもしょうがないから。どっか行くか。打ち上げとか」
「じゃあ、何か飲み物でも買いに行く?」
「あ、私、セリオさんから預かったものがあるのですが。終わった後にでもどうぞ、と言われて」

 ユニは自分の鞄からビニール袋を取り出す。
 一同が中を見ると、そこにあるのは。
 酒だった。

「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。しまえ」
「そうそうそうそうそう。未成年者は飲酒しちゃいけないよ」

 妙に焦ってる。

「……なぜ、その様に焦っているのですか?」
「夏樹がいるから」
「なっちゃんがいるから」
「なによそれは?」
「なぜ、夏樹さんがいると駄目なのですか?」
「ひどいから」
「そう、あれは数年前。ふざけてなっちゃんにお酒を飲ませたなっちゃんちのおじさんが……」
「私の父さんがなんだってのよ。話を作らないで」
「もっとも恐ろしいことは」
「なっちゃんが全然覚えていないって事」
「はあ。そうなのですか」

 そういうわけで酒は仕舞われた。
 そもそも未成年者は酒飲んじゃいけません。

「危機は去った」
「一安心だね」
「それほど恐れるほどのことなのですか?」
「あんたら後で覚えてなさいよ」
「それはいいから、ともかくどっか行こうよ」
「んそーだね。確か今からでも開いているカラオケ屋があったと思うけど」
「んじゃあ、それでいいか。夏樹も来るか」
「まあ、乗りかかった船だしね」

 よっこいしょ。
 腰をあげて、部室から出ようとする。
 ユニは。
 ぼーとしていた。

「ほら、なにしてんのユニちゃん」
「……はい?」

 手を引っ張られ、立ち上がり。

「一緒に行こ」

 3人は、揃ってそう言ってくれた。
 やっぱり、嬉しかった。

 そんなこんなですが。
 多分、自分が本当に皆さんと馴染むのには、まだ時間がかかるのだと思います。
 やっぱり、生まれの差は、結構大きいです。
 でも。
 いつかは。
 きっと。
 その瞬間のために、時を重ねていこうと思います。
 じゃあ。
 明日からも頑張ろうと思います。

(つづく) 


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