ある休み時間。
 ユニが夏樹に話しかけた。

「夏樹さん」
「なに?」
「夏樹さんと、真一さんと、祐司さんは、幼馴染みなんですよね」
「まあ、そうだけど」
「恋、芽生えたりしないんですか?」

 夏樹はすっころびそうになった。

 事の起こりから言えば、なんのことはなく、ユニがセリオ(偽)から借りた書物に端を発する。
 平たく言えば少女漫画。
 そこに出てくる幼馴染みというものは、大抵色々すったもんだありつつも恋人になったりなんかしていた。すくなくともユニが読んだ分の中では。
 これに、ユニがはまった。
 セリオ(偽)に貸してもらった本の一冊めを読み切ったとき、ユニはこう言ったという。

「……ファンタスティック」

 もしくはブリリアント。そんなわけでいつもにましてほけーとした顔をしたユニはとりあえず朝、焼いたパンをかじりつつ走って出かけようとかしたがさすがにセリオ(偽)に「そりはやみれ」といわれて止めた。
 そういうことで、今のユニに近づくと危険だ。背景に点描を飛ばされる。
 それを知らない夏樹が点描を飛ばされかかった。

「いや、それはないよユニちゃん。なんで私があんな奴等」
「口ではそういいながら、心の奥では引かれているのですね……素敵です」
「いや、かなり、マジに違う」

 夏樹は、本気で否定した。きっぱりと。
 もうちょっと手加減できないものか。

「そうですか」

 ユニは思いっきり気落ちしているように見える。漫画なら黒い縦線が入っているだろう。漫画を読みまくった影響か妙にオーバーアクションになっている。
 普段あまり感情を表に出さないユニなので、これはこれで見ていて楽しいが。

「そうよ。あ、授業始まる」

 そうして、その日は何事も無く終了した。

「と、言うようなことをユニちゃんにいわれたのだが」
「あんたらも。私も言われた」
「ユニちゃんってば、少女漫画好きだったんだねえ」

 帰路。
 3人組は、ユニを送り届けた後、夜道をふらふらと歩いていた。

「まあ、そんな事ないでしょうけどね」
「そうだな」

 むしろさっぱりしたもんだった。
 何考えてんだかわからない祐司を除いても、二人は互いを恋愛対象として考えたことはない。さっぱりない。ユニに言われなかったらそういえば無かったことにさえ気付かなかったぐらい無い。
 夏樹は歩きながらちょっと考えてみる。
 仲良く手なんかつないで歩いているあいつと私。
 私が手作りの弁当なんか持っていったり。
 あるいは。あるいは。
 ……。
 夏樹は色々考えてみた。

「ん。夏樹、何黙り込んでんだ?」

 夏樹は、考え事している所にいきなり話しかけられて驚き、思わず目を逸らした。

「……どーした?」

 真一が目線を追う。夏樹は逃げる。不審だ。

「なにしてやがるんだ?」

 真一が以外に機敏な動きで夏樹の目線に入った。二人の目と目があう。ひとたまりもなかった。

「……はっ、あはははははははははっ!」
「って、なに人の顔見ていきなり笑い出してんだよっ!」

 夏樹は笑った。
 想像した光景が、あまりに馬鹿っぽくて。
 ときめくとかそれ以前に、笑ってしまった。

 そんな二人を遠目に見ながら、祐司、呟く。

「まだまだだねえ」

「ということで、あまり少女漫画のような日常は私の周りには無いようなのです」
「そおかあ。そおかもねえ」
「残念です」
「んー。じゃあ、次はこれなんてどうでしょう?」

 セリオ(偽)が渡したのは、古きよき学園男マンガ。番長とかが無闇に熱く活躍するヤツだ。
 ユニ、早速読む。

「……ワンダフル……」

 やはり色恋沙汰はやや早いっぽい。

(つづく)



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