ユニさんは今、明日お出かけする準備をしています。
 セリオさんは、それを眺めています。

「ユニちゃん、どっか行くの?」
「はい。明日の日曜日、クラスの方々と、お買い物に」
「若いっていいですねえ」

 あまり、若さとは関係ないんじゃないかな、と思うユニさん。
 しかし、実際口に出すことはありません。セリオさんがこういう風にへんな対応を返すのも、もう馴れたものです。セリオさんとしては「若さは関係ないやろ」と、似非関西弁で突っ込んでもらえるのを多少期待してもいるのですが。
 そこらへんは、悲しいすれ違いです。
 ちょっと違うかな。それはともあれ。

「で、何買いに行くんですか?」
「クラスの男の人の、真一さん、という方がいるのですが、この方は軽音楽同好会に所属していまして、このたび新しいギターを買うことになったんです。それで、せっかくだからみんなで行こう、ということになりました」
「なるほどね。ほんじゃ、せっかくだから目いっぱいおしゃれしていきましょー!」
「あ、あの、」
「ふんふん。何がいいかなー」
「あのですね」
「えー。ちょっと待っててね今服引っ張り出してみてみるから」
「お買い物には学校の制服で行くのですが」

 ぴた。
 セリオさんの動作が止まり、ゆっくりとユニさんの方を見返します。

「なんで?」
「お買い物した後、学校の方にも行くからです」
「なんでまた、学校に行くの?」
「ええと、話すとこんな事情です」

「でだ。ところでギターを買いに行くという話なんだが」
「行きゃいいじゃない」
「実は、俺はギターについて詳しくない」
「……あなたは素直に家で受験勉強してなさい」
「まだ早いだろう。てんで、誰か詳しい人いるか?」
「僕も知らないけど、買い物行くなら一緒に行こうよ。ユニちゃんもさ」
「お買い物、ですか? 私も同行してよろしいのでしょうか?」
「もち」
「ま、いいわ。ともかく私には関係ないし」
「待ってよ、なっちゃん。こういうのは、奇数で行くとなにかと寂しいことになりそうなんだけど」
「……良くわかるようなわからないような理屈ね。それなら祐司、あなたが抜ければいいでしょ」
「やだ。それに、ユニちゃんも一緒に行くとすると、やはり女の子がいた方が。僕ら女の子に不慣れだし」
「ああ。そうだな」
「別に私だって手慣れてはいないけど。まあ、次の日曜の部活は午後からだから、午前中になら付き合ってもいいけど」
「そうか。じゃ、俺らもついでに午後学校に行くか。部室で楽器鳴らして見たいし」
「ん。それでいーんじゃない?」
「はい。そうですね」

「とまあ、そんな感じで」
「熱演ありがとう。しかし、ユニちゃんもクラスの人とお出かけなんてはじめてだから……少し準備していった方がいいかもね」
「何を、でしょうか?」
「ん。ちょっと待ってね」

 セリオさんは、押し入れ(現セリオさんの個室)に潜り込み、なにやら筒状のものを取り出してきました。

「吹き矢。マサイ族の矢には毒があるのよ。これを持っていって、怪しげな奴がいたらぷっと一吹き。どう?」

 セリオさんは何処からそんなものを仕入れたのでしょうか?

「……はい。ありがとうございます」

 ユニさん、素直に受け取ってはいけませんってば。

(つづく) 


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