ぱちぱち。
 私はつめを切っています。
 発見したことなんですが、私はつめが伸びます。
 どういう意図でつけられた機能なのか良くわかりませんが、あまり伸ばしておくと危ないので、ときどきつめを切ります。
 そして。
 ちょっと、ひとに言うと気持ちわるがられてもしれませんから、誰にもいっていないことなのですが。
 私は、切ったつめをびんに詰めて集めています。
 やっぱり、ちょっと変でしょうか?
 これをはじめたのは、まだここに来る前、研究所にいたときからです。
 その時、私には個人用のスペースが与えられていました。
 そこで、自分のつめが伸びること、そしてつめを切ることを覚えました。
 最初につめを切ったとき、私はそのつめをしばらく眺めていました。
 わたしのからだのはへん。
 きりはなされたかけら。
 むかしわたしだったもの。
 そんな言葉がちらつきました。
 そして、それは私が変化していることの証。
 妙に、そのかけらに愛着、というんでしょうか? を覚えました。
 そして、飲料水が入っていた空のびんのなかに、つめを入れてみました。
 揺さぶるとかさかさと音を鳴らす、私の成長の記録。
 でも、ひとには見せていません。
 自分でもちょっと変だと思うからです。
 
 この家に住まわせてもらうことになったとき、備品入れの箱の中に忍ばせておきました。
 目立たないようにカモフラージュしておきましたが、見つかってないかどうかはわかりません。
 備品が届いたときはどきどきしましたが、びんは何事も無く入っていて、すこしほっとしました。
 そして、わたしの行動は続いています。

 ぺりぺり。
 セリオさんに貼ってもらったバンソウコウを剥がしてみました。
 きずあとにはかさぶたが出来ています。触ってみても、それほど痛みはしません。
 でも、なんだかむずむずしました。
 そっと、かさぶたを剥がしてみました。ちょっと、ひりっとしましたが、そもそもたいしたこと無いけがなので、もうあまり痛くもありません。
 かさぶたを剥がしきると、指には赤い線が残ります。やっぱりちょっと痛くて、やらなきゃ良かったかな、とか思いました。
 かさぶたを眺めます。
 あまり、面白いものではないような気もします、でも。
 わたしのからだが、きずから直ろうとした記録。
 わたしは、つめのびんを見てみました。
 それから、かさぶたを見て。

 わたしのびんは二本になりました。

 おまけ。
 わりと後のこと、びんがセリオさんに見つかったことがありました。
 セリオさんは、その時私に「吉良吉影のファンなんすか?」と聞いてきました。
 どういう意味なのか、良くわかりませんでした。

(つづく) 



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