10月10日は体育の日。
 みんなは、町の運動会に来ています。

「いくらすることが無いからって、なんでこんな所に来ているんだろう?」
「何来てから言ってんのよ。嫌なら来なければいいだけの話じゃない」
「むー。つっても、やっぱ暇だったしなあ」
「ああ、そういえばあんた、あの、ロボットのユニちゃん? だっけ? 部活に入れたんでしょ」
「ん? ああ、なんか成り行きで」
「でも、何にもしてないって話じゃない」
「むー。そうとも言うな」
「ちゃんと活動しなさいって」
「ああ、俺も何するか考えている所」
「そういうのは、前もって考えておきなさいって」

「そうですねえ。やはり、前もって決めておいた方が良かったでしょうか?」
「そこまでいかなくても、やっぱりどんな種目があるかぐらいは知っておいた方が良かったんじゃないの? どれが自由参加なのか解らないし」
「一応町民である以上、大抵出れると思いますが」
「……私は、これに出たいです」
「どれ?」

 子供障害物競走。

「……これ?」
「……あ! これ!」

 賞品:DXシャンバイザー

「欲しーい!」
「ですよね?」
「……そんな何年も前に終わったような作品……」
「何か言いましたか?(やや迫力込み)」
「言ったのでしょうか?(同じく迫力込み)」
「いや、別に(何故ここまでこだわるんだろう?)」

「……うーん」
「ん? あ、誰かと思ったら祐司じゃない。こんなところで何悩んでるの?」
「ワタアメの袋……アンパンメソにするべきかDRYmonにするべきか……」
「……まあ、あんたが悩むなんてそんなことかもね。中身同じなんだから、どっちでもいいんじゃない?」
「いや、これには僕一流のこだわりが」
「はいはい。好きになさい」

「そうか。では好きにさせてもらうとしよう」
「はあ。まあ、いいんですけどね。お客さん」
「とうっ!」
「え? な、なんだとっ? い、一度に輪を10個投げて、それをことごとく入れるとは……」
「ふっ、だからいっただろう? 私にはこれでもぬるいぐらいなのだ。まして一個ずつなど、簡単すぎて話にならんのだよ」
「なげえことテキ屋やっているが、あんたみたにすげえ奴ははじめてだぜ。さあ、賞品を持っていってくれ」
「いや、10個も持っていったら、商売あがったりだろう。まあ、私はいいから、そこのお嬢さんにその特大クマチュウでもあげてくれ」
「おおっ、あんた、いい羽振りだねえ」
「はっはっは。そんなことはないさ」
「あの、私そんなもの要らないんですけれど」

「ってーか、何やってんだ姉貴?」
「む? その声はまい弟ではないか」
「いつも休日出勤ばっかしてんのに、今日はこんな所にいるのか?」
「ふふん。祭りが私を読んでいるのだよ」
「……はあ、生まれた時から弟やってるけど、いまだにあんたの口調には馴れん」
「まあ、それはそれ。生まれの不幸だと思ってくれ」
「なんだそりゃ?」
「なんでもいいさ。あんず飴でも食うか?」

「ぱくぱく」
「もぐもぐ」
「君らを見ていると、ロボットは普通ご飯を食べないというのを忘れそうになるなあ」
「いいじゃないですか。これも我々が進化の末に手にした能力です」
「です」
「そーなの? まあ、いいけどさ」
「じゃ、食べた所で次、行きましょーか!」
「はい」
「元気だねえ……」
「ご主人様も何かしらしましょうよ」
「しましょう」
「いや、僕運動苦手だし」
「大丈夫! きっとご主人様なら、"主人公修正"が入って、通常の3倍のスピードで走れますから!」
「ボディ・カラーは赤ですね」
「なんだか解らないけど、そういう事はないと思う」
「駄目ですよ。何事もやる前から諦めちゃ」
「……セリオさん、そろそろ次の種目の時間です」
「おー。じゃ、行ってきます」
「ん、行ってらっしゃい……僕も何か食べようかなあ?」

「おう。まい後輩ではないか。こんな所で何をしているのかね?」
「あ、先輩。なんかひさしぶりですね。何かしていたんですか?」
「うむ。副業をちょっとな」
「相変わらず不思議な人ですね」
「そっちはどうだ? 例のメイドロボくんとはうまくやっているか?」
「はあ。一応、海行ったりもしましたが」
「はっはっは。その話は正直ちと思う所あるのでおもむろに叩く」
「いたっ。何するんですか先輩」
「まあいいってコトいいってコト」

「なかなかいい成績残せたねユニちゃん」
「はい。でも、セリオさんの運動能力にはかないません」
「まあ、これは練習して神経回路練熟させなきゃいけないからね。時間がいるよ」
「はい。……あ」
「あ? なに?」
「あの、知っている方がいたもので」
「え? 誰?」
「ちょっと、挨拶してきます」
「うい。私はご主人様の所にって、いねえし」
「おトイレか何かではないでしょうか?」
「そーだね。ここで待ってよ」

「あ、セリオタイプだ」
「あ、ほんと。この頃いろんな所で見かけるわね」
「セリオタイプも最近は安くなってきたからね」
「それでも高いけど」
「そーともいうねー」
「それにしても、なぜあのセリオタイプは学校の体操服を来ているのかしら?」
「しかもブルマだしね」
「きっと主人の趣味ね」
「そーだね。あ、あの人じゃない?」
「むー。遠いから細かい所は見えないけれど……おとなしそうな顔をしているわね」
「でも、きっと本性はアレな人なんだろうね。きっと」
「人は見かけによらないわねえ」

「……むう。ユニちゃんは着やせする方か?」
「はい? 何か言いましたか?」
「いやなんでも。しかし、何だって体操服?」
「はあ、セリオさんが『運動会っつたらこの服っしょ』と、私の備品から」
「セリオって、セリオタイプだよな。一般的に、そういう事言うキャラには見えないんだが」
「え? そんなことはないと思いますけど」
「まあ、付き合ってみると色々解るんだろな」
「はい。そうだと思います」

「よーし! これだぁっ」
「……何?」

 持久走、あるいは麗しき我が町を必死こいて走ろう。

「持久走ぅ〜」
「激しく不満そうですね」
「いや、僕今運動不足気味で」
「だからこそ! 現代人に欠けたもの、それはパワー! オロチドッポとは言いませんから、せめて末堂なみには!」
「……ま、やってみるか」
「はい。頑張りましょう!」

「とは、言っ、たもの、の……この、町って、こんな、に坂、多かった、け?」
「ご主人様っ、ファイトです!」
「元気、そうだ、ねえ」
「そりゃもう」
「……はあ。やっぱり、運動、不足だ、先、行って、ても、いいよ」
「え? でも」
「いいから、さ、ゴールで、待って、てよ」
「……はいっ!」

「ごーる!」
「祐司……お前無闇に元気だなあ」
「あ、しんちゃん。来てたんだ」
「ああ」
「持久走、参加しなかったの?」
「こういう疲れることはパス」
「むー。そんなこっちゃいけないよ」
「っと、夏樹が来たな」
「あ、祐司、どれぐらい、前に、来た?」
「そんなに差ねーよ。一分無かったんじゃないのか?」
「うん。僕も来たばっか」
「かなり、余裕、あるようね」
「そうだな」
「ったく、こっちは、運動、部で毎、日運動してる、ってのに、なんで、帰宅部、のあんたに、勝てないのかしら?」
「にゅ? 僕運動してるよ。毎日」
「そーなのか。何やってんだ?」
「ヒミツ」
「……ったく、この男は」

「ふっ、ごーるいん!っと」
「お疲れ様ですセリオさん」
「さあ、待つ!」
「は?」
「待ちます」

 日頃の運動不足もあいまって、いかんともしがたい。
 息が切れる。脇腹も痛い。頭がふらふらする。
 苦しい。
 なんだってこんな事しているんだろう?
 うん。
 でも、大丈夫。
 つらい時間なんか、すぐ終わる。
 そうさ、ちょっとの我慢だ。

『頑張りましょう』
『ファイトです!』

 ……。
 苦しいこと、か。
 あれ?
 なんで苦しんでるんだろう?
 手も足も動く。
 心臓はリズムを刻む。
 景色は、ゆっくりとでも、歩くのよりは早く流れる。
 空を見る。
 秋空が広がる。
 なんだ。
 こんなにも、楽しいじゃないか。
 そうだ。彼女は、笑っていたじゃないか。

「……来たようですね」
「よっしゃー、よくやりましたぁ!さあ、走り抜けて来なさーい」
「あ、転びました」
「えっ!?」
「怪我をなされたかもしれません。助けに行かなければ」
「待って。ユニちゃん」
「え?」
「うん。待って」

 痛い。
 うー。
 一度止まると再開するのが辛い。
 転んでしまえばなおさらのこと。
 あう。
 アスファルトがひんやりして気持ちいい。
 でなくて。
 立ち上がらなきゃ。
 ぐっと力を入れようとする。
 ……入んないし。
 ゴールはあとちょっと、あとちょっとなのに。
 待っててって、言ったのに。

 そのとき、僕の名前を呼ぶ声がした。
 代名詞ではない僕自身の名前。
 顔を、上げる。
 セリオが見える。
 腕を振り回して。
 僕の方を見て。
 叫んだ。

「がぁんばれー!」

 ……。
 おし。
 やろうじゃないか。

「ご主人様ご苦労様ですお疲れです大丈夫ですか心疾患とか起こしてませんかスポーツドリンクでも飲みますか? 転んだとき怪我とかしませんでしたか!?」
「丘の、上にさ」
「はい? 幻覚でも見えてきましたか?」
「スポーツジムが開店したよねえ……マジメに通おうかどうか考えるてみるよ……しかしああいう所って、どうなのかな?」
「よしっ、それだけ言えれば上等ですっ」
「あはははははははは……運動しよ」

 HMX−17ユニはそれを見ながらひとりごと。

「まだ、かないませんね」

(つづく) 


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