学校の帰り道で、私はその犬さんに会いました。
 ここは小さな公園です。犬さんはそこにいました。
 小さい体に、強気な瞳。
 初めて会ったとき、じっと私のことを見ていました。
 セリオさんに聞いた話によると、これは「ガンとばし」という行動です。
 これに負けてはいけないそうです。
 私は、負けじと犬さんを見ました。
 じー。
 じー……。
 ……。
 負けました。
 私は目を逸らしてしまったのです。
 すごい迫力です。ただの犬さんではありません。
 犬さんは私に擦り寄ってきました。
 私は敗者なので、ばいしょうきんを払わなければならないのです。
 鞄の中を見てみました。
 犬さんが喜んでくれそうなものはありません。
 犬さんはじっと私を見ています。
 その目は「なんやろくなもんがないのうねえちゃん」と言っているようでした。
 多分、セリオさんならそうアテレコしてくれます。
 きょろきょろ……。
 私は、近くにコンビニエンスストアを発見しました。

 コンビニエンスストアでパンを買いました。
 さっそく犬さんに献上しました。
 ぱくぱく。
 犬さんはおいしそうに食べています。

「犬さん、おいしいですか?」

 私はそのパンを少し食べてみました。

「おいしいですね」

 ……あれ?
 どこかで、これと同じことがあったような……。
 一生懸命思い出そうとしても、思い出せないのですけれど。
 ……そうか、これは。
 私のお姉さんたちの誰かの記憶なのですね。
 そして。

「やっと、おいしいと言う気持ちが分かりました」

 次の日。

「こんにちは犬さん。今日はりたーんまっちに来ました」

 つまりは、雪辱戦です。
 私は覚悟を決め、犬さんと向かい合いました。

 負けました。

「犬さん、今日はセリオさんがお弁当を作ってくれたんですよ」

 私がご飯を食べられることを知ったセリオさんは「なんやそれならはやくゆーたらえーんに」と似非関西弁を使いながら、私にお弁当を作ってくれたのです。

「とってもおいしいんですよ。犬さんにもおすそ分けです」

 犬さんはおいしそうに食べています。
 私も、おいしい料理を作れるようになりたいです。
 

 さらに次の日。

「……犬さん?」

 その日、その公園に犬さんはいませんでした。

「あれ?」

 しばらく探してみましたが、犬さんはどこにもいませんでした。
 ……。
 どこかにいってしまったようです。
 仕方ありません。帰りましょう。
 まあ、別にどうと言うことでもありません。
 会って三日、会った時間を足しても1時間にもなりません。
 それだけのことです。
 公園を去るとき、後ろを振り向いて言いました。

「さよなら、です」

「ただいま帰りました」
「お、ユニちゃんお帰り〜。お弁当出しといてね〜」

 セリオさんはお風呂の掃除をしているようです。
 いわれた通りお弁当を出そうとして、私は、その中身が少し残っていることに気付きました。
 犬さんに食べてもらおうと、残しておいたのです。
 ……。
 食べちゃいましょう。お腹も空いています。
 ……。
 さめたお弁当。

「おーし。風呂掃除終わりっと。って、あれ? ユニちゃん?」
「……」
「ユニちゃん……泣いてるの?」
「……え? 私は……」

 別に、悲しくなんか無いはずです。
 でも。

「悲しいことが会ったのなら、泣いた方がいいですよ」
「そう、なのでしょうか?」

 セリオさんは私を優しく抱きしめてくれました。

 さよなら。
 別れること。
 いつまでも一緒にはいられないと言うこと。
 私にとって最初のさよなら。
 ……もしかしたら、二度目の。

 で、なんですが。
 次の日公園にいってみたら、犬さんはちゃっかりいまして。
 その傍らには、別の犬さんもいました。
 二人はとても仲がよさそうです。らぶらぶな感じです。

「……よろしくやってらっしゃるようですね」

 世の中、なかなか奇麗にはまとまらないようです。
 その方が楽しくて良いかもしれませんが。
 ともあれ、私はパンを3つ買いにいきました。

(つづく) 


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