「……?」
ただその機械の少女と会っただけならば、別に何もしなかっただろう。夏樹はあまりそういう事を気にしない。
というか興味が無い。
しかし、その日は少し事情が異なっていた。
(なんで、ホウキを持って突っ立ているのかしら)
廊下で、ホウキを持って、ユニはただ佇んでいる。
しばらく観察してみたが、直立不動のまま動く様子はない。
ひょっとして、壊れたのか?
ちょっと薄気味悪くなりながらも、さすがに放っておくことも出来ないので、しぶしぶ夏樹はユニに話しかける。
「あの、あなた? 大丈夫? 壊れたの?」
ユニは、ゆっくりと夏樹の方に振り向き、
「……いえ。私は正常に稼働中です」
「ならなんで止まってんの? 電池でも切れた?」
「いえ……あの、お掃除をしようと思ったのですが」
「はあ?」
確かに、ホウキを持っているからには掃除をしようとしているのだろう。
だが何故それで突っ立っている必要があるのか?
「すればいいじゃない」
「いえ、あの、お掃除、とはどのようにすればよいのでしょうか」
夏樹はユニの言動をしばし頭の中で反芻し。
呆れ返った。
「って、あんた掃除の仕方も知らないの?」
「はい。申しわけありません」
「……マジ?」
「はい。やはり、メイドロボとして、掃除ぐらい出来ないの駄目でしょうか?」
「いや、ロボとしてっつーか学生として駄目ね。それは」
「……すみません」
ユニはすまなさそうにしている。
夏樹はやれやれ、と思いながらも、
「しょうがない。ちょっとホウキ貸してみなさい」
「はい」
「こうやって、ゴミを一ヶ所に集めて、で、ちりとりで取って、あとはモップがけすれば終わり。それだけでしょ」
「……ゴミを一ヶ所に集めれば、ちりとりで効率よく回収できる。合理的ですね」
「いや、そんな難しく考えなくても言いから。ちゃっちゃとやっちゃいなさい」
「はい」
夏樹のアドバイス通り掃除を進めるユニ。
「終わりました」
「ほら、簡単だったでしょ。じゃあ、私は帰るから」
「はい、ありがとうございました」
夏樹はその場から去ろうとする。
ユニは教室に戻っていった。ホウキを片づけて、モップがけをするつもりだろう。
夏樹はしばらく進んだ後、ふと、後ろを振り返ってみた。
そこには、モップを持って佇むユニがいた。
「……」
どうも、こういうのは自分のキャラクターとは違う気もする。
とか思いつつ、夏樹は回れ右した。
「申し訳ありません」
「あー、いいわよ別に。それよりも掃除ぐらい一人で出来ないと。社会に出てから困るわよ」
「はい。そうですね」
まったく、こいつを作った奴は、なんだってこんな風にしたんだか。
掃除ぐらい最初から教えておけばいいのに。
とか思いつつ、一緒にモップがけしている夏樹。
「そういえば、あんた真一のとこのクラブ入ったんだっけ?」
「はい」
「なにやってるの?」
「それが、真一さんは『部活って、なにやればいいんだろな』とおっしゃっていました」
「はあ。まったく、あのあんちゃんも、後先考えないで行動するからねえ」
夏樹は呆れる。ユニはそれを見ている。
なんにしろ、ユニは廊下の掃除方法を覚えた。
(つづく)