*
「(つー)ふっふっふ。よしこさん? まだ汚れが残ってますですよ」
「すみませんおかあさまいまそうじしなおします」
「きぃっ、口答えするんじゃありません(ぺちっ)」
「あう」
その日家に帰ると、セリオ(偽)とユニちゃんが「壮絶!嫁姑戦争!」ごっこをしていた。
そろそろ、嫁の復讐のパートに入るはずだ。
当人にとってはかなりしゃれになってないんだから、止めなさいとは言うんだけど、気に入ってしまったのかやめる様子はない。
ユニちゃんの方は淡々としていて、いまいちのって無いように見えたけれど、あれはあれで気に入っているらしい。奥が深い。
「おかあさまのくつにがびょうをいれてみました。ふくしゅうです」
「ああっ! 酷いわっ! この鬼嫁がっ!」
「……ぶい」
……楽しんでるん、だろうなあ。なんか違うネタが混じっている気もするけど。
「ああっ! としおさん! よしこさんが苛めるわ!」
「誰がとしおさん? 誰それ?」
「いやいやご主人様、のってくれな困りますよ」
「頑張って下さい」
「そんな事言われても困るんだけど」
妙に賑やかな二人組。
その二人を見ながら、思う。
この部屋を広く感じていた頃のことを。
*
暗い部屋に帰ってくるのも馴れた。
1人きりの食事も。
まあ、問題は色々あるんだろうけど、一番大きいのは、その生活に不満を抱かない僕自身だったんだと思う。
寂しいと思ったことも無い。
こんなものなんだろと思っていた。
あれは、いつの頃だったんだろう?
もう、随分前の気もする。
彼女に出会ったのは。
彼女に会ったとき、どんな風に思ったんだろう?
随分強い印象を受けたはずだ。
けれど、もう思い出せない。
もっと強烈な印象を持っている子が今ここにいるからだろうか?
今、『あのセリオ』は何をしているんだろう?
幸せにやっているかどうか、それはちょっと気になる。
*
「ヘイご主人様! 何考え事してますか?」
「どうかしましたか?」
「ん……ああ、何でもない」
「とにかくご飯ですよご飯! 今日の夕食はラーメン! しかも何故かインスタントではなく手打ち麺かっこ自作かっこ閉じ! この意味の無い力の入れ方がポイントです」
「です」
「はは、うまくいった?」
「そりゃもうばっちりっすよ。ユニちゃんにも手伝ってもらったんですよ」
「ばっちりです」
「じゃ、ご飯にしよ」
「はい!」
あの時は広く感じた部屋も、こんなに狭く感じる。
静かに感じた世界は、こんなにも賑やか。
過程はともあれ。今はこんな感じ。
「……どうかなさいましたか?」
「ん? いや、ちょっとね」
そして、僕がつけた名前を持つ少女。
はたして、これからどうなっていくんだろう?
まあ、なるようになるか。
今、結構しあわせだし。