その部屋の特徴。
 床に描かれた怪しげな魔法陣、壁際の棚には、怪しげな子瓶(どれも中には良く分からないものが入っている)人の頭骸骨を模した(と思われる)置物。変な本の数々。閉め切られたカーテン。

 その部屋の前で、ユニは佇んでいた。
 真一はユニに手招きをして、

「どうした? 中入れよ」
「はい……なんというか、個性的な部屋ですね」
「やっぱそう思うか? なんでも、何年か前の先輩で、オカルト研究会をやっていた人がいて、その人が卒業するとき、記念です、とかいって残していったらしいんだ」
「なぜ今でも残っているのですか?」
「ああ。これは噂なんだが……」
「はい」
「なんでも、ここを違う部活動で使おうとして、部屋を片づけようとした人もいたらしいんだが……そう言った人は残らず、原因不明の事故に遭い、部屋片づけを全うできなかったらしいんだ。以来、ここは禁じられた部室として当時のまま残っている」
「それではなぜこんな所へ?」
「ああ、ここが俺の同好会の部室だから」
「は?」

 真一は、なんだか判らないものの中に埋もれていた一本のギターを取り出して、

「ようこそ、我が軽音楽同好会へ。ちなみに部員募集中」

「ねえなっちゃん。しんちゃんどこ行ったか知らない?」
「知らない」
「……あう」

 場所は戻って昼休みの教室。

「むむ。しんちゃんは一体どこへ?」
「学食とかじゃないの?」

 祐司はちっちっちと指など振りつつ

「いや、今しんちゃんは倹約のため昼食を抜いているハズ。それはないね」
「だから、何だってそういう事を知っているのあんたは」
「いやあ、僕ってある意味無敵だし」
「いや、それなんか意味あるの?」
「無い。それはそれとして、じゃあしんちゃんどこ行ったんだろ」
「あんたのすることにいちいち理由を問うのは愚かなことは知っているけどあえて聞くと、なんで探してんの?」
「普段は特に理由も無く行動する僕だけれども今回は理由があるよ。ほら、しんちゃんもいないけど、転校生のユニちゃんもいない。これは何かあると、僕はふんだんだ!」
「確かにいないけど。でも教室にいないのはそいつらだけじゃ……」
「む? 電波が来たっ! きっとしんちゃんは部室にいるに違いないっ!」
「無いんじゃないの? って、もう行っちゃったか。はあ。元気の良いことね」

 夏樹は、自分の食事を再開し、

「ま、私には関係ないけど」

「軽音楽同好会、ですか」
「そう。まあ、字面としてはそうなるけど、実際は同好会じゃないんだ」
「なぜですか?」
「会員俺しかいないから。学校に認められるには5人いるんだってさ」
「そうなのですか」
「そう。だから、現在の所俺は、誰も使ってない部室に入り浸っているただの生徒」

 真一は、ギターを弾く仕草をする。
 ユニはそれを見ている。

 間。

「それで。なんなのですか?」
「いや……なんなのかって聞かれても困るんだが」
「私を呼んだのですから、何か用があるんじゃないんですか?」
「あーその、なんつーか?」
「?」
「お前さ、うちの同好会、入らない?」
「はい。いいですよ」

 さらに、間。

「秒で答えたな今」
「はい。問題ありませんよ。私は特定の部活動に所属することを禁止されてませんし」
「ああ。そうなの」
「それよりも、一つ聞いても、よろしいでしょうか?」
「え? なんだ?」
「なぜ、私にその様なことを言うのですか?」

 真一は頭を掻いて、

「いやなんつーか……思いついたときに目の前にいたから」
「そうですか」

 ユニはあいかわらず表情を崩さない。

「それで、私は何をすれば良いのですか?」
「あー、うん。そうだな。とりあえず」

 と、そこで、部室の扉がバタンと開かれた。

「ふっふっふ、しんちゃん見っけ! と、ユニちゃんも見っけ!」

 この馬鹿っぽいしゃべりは、星野祐司だ。

「何してんの? はっ! こんな密室で男女が二人きり……いやあ、僕お邪魔だった?」
「突然出てきて何言い出すんだてめーは。別に何もやってねーよ」
「はて? しんちゃんは何もしていない……と言うことはもしかして! しんちゃんは男の人が好きな人?」
「何故そーゆー風に理論が飛躍するんだてめーは!」
「いやーしんちゃんに襲われるー!」
「んなことするかっ!」
「助けてユニちゃーん」
「……頑張って下さい」
「そこも良く分からん応援しないように」
「まあ、冗談はさて置き、何してたの?」

 真一は呆れ返った顔で、

「お前態度変えるの早えよ」
「そーかな?」
「私が真一さんの部活に入ることになったのです」
「え? そうなの? ヒドいやしんちゃん。僕が入れてって頼んでも入れてくれなかったのに!」
「……おめーがいるとワケわかんなくなるんだよ」

 そんなこんなで、昼休み終了5分前の予鈴がなる。

「あ、もう昼休み終わるね。そんじゃ、教室に戻ろ」
「おいお前何事も無かったかのように帰るな。この子にまだ誤解されてんじゃないのか?」
「安心して下さい。人間の方は、色々な愛の形があると、私も存じていますから」
「あっはっは。ユニちゃん賢ーい」
「そーじゃねーだろ」

 ともあれ、一同は教室に戻る。

「とまあ、そう言った感じです」
「ふーん。なんだ、結構愉快なことあったんじゃないですか」
「学校かあ。いいねえ」

 そして、ここはユニが今住んでいる家。夜。

「それじゃ。もう遅いし、そろそろ寝よ」
「はいです。ご主人様。じゃあ、ユニちゃんは押し入れの下の段ね」
「何故押し入れで眠るのですか?」
「古来より、押し寄せたロボットはここで眠るものと相場が決まっているからです」
「それは実例が一個しかないんじゃないのかな?」
「いいじゃないですか。細かいことは。ねえユニちゃん?」
「はい。そうですねセリオさん」
「ま、いいけどね。そんじゃ、おやすみなさい」
「はーい」
「はい。おやすみなさいませ」

 まだ、セリオさんとご主人様に言っていないことが一つあります。
 真一さんが、帰り際に貸してくれた一枚の音楽ディスク。
 今、押し入れの中で携帯プレイヤーで聞いています。
 そこから聞こえてくる音楽は、なんか攻撃的で、歌詞が抽象的でわかりづらかったのですが、なんとなく、そう、わくわくするものでした。
 明日からは部活もあります。
 たのしみ、です。

(つづく) 



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