世界は、こんなにも広い。
*
HMX−17型、ユニは、質問攻めにあっていた。
「ユニちゃんって試作機なの?」
「はい。私はHMX−17型のいくつかある候補のひとつ、U型です」
「何でこの学校にきたの?」
「この学校が家から近いためのようです」
「おうちって、やっぱり研究施設とかに住んでるの?」
「いえ、私はモニター機体としての役目もかねているため、一般のユーザの方のお家に住まわせてもらっています」
「CPUには何が使われているの?」
「申し訳ありませんが、私のスペックに関する事項は機密となっています」
「ロケットパンチ、出る?」
「……おそらく出ません。残念ながら」
そんなこんなだ。
もし彼女が人間だったならば、クラスの連中がこんなにも集まることも無かったかもしれない。
しかし、彼女はロボット。こんな転校生が普通に受け要られるほど、この国は進んでいなかった。
しかしそんな中で、明らかに不機嫌そうな人物がいる。
彼女の隣の席に座っている月本真一だ。
時間は流れ、昼休み。
月本真一はふらふらと教室を出る。
ユニは、ホテホテとそれについていく。
……。
「……なんか用か?」
「……いえ、特に」
「そか」
真一は歩き始める。
ユニはついていく。
「やっぱり、なんかあるだろ」
「いえ……あの、ところで」
「なんだ?」
「教室にいたとき、何か不機嫌そうでしたが、私のせいでしょうか?」
彼女は、自分のまわりに人だかりが出来ていたことを言っている。
「……あー。いや、そんなことない」
「そうでしたか」
「それが言いたかったのか?」
「はい。まあ」
「……にしても、俺って不機嫌そうに見えるのか?」
「はい」
「なんで俺が黙っているとみんな不機嫌そうにしてるって思うんだろうな」
「そのような顔立ちをしているからではないでしょうか?」
「結構言うな。お前」
「どうも」
ユニは軽く会釈する。
皮肉って事がわかってないんだろうか?
真一はふとそんなこと考えたが、特に気にするほどでもないので、振り返ってまた歩き出した。
やっぱり、ユニはそのあとをついていく。
「まだなんかあるのか?」
「……はい」
「なんだ?」
「あの、食堂に行かれるのではないのですか?」
「え?」
「昼休みが始まってすぐ教室を出られたので、てっきりそうだと思ったのですが」
「いや、俺今昼飯食ってねーから、食堂には行かないんだが。なんだ? 転入そうそうさっそくパシリでもさせらてんのか?」
「いえ、そうではありません」
「じゃ、なんで?」
「私の食事のためです」
*
ユニは食事する。
食事メニューはかなり限定されているが。
「最近のロボットは人間のメシ食うのか?」
「いえ。私は特殊です。通常の食料を摂取することで動力源及び身体の維持・拡張に用いるシステムらしいですが、詳しいことは私にもわかりません」
「そうか。最先端の技術ってすげえな」
「どうもありがとうございます」
そう言いながら、購入したヤキソバパンを食べているユニ。
真一は、そのユニを、正確に言うとヤキソバパンを見ている。
「あの、食べますか?」
ヤキソバパンを差し出すユニ。
「食べますかって、食べかけだろがそれ」
「……すみません。これを買うだけのお金しか持ちあわせていなかったので。次回からはもう少し余裕を持っておきます」
「いや、そこまでせんでもいいんだが。別に大した事してないし」
「はい。わかりました」
ユニはあっさり引き下がった。
「……おわり?」
「はい。なにか?」
「いや、別にいいんだが」
なんとなく釈然としない気分ながらも、用は済んだようなので、そこから去ろうとする真一。
引き続きそれについていくユニ。
「お前は犬か」
「いえ、違います」
「なぜついてくる?」
「いえ……どこにいかれるのかな、と思って」
「どこ……つーか」
真一はしばし考え事をし、やがて何か思いついたかのような顔をした。
「そーだ」
「なにが、ですか?」
「おい、ちょっとついてきてくれるか」
「? はい。問題ありませんが、どこへ行くのですか?」
「まーいいからいいから」
真一の様子が違う。
なんとなく、嬉しそうだ。
*
おなかはいっぱいになりました。
まずは一安心です。
でも、そのために彼には迷惑をかけてしまいました。
彼はとてとてと歩き、やがて人気の無い棟へとやってきました。
これからどうなるのでしょうか?
ひょっとして、転入そうそうヤキ入れられたりするのでしょうか?
そうなったら、私はどうすれば良いのでしょうか?
人間の世界は、なかなか複雑です。
(つづく)