どんどんどん…。
 ぴーひゃらら。
 遠くで太鼓の音や笛の音が聞こえます。
 私は今、ご主人様と一緒に近所の夏祭へと来ています。
 私がお祭りに行きましょうと言った所、心優しいご主人様はぜひ行こうと言って下さいました。ありがたいことです。夕ご飯に苦手なジャガイモを出すのは勘弁してあげます。
 お祭りへは、この日のために用意しておいた浴衣を着て行きました。
 私は、ご主人様に少しでも好印象を持ってもらえるように、自分の服装には気を配ります。
 多分に、私の趣味も混じってますけど。

 お祭りです。私は「祭り」のデータをあらかじめダウンロードしていました。
 でも、実際に見ると迫力は段違いです。
 たこやき、いかやき、おこのみやき、かきごおり、やきそば、わたあめ、えとせとら。
 どれも美味しそうです。
 自分ではあまり分からないのですが、私の感情構成は他の姉妹達と少々異なっているらしくて、たとえば私は食べ物を食べるのが大好きです。
 栄養にならないのは、ちょっと勿体無いですけど。

 私は、いっぱい食べました。
 こんなにたくさん食べたのは、初めてかもしれません。
 ふとご主人様の方を見ると、なんだか、ちょっと困ったような、それでいて優しい顔をしていて。
 私はこの顔が大好きです。
 わたあめは、とっても甘かったです。

 …はや?
 ご主人様がいません。
 私が金魚すくいに熱中して「1回に2匹すくう」などの高等テクを披露していたのですが。
 振り向いたら、ご主人様はいなくなっていました。
 …ひとがいっぱいいて、あまり見通しは良くありません。
 どこに行ってしまったのでしょう?
 どうもご主人様はぼぉっとしていて、ふらふらとどこかに行ってしまうことがあります。
 ご主人様は子供っぽい所があるので、知らない人に付いていってしまわないか心配です。
 …早く見つけないと。

 とてとてと歩いていると、意外とあっさり見つかりました。
 ご主人様。…と、誰でしょうか?
 少し遠いので良く見えません。射的用のオモチャの鉄砲の銃口に息を吹きかけたりしてます。
 変な人でしょうか?
 その人はご主人様とおはなしをしています。
 と、その人は、私のいる方を指差しました。
 ご主人様が振り返ります。私たちの目線が合いました。

 ご主人様に、さっきの人は誰なのか聞いてみました。
 先輩だよ、と答えてくれました。

 ぱちぱちぱち…。
 線香花火が燃えているのを、私はすこし怖がりながら見ています。
 お祭りはもうほとんど終わっていて、人も段々少なくなっています。
 初めて花火を見たとき、とっても驚きました。
 花火が燃えている様は、過電流によるスパークを想起させます。大変です。
 とっても怖かったです。火を見て喜ぶなんて変です。
 線香花火は、ちょっと奇麗だと思いましたけれど。

 お祭りは終りです。わたしたちはおうちに帰ります。
 すこしはしゃぎすぎました。残電力が少ないので、大人しくしています。
 私の横顔を、ご主人様はちらちらと見ています。
 なんでしょう? 顔に青のりでも付いているのでしょうか?
 …少し恥ずかしいです。

 横を歩いているご主人様の顔を見て私は。
 また行きましょうね、と言いました。
 ご主人様は、笑いながら、
 そうだね、と言って下さいました。

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