どんどんどん…。
 ぴーひゃらら。
 遠くで太鼓や笛の音が聞こえる。
 僕らは今、近所の夏祭に来ている。
 人込みが苦手な僕としては家で大人しくしていたかったのだが、セリオ(偽)に逆らうと後が怖そうなので、大人しく従うことにした。
 セリオ(偽)は、どこから調達してきたのか浴衣を着ていた。
 人には無駄遣いは良くないとか言っておきながら、自分の欲しいものはきちっと買う。
 まったく、いい性格をしている。
 
 それほど大きくない祭りだけど、そこそこ人は集まっている。
 セリオ(偽)は物珍しそうに屋台を眺めている。
 …主に、食料関係を。
 この子は、なんでこんなに食いしん坊なんだろう?
 他のメイドロボとは違って、電気ではなく食料で動いているんじゃないかとも思ったが、やっぱり逐次充電を必要としている。
 やっぱり、ただの趣味なんだろうか?

 案の定、セリオ(偽)は食べ物を買い捲っていた。
 祭りの食べ物は少し割高。僕は、ちょっと家計の心配をしてしまう。
 でも、セリオ(偽)は本当に幸せそうに食べているものだから。
 まあ、いいかな、とか思ってしまう。
 甘いな。我ながら。

 …あれ?
 セリオはどこに行ったんだろう?
 たしかそこで金魚すくいをしていて、僕はちょっと喉が渇いたから別の所で飲み物を買って。
 …金魚すくいの屋台はそこかしこにある。
 どれだったっけ?
 僕は、あまり土地勘のいい方ではない。どうもはぐれてしまったようだ。
 まあ、セリオも子供じゃないし。知らない人に付いていったりはしないだろうけど。
 …でも、早いとこ探さなきゃ。

 とぼとぼと歩いていると、見た影があった。
 先輩だ。
 先輩は射的を二挺拳銃でやって、しかも全弾命中させて周囲の喝采を浴びていた。
 まったく、変な特技がある人だ。
 僕は先輩に話しかけ、セリオを見なかったか聞いてみた。
 と、先輩は僕の後ろの方を指差して。
 目線があう。そこにいるのはセリオだった。

 セリオにさっきの人は誰かと聞かれた。
 先輩だよ、と、素直に答えておいた。

 ぱちぱちぱち…。
 線香花火は、静かに輝き、そして落ちる。
 祭りも終るころ。僕らは少し離れた所で花火をしていた。
 セリオ(偽)は花火が怖いらしい。
 少し派手めな筒形花火を使ってみた所、点火と同時に少し離れた木陰に逃げていってしまった。
 だから、あまり怖くないと言う線香花火をやっている。
 なんで怖がるんだろうね? こんなに奇麗なのに。

 祭りは終わり、僕らは家路につく。
 少し疲れたらしく、セリオ(偽)は珍しく大人しい。
 静かに歩くセリオ(偽)の横顔は、とっても可愛いと思う。
 口を開くとああだけど。
 …最近は、それも可愛いと思うけど。
 
 ゆっくりこっちを向いてセリオは言う。
 また行きましょうね、と。
 そうだね。
 きっと行こうね。

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