…。
 寒い。
 外は炎天下。その中をふらふらしながら部屋へ帰ってきた僕を待っていたのは、シベリアの凍土を思い出させるような寒さだった。行ったこと無いけど。
 クーラーの設定温度を見る。
 15度。
 …おいおい。
 いくらなんでも冷やし過ぎじゃないか?
 床には、タオルケット一枚かけて寝転んでいるセリオ(偽)がいる。
 まったく、いい身分だ。
 セリオ(偽)は寝返りを打つ。タオルケットがずれる。
 …やれやれ。
 僕はそっとタオルケットをかけ直す。
 近くにはセリオ(偽)の顔がある。
 …こんな近くで落ち着いて顔を見るのは始めてかもしれない。
 さすがに、整った顔立ちをしている。
 まるで人形のような。
 そりゃそうか。
 黙っていれば、美人さんで通るのにな。
 …。
 耳をすますと、静かな寝息が聞こえる。
 ちょっとほっぺたをつついてみる。
 ぷにぷに。
 …。
 あ、ちょっと動いた。
 目は醒まさないみたいだけど。
 …眠っているな。
 なんで眠っているんだろう?
 充電は…していない。電源コードはつながっていない。
 マニュアルにあった、自己診断モードってやつだろうか?
 それだって、外部から刺激があれば目を醒ますはずだし。
 …まあ、この子に常識は通じないか。
 …。
 目、醒まさないな。
 …。
 醒ます気配はまったく無いな。
 …。
 どきどき。
 …。
 じゃないだろ。
 いかん。なんか、自分が何するかわからない。
 僕はセリオから離れようとして。
 ぎゅっと。
 セリオの指が僕の服の裾を掴んだ。
 一瞬驚いたが、どうも寝ぼけてやったことらしい。
 セリオは眠りつづけている。
 その顔を見つめながら、僕は、そっと顔を近づけて。

 まあ、ここで寝ぼけたセリオの声とかが聞こえるかと思ったんだけど。
 そんなこともなくて。
 だから、僕は。

 …。
 やめた。
 うん。やめとこう。
 そーゆーのは、あんまり好きじゃない。
 …ちょっと惜しい気もするけど。
 僕はセリオの指をほどき、そっと立ち上がる。
 やれやれ。
 とりあえず、クーラーの設定温度を下げて。
 セリオが起きるまで、ゲームでもしていようかな?

 多分。
 僕はその時気付くべきだったんだと思う。
 セリオの様子がおかしいことに。

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