〜 8月9日 〜


〜〜〜〜〜寝室〜〜〜〜〜
(こんこん)ご主人様?
うん。(がちゃ)・・・・・・!!
(ふわっ)・・・・・・? どうしたの?
あ、いや・・・・・・なんか、いきなりいい匂いがしたからさ。
え? 石鹸かリンス? え〜と・・・・・・そんなに、匂いする?
ああ・・・・・・あ、みゃあは? さっきみよりについてったろ?
うん。一緒にお風呂に入れてあげたら、乾かしてるうちに気持ち良くって寝ちゃったみたい。
そっか。あ、見てみ。窓。この部屋からがいちばんよく見えるからさ。
え、なぁに?・・・・・・あっ・・・・・・!!
中庭の花壇。広げたんだ。お前がいなくなってから、交替で水はあげてたんだけど・・・・・・なんかそれだけじゃどーもなって思って。
わぁ・・・・・・。
外が明るければもう少し見栄えもいいんだけどな・・・・・・。
朝になったらいっぱいお花が咲くのかな!?
ん〜・・・・・・たぶん。自信はないけど。
そうなの? 見てみたいなぁ・・・・・・。
気が向いたらいつでも見に来るといいよ。お前の花壇なんだしさ。泊まっていけば、朝顔も見られるし・・・・・・。
うん・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
あは、なんか・・・・・・静か・・・・・・だよね。ふたりだけだと。こんなに静かだったんだ、この家・・・・・・。
ああ・・・・・・テレビでもつけようか?
ううん、いい・・・・・・。
このへんはあんまり車も通らないし、裏は林だしな・・・・・・。夏や秋だと、虫の鳴いてるのくらいしか聞こえなくなるんだよな。
・・・・・・独りで暮らすには無駄に広すぎるからさ、この家は・・・・・・。
ご主人様、わたしたちが来るまでは、ずっとこんな静かな夜ばかりだったんだね・・・・・・。
まあ・・・・・・そうかな。
でも、もう平気だよね。瑞葉ちゃん、あなたの所に帰ってきたんだもん・・・・・・。
みより・・・・・・? なんで、そこで瑞葉が出てくるんだ?
約束、ちゃんと守らなきゃだめだよ。瑞葉ちゃん、ずっと覚えてたんだから。
みより! だけど――
だめ・・・・・・。
・・・・・・。
お願い、言わないで。だめだよ・・・・・・わたし、やっぱりあなたが好きなんだもん。あなたといるのがいちばん幸せなんだもん。
だったら・・・・・・!
だから、それを許してもらえるような事を言われたら、わたし、きっとあなたじゃなきゃ、だめになっちゃう・・・・・・。
みより。なんでだ。なんで、それがいけないんだよ・・・・・・。
・・・・・・わたし、今、宏樹くんに付き合ってって言われてるの。
・・・・・・っ!!
いい人だし、けっこうかっこいいと思うし、お店の友達も、みんな宏樹くんの事知ってるし・・・・・・。
・・・・・・。
いろいろ考えて、それがいちばんいいって思ったの。あなたは本当の約束と想い出を取り戻して、わたしは・・・・・・わたしは、あなたを好きだったひとりの女の子として、もう一度あなたの想い出になるの・・・・・・。
だからわたし、今日はお別れを言うつもりで来たの。今度こそ。前にもそうしようと思ったけど、独りじゃ怖くてできなかった。あなたの前でなんて言えなかった・・・・・・。でも、今度はわたしを受け止めてくれるかもしれないひとがいるから・・・・・・。
そんなの・・・・・・! 前にも言ったじゃないか、想い出だけしか見られるなるっていうなら、それでもかまわないって。
違うの!・・・・・・想い出しか見られなくなるって、ただ、わたし以外の女の子を好きになれなくなるって事じゃないの。もしそれだけだったら・・・・・・。
でもわたし、これ以上あなたを好きになったら、きっとあなたの想い出に帰っちゃう。そこが、あなたにいちばん重なれる場所だって知ってるから。
本当に消えてしまうっていうのか・・・・・・?
ううん、消えるだけなら、あなたの想い出に戻るだけ・・・・・・。でももう、だめなの。わたしがあなたを好きだから! 今度は、きっとあなたも連れていっちゃう。わたしだけを見てくれるようにって・・・・・・。
・・・・・・。
想い出は、あなたには触れられないんだもん。はぐれないように手をつないでもらえない。苦しいくらいに抱きしめてももらえない・・・・・・。
ただそばにいられるだけじゃ嫌だったから、わたしはこうして生まれたのに。あなたがわたしと同じになってしまったら、わたしはあなたとずっと一緒にいられる代わりに・・・・・・もう、二度と触れ合えなくなる。それだけじゃない。あなたは、わたし以外のひとにとっては、死んだのと同じになっちゃう・・・・・・。
!?
わたし、どっちもいやなの! あなたに触れていたいもん! あなたにこの世界で笑っていてほしいんだもん! どんなに辛い別れを繰り返さなければいけないとしても、優しさが痛みにしかならない世界だとしても、あなたが想い出を重ねていけるのは、あなたが生まれたこの世界だけなんだから・・・・・・!!
みより・・・・・・。
消えちゃったら、そこでみんな終わりなんだもん・・・・・・。わたし、それくらいなら、どこかであなたを幸せを願っていたい・・・・・・。
・・・・・・みより・・・・・・。
・・・・・・!
・・・・・・。
・・・・・・だって・・・・・・好きなんだもん・・・・・・!!
・・・・・・。(すっ・・・・・・)
えっ・・・・・・!?
ホワイトデーに、お前に渡そうと思ってた。サイズが合うか心配だったんだけど・・・・・・きっと似合うと思って。
・・・・・・指輪・・・・・・。
本当は、俺はなにも言わないで渡すつもりだったんだ。意味は、お前が最初に思いついた事でいいって思って。困るって思ったなら、まだ早すぎたんだなって事で。だけど・・・・・・。
・・・・・・。
だけど、今は言いたい。お前に言いたくて仕方がない。お前に聞いてもらうためなら、屋根に上って叫んだっていいくらいだ。
・・・・・・。
みより。好きだよ!
・・・・・・!! 
好きだよ。想い出しか見られなくなるとか、そんなのはもうとっくに手後れなんだよ。俺は想い出としてのみよりが好きなんじゃない。だから、俺はもう、お前を独りにはしたくないんだよ・・・・・・。
・・・・・・初めて、わたしのこと、好きって言ってくれたね。(ぎゅ・・・・・・)
言わなくても、分かってると思ってたけど。だけど、それでも言いたくなった。言葉にした方が、ずっと伝わりやすいんだもんな。そんなのは、分かってるつもりだったんだけどな・・・・・・。
わたしも、好き・・・・・・。
・・・・・・。
んっ・・・・・・。
みより。
・・・・・・ぁ・・・・・・
みより・・・・・・。
好き・・・・・・大好き――――。
・・・・・・!?
(トゥルルルルルル! トゥルルルルルル!)
・・・・・・。
・・・・・・電話・・・・・・。
それより、いま・・・・・・
きっと、大事な電話だよ。そんな気がする・・・・・・。
・・・・・・。
胸が痛い・・・・・・から。そういう気がするの・・・・・・。
・・・・・・分かったよ。・・・・・・・はい。あ、あの時の・・・・・・・え? 倒れた!?――市立病院ですね、分かりました。すぐに行きます。それじゃ!
・・・・・・。
お前の言うとおりだったな。・・・・・・さっき、瑞葉が倒れたって。病院に運ばれたらしい。
うん・・・・・・行ってあげて。
みよりは・・・・・・。
わたし、待ってるから。今はご主人様が瑞葉ちゃんの保護者なんだもん。行ってあげないと。
・・・・・・うん。分かった。それじゃ、うちの事は頼むよ。
うん。行ってらっしゃい・・・・・・。
・・・・・・。



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