〜 8月9日 〜


〜〜〜〜〜市立病院〜〜〜〜〜
(こん、こん)
はい。
(がちゃ)瑞葉、俺だけど・・・・・・。
あ、こんばんは!(ぺこり)
あ、祐美さん。さっきは電話、ありがとう。
いえ・・・・・・。
瑞葉の具合は?
さっき、寝ついた所です。風邪と過労で熱を出したみたいなんですけど・・・・・・お医者さんのお話だと、もともと身体が弱いせいもあるだろうだけど、それにしても衰弱しすぎてるから、念のため一晩様子を見てみるって・・・・・・。あ、でもそんな悪いところはないみたいなんですど。
そうですか・・・・・・。
あの、瑞葉、ここ数日悩んでたみたいなんですけど・・・・・・。
(こんこんっ)
はい? 予備校の先生かな・・・・・・?
あ、ども・・・・・・。
・・・・・・!?
えーと・・・・・・どちら様?
天瀬の高校のときの同級生で、柊って言います。
あ! もしかして、瑞葉の元カレっていう・・・・・・?
いや、それはまあ・・・・・・。
それより、なんでここに?
なんか、天瀬が倒れたから、行ってやってくれって・・・・・・。さっき、みよりちゃんから電話があって。
みよりが? どうして・・・・・・?
さあ・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ちょっと、話があるんですけど。
あ、ああ・・・・・・。(がちゃ・・・・・・)
あ、ちょっと、こんな所でいきなり・・・・・・。
・・・・・・。(ばたん)
修羅場になんなくっても・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・みよりちゃんの事ですけど。
・・・・・・。
あなたが以前、彼女と付き合ってたっていうのは知ってます。なにがあって別れたのかまでは知らないですけど・・・・・・はっきりしてくれませんか?
はっきりって・・・・・・
彼女を縛らないでください。恋人って、一緒にいる間だけ幸せでいられればいいってもんじゃないでしょ? 忘れられるように・・・・・・想い出になれるような別れ方をするのだって、恋人だった者の義務じゃないんですか? お互いに未練があるなら、最初から別れたりなんかしなければよかったんだ・・・・・・。
・・・・・・別れたつもりなんか、ないよ。
なら、俺はあなたにライバル宣言しなきゃならないですね。みよりちゃん・・・・・・みよりにとってだって、今のままでいいはずがない。
分かってるさ、そんな事・・・・・・! だけど!! だけど・・・・・・これが、ぎりぎりなんだよ、俺たちには・・・・・・。
・・・・・・何か事情があるんだろうくらいの事はだいたい分かります。でもだったら、それを断ち切る事だって必要なんじゃないですか!?
俺が――俺が一言、みよりに言ってやればいいだけの事なのかもしれない。お前は幸せになれって・・・・・・。
・・・・・・。
だけど、譲り合って、身を引いて、幸せだけを願って・・・・・・そんな純愛ゴッコじゃ、みよりを守れない。みよりはそれじゃ、自分から独りになっていくだけだ・・・・・・俺と同じように。幸せを願うより、幸せをつくる・・・・・・幸せなんて、一緒にならなきゃ意味なんかないんだよ!
・・・・・・。
君は、いいやつだよ。でも・・・・・・みよりはくだらない恋の鞘当ての賞品なんかじゃない。ライバル宣言されたって、そんな勝ち負けがどうだって関係ない。選ぶ資格をもってるのはみよりだけだ。
・・・・・・もしも、みよりが自分と「同じ」になってほしいっていうなら、俺は・・・・・・。
・・・・・・天瀬は。どうなるんですか。
・・・・・・瑞葉は――
(がちゃ)あ、あの〜、お取り込み中なんですけど、瑞葉が起きたみたいなんですけど。
瑞葉が?!
・・・・・・おにいちゃん・・・・・・?
ここにいるよ。
おにいちゃん・・・・・・。良かった、なんかいま、怖い夢見ちゃった・・・・・・。
そっか。ったく、倒れるまで無理するなよ・・・・・・。
ごめんね・・・・・・。なんか、いきなり胸が苦しくなって・・・・・・。昼間はそんなに具合悪いとは思わなかったんだけど。
わりと元気そうだったからびっくりしたよ〜。ちょっと咳してたくらいだったのに。
まだ、どっか苦しいか?
・・・・・・んーと・・・・・・今は平気。ちょっと胸が痛いだけ。
そっか・・・・・・それならいいけど。じゃあもう予備校の合宿はやめて、うちでしばらく休養だな。
先生も、あとで両親に謝りに行かないとって青くなってたし。
えー、あたしのパパ、まだフランスにいるんだよ。フランスまで謝りに行くのかなー?
まさかぁ。あ、それじゃあたし、そろそろ戻るね。お兄さんが来てくれたんなら大丈夫よね?
うん、ありがと。迷惑かけてごめんね、ゆーたん。
ううん。それじゃ、お大事にね。ばいばい。(がちゃ・・・・・・)
うん、おやすみなさぁい。・・・・・・はぁ。
疲れたんなら、あとはゆっくり休めよ。今日はもう面会時間過ぎてるからって言われてるし、また明日来てみるよ。明日には退院できるんだろ?
うん・・・・・・。ねえ、おにいちゃん。もしかして・・・・・・さっきまで、みよりちゃんと一緒だった?
え・・・・・・!?
なんとなく、そう思っただけなんだけど・・・・・・当たっちゃった?
・・・・・・ああ。
そっかぁ・・・・・・当たっちゃったかぁ・・・・・・。
・・・・・・。
おにいちゃん。あたし、みよりちゃんと話してみて思ったんだけど・・・・・・みよりちゃんて、たぶん想い出なんかじゃないよ。あるとすれば、たぶん・・・・・・あたしの「夢」なんじゃないかな。栗色の髪も、元気なのも、みんなに好かれるのも、小さい頃のあたしがなりたかったあたしを見てるみたいで、なんだか・・・・・・。
瑞葉・・・・・・。
だから、おにいちゃん・・・・・・。みよりちゃんのこと、大切にしてあげてね・・・・・・。
!? 瑞葉、なんだよそれ・・・・・・?
えへへ、そんな深刻にとんないでよ。ちょっと、ちょっと、情緒不安定なだけ・・・・・・。
瑞葉・・・・・・。
いいよ、もう行ってあげて。みよりちゃん、待ってるから。ずっと、待ってたんだから。あたしは大丈夫・・・・・・もともと大した事ないんだし。もう遅いし、看護婦さんに怒られちゃうから。
・・・・・・分かったよ。じゃあ明日、迎えに来るから。
うん。帰りに退院祝いのケーキ買ってね。
ああ、チョコで名前を書いてくれるやつを買ってやるよ。
えへへ。おにいちゃん。ねえ、おにいちゃん。あなたを「おにいちゃん」って呼んでいいのは、世界であたしだけなんだよね?
ああ、そうだよ。――それじゃ、明日な。
うん おやすみなさい・・・・・・。
・・・・・・。(がちゃ)
・・・・・・。
あれ、宏樹くん・・・・・・!? 来てたの? なんで?
あ、ああ・・・・・・。みよりちゃんが知らせてくれて・・・・・・。
あ、そっか。おにいちゃんと一緒にいたから、みよりちゃんも知ってるんだ・・・・・・。
天瀬・・・・・・、俺、なんでここに呼ばれたんだろうな。
あは・・・・・・みよりちゃんにもそういうところあるんだなぁ。なんか、安心しちゃったな。
なんだよそれ。俺、バカだからわかんねーよ。
なによぅそれ。浪人生のあたしへの嫌がらせ?
・・・・・・。いいから、教えろよ。
まあいいけど。やっぱりみよりちゃん、どうしてもおにいちゃんが好きなんだよ。だから、邪魔者同士でくっついてくれれば一石二鳥でしょ。これって、なんとなくチャンスだし。
なにがどう一石二鳥なんだか謎な気がするけどさ・・・・・・なんでそんな事が分かるんだよ。
だって、あたしだったらそうするもん。
・・・・・・天瀬、お前、ナニゲに怖いぞ。
そんなことないもん、普通だもん。
・・・・・・。
・・・・・・ねえ、宏樹くん。みよりちゃんのこと、勝ち目ないよ。
またはっきり言ってくれるなぁ・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・ねえ。せっかく来たんだからついでなんだけど。結局、あたしを追って来てどうしたかったの?
だから、なんでそーなんだよ。
だって、あたしがこの街にいるってえっちゃんから聞いたからって言ったもん。
また一瞬で分からないような言い方すんなぁ。
ねえ、なんで?
・・・・・・誤解を解いておきたかったからさ。それだけだよ。
じゃあたとえば、許してあげたら毎日電話してくれる? それくらい真剣に言ってる?
・・・・・・ああ。
じゃあ、許してあげるね。でも許してあげただけだよ。また付き合うってわけじゃないからね。おにいちゃんの方が優しいもん。それに、また変な事しようとしたら今度こそ許してあげないからね。
だから、あれは事故だって言ってるだろ。あれだろ、君が昼寝してる間にキスしたっていうの・・・・・・あれはつまずいてこけただけだし、君も人んちで寝ちまうのもアレだし、そもそも直撃じゃなくニアミスなだけだし、しかもおかげで俺は変態扱いだし。
だって、あたしはファーストキスは結婚式か雪の降るクリスマスの夜か、おにいちゃんとって決めてるんだもん。
分かったよ、悪かったってば・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・みよりちゃんの事は、君と似てたからって訳じゃなかったんだけどな。だけど・・・・・・。
・・・・・・。
天瀬?
・・・・・・。
・・・・・・なんだよ、また自分の言いたい事だけ言って寝ちまうなよ・・・・・・。
〜〜〜〜〜天美館〜〜〜〜〜
ただいま。
・・・・・・
・・・・・・みより? もう寝ちゃったか?
・・・・・・・・・・・・
み――
ふみゅぅ・・・・・・。みゃ〜ん・・・・・・。
・・・・・・みより、まさか・・・・・・!



〜〜〜〜〜1時間後〜〜〜〜〜