〜 8月2日 〜


〜〜〜〜〜鶴来邸〜〜〜〜〜
お帰りなさい、みよりちゃん。
みょ〜りっ。ちゃあん。
どうだった?
うん、えっとね、今日はお食事して、今度はプールでも行こうかっていうから、新しく水着買ってきたの。(がさごそ)これ、ちょっと背中が開きすぎてて恥ずかしいんだけど、どうかなあ!?
うん、いいんじゃない? 色も合ってるし。
ほんと!? どうもありがとう! わたし・・・・・・どうしてかな、どうしよう、ご主人様がそばにいてくれるだけでも、遠くから目が合うだけでもすごく嬉しいの。なんか、胸がじわ〜ってなって・・・・・・それだけなのに、信じられないくらい幸せで・・・・・・。
うんうん。
ご主人様ね、やっぱりわたしのことが好きなんだと思う・・・・・・あ、やだ、どうしよう、変なこと言っちゃった。そうじゃなくて、わたしの方が好きなのに・・・・・・。
愛されてるのを実感すると、誰だってそういうふうに言いたくなるわよ。
えっ、そうかな!? そうかな・・・・・・。ずっと、このままならいいのにな・・・・・・。
・・・・・・そうじゃない理由でもあるの?
・・・・・・。
そうね。そうだったわね、あなたは・・・・・・。
ずっと・・・・・・見ていたい。そばにいてあげたい! だけど、わたし、想い出だから・・・・・・想い出にしか、なれないから・・・・・・。
好きになったのは、そういうふうに、生まれついたから・・・・・・?
違うの、そんなの関係なくて・・・・・・好きなの。本当に、大好きなの!
ええ、そうね。誰が見たって、ひとりのただの女の子なのにね・・・・・・。
だって、本当なんだもん! それでも、いいと思ってたの。わたし、あのひとが誰かと幸せになるまで見守っていられればいいって・・・・・・! そうやって、自分を騙してた。心の奥では、わたしでも恋人になれるって、いつかなんとかなるって思ってた。でも、やっぱりだめ・・・・・・愛してくれれば愛してくれるほど、わたしは一緒にいてあげられなくなるんだもん。これ以上好きになったら、わたし、きっともっとそばにいたいって思うようになってしまう。そしたら、あのひとの「想い出」に戻っちゃって、消えちゃって・・・・・・想い出しか、見られなくさせちゃうから・・・・・・。
・・・・・・。
それくらいなら・・・・・・わたし、ひとりの女の子として別れたほうがいいもん・・・・・・。ひとりの女の子のまま・・・・・・。
それじゃあ今は、ただ別れるために、会っているの?
だって、わたしなんかより・・・・・・あのひとはもう少しで本当の約束を取り戻せるんだから。絶対、そのほうが幸せになれるはずなんだから・・・・・・。
・・・・・・みよりちゃんだって、いつか、べつのひとを好きになる事もあるかもしれないわよ。なにがあっても、あなたを愛してくれるひとが現れるかもしれない。そうすれば、あなたはもう「想い出」じゃなくなる。ずっと、そのひとを愛する事ができる。・・・・・・今日も、お店のほうに宏樹君が来てたわよ。付き合ってくれって言われてるんでしょ?
・・・・・・。
また明日、アルバイトが終わったら来るって。
・・・・・・わたし、ご主人様が好き・・・・・・。
消えなければ、幸せを願う事だってできるわ。幸せになる事だって・・・・・・。
いいの・・・・・・あのひとさえ、幸せなら・・・・・・。
まーまー? みょーりー?
だけど、みよりちゃん。願うだけでは幸せにはなれないのよ。
幸せは、作るものだから・・・・・・。
〜〜〜〜〜天美館〜〜〜〜〜
ただいま〜。
あ、お帰りなさい。ご飯は?
悪い、外で済ませてきた。
そっか、それならいいの。今日はもう作る気力、なかったから・・・・・・。
あれ、このみも風邪か?
・・・・・・だったら、心配してくれる?
ああ、そりゃそうだろ。
じゃあ、心配して。
・・・・・・いや、そー言われても困るんだけど・・・・・・ホントに風邪かあ。夏風邪ってどうすればいいんだったかな。あったかくして寝るっていうか、むしろクーラーなしじゃ暑いもんな。薬はあったよな・・・・・・?
あは、いいよ、そんなに悩まなくても。風邪じゃないから。
あ・・・・・・なんだ。冗談か。
ご主人様って、可愛いよね、そういうとこ。
・・・・・・お前な。
ねえ。今日は、どこ行ってきたの?
どこっていうか・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・昨日、言えば良かったんだけど・・・・・・・
瑞葉から聞いた。みよりと逢えたんだってね? 元気そうだった?
・・・・・・!!
・・・・・・ごめん、このみ。
謝らないでよ・・・・・・なんか、あたしがいじめてるみたいじゃない。言い訳とかしてくれたら、少しは、楽なのにな・・・・・・。
ごめん・・・・・・。
そっかぁ・・・・・・みよりと、逢えたんだ。
・・・・・・。
大丈夫よ、ご主人様。あたし、メルルが帰ってきたときに諦めてたから。諦めようって、思ったから・・・・・・だから、大丈夫。
このみ・・・・・・。
大丈夫。大丈夫、だから・・・・・・。
ごめん・・・・・・もし、あのときこのみが残ってくれなかったら、俺は・・・・・・。
はぁ・・・・・・また失恋かぁ。当人の意思と無関係に別れなきゃいけないのも辛いけど、はっきり言われちゃうのも、やっぱり、辛いな。だけど、・・・・・・そうだよね、分かってて、好きになったんだもん。後悔なんて、してないよ・・・・・・。
・・・・・・。
振られたら、諦めて新しいひとを探せばいいんだから。みんなそうやって生きてるんだもんね。あたしだってそうすればいいんだから。たいていは、振られたらそこで恋は終わりなんだから。
・・・・・・だけど、たまには、あなたみたいなひともいたっていいかもね。みより・・・・・・それとも瑞葉。想い出のひとだけをバカみたいにずぅっと待ってて・・・・・・とうとう探し出しちゃうひと。そんなひとだから、優しいから、放っておけなかった・・・・・・。
俺は、冷たい奴だよ・・・・・・。
ううん、優しいよ。あたし、知ってるのよ。好きな子には、誰よりも優しい。だから、一人占めしたくなるのよ。ちょっとの間だけでも、あたし、あなたを一人占めできたから・・・・・・。
・・・・・・。
ねえご主人様、一回だけ、はたいてもいいかな? なんか、ストレス解消したいんだけど。
・・・・・・? ああ、そんな事ならいくらでもいいよ。・・・・・・あ、でもやっぱり「ぐー」は――
(ちゅ)
――!??!
・・・・・・あはっ。あたしたち、今度は友達になれるかな?
このみ・・・・・・。
それとも、やっぱり女と男じゃ、そういうのって難しいのかな? 難しいのかもしれないね、だって、あたしがそうだったんだもん・・・・・・。だけどあたし、この年で姑にはなりたくないし・・・・・・ね? 友達。
うん・・・・・・。友達、か。
そ、友達。ねえ、ご主人様。恋愛って、相手さえ幸せならって、そういうのって、だめなんだよ。きっと。一緒に幸せにならないと意味がない。幸せにしてもらうのなら、同じくらい相手を幸せにしてあげないと、本当の幸せって見つからないのよ。恋愛と友情の育てかたって、たぶんそこが違うんだと思うわ。
うん。――そうかもしれないな・・・・・・。
ね、あとひとつだけ、聞きたいんだけど。気なんか遣わないで、正直に答えてね。・・・・・・あたしのこと、どう思ってた?
どうって・・・・・・。
だって、恋人じゃないなら・・・・・・、お姉さんくらいならまだいいけど、お母さんとか言われたらさすがにショックだし。
じゃあ、正直に言うけど。・・・・・・お前はすっげぇ、いい女だよ。
そっか。・・・・・・うん。ありがと。
ありがと、――・・・・・・。
〜〜〜〜〜瑞葉の部屋〜〜〜〜〜
・・・・・・瑞葉、起きてる?
あ、はぁい。(がちゃ)どしたの、このみちゃん?
ちょっと、付き合ってほしいなぁなんて。
ええーっ!? 気持ちは嬉しいけど、あたし、男の子の方がいいよぅ〜。
もう、その付き合ってじゃないってば!
あ、やっぱり?
ちょっと、お酒でも飲まないとやってらんないかなぁってね・・・・・・。
このみちゃん・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・でもなんか、おやぢっぽいよそれ〜。
・・・・・・う。傷つくなぁ。
あ、ごめんね。とにかく入って。
うん・・・・・・。
で・・・・・・どうしたの?
さっきね、・・・・・・ご主人様と別れてきちゃった・・・・・・。
え・・・・・・!!
あのひとってね、優しいの。すごく傷つきやすいの。だから、守ってあげないといけないの。あたしなら守ってあげられるって思ってたのになぁ・・・・・・。
こ、このみちゃん、酔ってるよぅ〜。
ずっと、傷ついたままなの。想い出が凍りついて、砕けて、それに集めようとして怪我をして。ずっと、そんなバカやってるひとなの。やっと集めても、かけらが足りなくて。指の間から滑り落ちていってしまって。誰かがそれに触れようとすればその誰かが傷つくから、自分ひとりで抱え込んで。
・・・・・・。
あ、やだな。今になって泣けてきちゃった。あのひとって、そんな事やってる、かわいそうなひとなのよ・・・・・・。。
このみちゃん・・・・・・。
ねえ、瑞葉なら、足りないかけらを集めてあげられるのかな? みよりなら、融かしてあげられるのかな・・・・・・?
あ、あたしは――わかんないよぅ、そんなの・・・・・・。
だってあのひとの白い服の女の子でしょ、瑞葉は!
・・・・・・うにゅぅぅ〜〜〜〜・・・・・・。
・・・・・・。
このみちゃん、あたしにもビールちょうだい!
あ、飲む!?
飲むぅ。考えてもわかんないんだから、酔ってたほうが考えられなかったって言い訳できるもん!
うん、よ〜し、今夜は飲もっ!
これ以上、泣かずに眠れるまで・・・・・・。



前の話    目次    次の話