〜 7月1日 〜
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あ、あはよー。ねえ、昨夜、車の音がしてたけど、ご主人様? |
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ああ、メルルが眠れないっていうから、ちょっとドライブ。 |
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あ・・・・・・そうなんだ。どこ行ってきたの? |
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べつに。そこらへんを回ってきただけさ。あとラーメン屋。 |
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ラーメン屋? |
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夜食。 |
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・・・・・・それだけ? |
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「それだけ?」って。それだけだけど。 |
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そう? じゃあいいわ。いま狼さんになっちゃったりしたら、もうややこしくなるなんてもんじゃないしね。 |
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なんだよ、そんな事心配してたのかよ・・・・・・。で、そのメルルとジョルジュさんは? |
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さあ? 見てないけど。 まだ寝てるんじゃない? もともとメルルって朝は弱いし、ご主人様が夜中に連れまわしたりするから。 |
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って言われてもな・・・・・・。まあいいや、べつに無理に起こす事もないだろ。ていうか俺もかなり眠いし。瑞葉は? |
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朝食当番。 |
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じゃあ、今朝はコーンフレークか。(がちゃ) |
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Bonjour(ボンジュール)・・・・・・おっと間違えた、おはよう。旅行者として訪れた外国では、その国の言葉を使うのが礼儀だからな。朝食の時間を聞いていなかったので、先に待たせてもらっているよ。 |
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・・・・・・あー・・・・・・そですか。 |
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(ばさばさ)新聞はどこの国でもそう変わるものではないが、構図によっては読みにくいものもある。ここの社の新聞は、記事の境がはっきりしていて文章を追いやすいな。だが社説はあまり良くない。これでは借り物の意見のようだ。 |
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・・・・・・そですか。 |
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ふむ。ところで私は日本の朝は米と焼き魚に限ると思うのだが、海苔だけはいかんな。あれは歯に張りついてしまって、どうも食べにくい。味そのもので言えば嫌いではないのだが。 |
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・・・・・・そですか・・・・・・。 |
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ご主人様・・・・・・朝から遠くの世界にいっちゃわないでよ。 あ、朝ご飯、いつもはトーストかシリアルなんですけど・・・・・・あたしも瑞葉も学校があるから、あんまり時間なくって。 |
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む。そうか・・・・・・なら仕方ないな。ちなみに、パンはバゲットかね? |
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バゲットって、フランスパンの事? たいていはそうですけど。ご主人様が好きだから。 |
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ふむ。実は私は普段はあまり朝食をとらないのでね、朝に食べるパンというのもそれはそれで悪くないな。君は洋食も作れるのかね? |
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え、まあ、普通の家庭料理なら・・・・・・。 |
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そうか。では楽しみにしていよう。昨日のテンプラはおいしかった。 |
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誉めてもらえるのは嬉しいんですけど・・・・・・でも今朝は瑞葉が作ってるから。 |
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天瀬のお嬢さんか? ふむ。料理ができるとは知らなかった。昔は自分で台所に立つよりは、おとなしく座って待っているほうが似合う子だったが。 |
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・・・・・・俺も切実にそう思うんだけど。 |
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あたしも。 |
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おじさん、おまたせ〜。あ、おにいちゃんおはよ♪ |
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ああ。 |
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「ああ」じゃなくて、「おはよう」でしょ〜! ねえ、朝ご飯食べるでしょ? シリアルでいい? パン焼く? |
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いいよ、シリアルで。バナナ味のやつ。プルーン入れて。 |
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は〜い。このみちゃんは? |
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あたしもシリアルでいいよ。あと野菜ジュース、まだあったっけ? |
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うん、ミルクの隣にあったよ。もってくるね。(とことこ) |
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まあ・・・・・・という訳なんだけど。 |
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ふむ・・・・・・いや、イングランドのスコーンではないのだから、文句を言うつもりはない。ただ・・・・・・いやいいんだ、気にしないでくれ・・・・・・。 |
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そんながっかりする事? |
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(とことこ)はい、おにいちゃん。 |
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ありがと。瑞葉もさっさと食べないと。 |
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うん。 |
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ふむ・・・・・・案外慌ただしいものだな。3年前、君はそれほど忙しそうには見えなかったが。 |
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・・・・・・おかげで大学は自主休講してましたけどね。 |
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そうか。それは済まなかったな。つまり専門用語で言う「サボった」とか「ブッチした」、一昔前の言葉なら「フけた」という事だね? |
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そうだけど・・・・・・なんでそれが専門用語なんです? |
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知ってのとおり、私は比較言語学で教授をやっている。日常会話での言語の変遷というものは、明らかに私の専門分野なのでね。 |
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納得するようなしないような・・・・・・比較言語学って、そーゆーもんなのか・・・・・・? |
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そういうものも含んでいると思ってほしい。というよりは、外せないもののひとつと言うべきか。娘の専門も、私と同様に比較言語学だ。実際に外国語の地域で暮らす事は、学校に通うよりも3倍学習の効率が良いのだよ。いや、私は数学者でも統計学者でもないので、この数字は適当だがね、より生の言葉に触れられるのは確かだ。娘を1年間こちらで預かってもらったのは、そうした理由もあっての事なんだよ。 |
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そうなんですか・・・・・・。 |
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さて。それでは朝食をいただくとしようか。忙しいようだから無理にとは言わないが、できれば明日はご飯かパンを食べたいのだが・・・・・・。 |
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(ため息)・・・・・・このみ、悪いけど、帰りにパン屋寄ってきてくれ・・・・・・。 |
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はいはい。そんな疲れた顔しないでよ。 |
| 〜〜〜〜〜昼間〜〜〜〜〜 | |
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あ、申し訳ございません、ご主人様。お寝坊をしてしまいました・・・・・・。 |
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寝坊はともかく頭に「お」をつけるのは丁寧語にしちゃアレじゃないか・・・・・・? 妙に可愛いけど。 それより、どうしたんだその服。メイド服も持ってきてたのか? |
| はい。ここにいさせていただく間、私はお客様ではなくご主人様のメイドですから・・・・・・。 | |
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俺、そーゆー誰それの所有物的な言い方って好きじゃないんだけど・・・・・・いいんだよ、べつにその服着なくたって。だってもう、教育期間だかなんだかは終わってるんだからさ。 |
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でも、ご主人様はお好きなのでしょう? |
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そうだけど・・・・・・。 |
| それなら、着させてください。それに私も、ご主人様にいただいたこの服が気にいっているんです・・・・・・。 | |
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んー・・・・・・。 |
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それでは私、お掃除を始めますね。 |
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うん、頼むよ・・・・・・って、違う! だからメルルはお客さんなんだからさ。 |
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・・・・・・ご迷惑ですか・・・・・・? |
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迷惑じゃないけど・・・・・・。 |
| それでは、お許しいただけますか? | |
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・・・・・・分かったよ、じゃあ頼むよ。 |
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はい! (ぺこり。とことこ・・・・・・) |
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・・・・・・ふむ。娘はそんなに家事が好きだったろうか? |
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!?・・・・・・どっからわいて出たんですか? |
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いや、なぜかさっきから猫に追跡されているようでね、あまり気分のいいものでもないので、一応捲いておこうとそこの部屋に隠れていたのだが。 |
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みゃあ〜。 |
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む。見つかったか。 |
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猫って、うちのみゃあの事? それならたんに、知らない人がいるから珍しがってついて回ってるだけですよ。 |
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みゃあ。 |
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ふむ。そうだったか。しかし日本には猫又という妖怪もいるらしいしな。アイルランドにはケット・シーという、これもその名のとおり猫の妖精がいると伝えられている。 |
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・・・・・・ていうか、実はただヒマだから猫と遊んでるだけじゃないですか? |
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ふむ。そのつもりはなかったが、そうともとれるか。 |
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・・・・・・(疲)。 |
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みゃ〜。(すりすり) |
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(なでなで) |
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ふみゅうん♪ |
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ところで、娘の事なのだが。昔から家の事はバトラー(執事)やメイドに任せていたので、娘には無理だと思っていたのだが・・・・・・確かに、よく教えてくれたようだね。実際にやる機会はなくても、使用人がどのように働いてくれているのかを知る事は、私は雇用する側にとってとても大切な事だと思うのだよ。彼らはひとりひとり人格をもった人間であり、その意志でもって働いてくれているのだという事を。 |
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そうですね。だから俺は、「ご主人様」って呼び方は好きじゃない・・・・・・。 |
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知っているよ。それでも君に娘の教育を頼んだのは、まさにだからこそだ。 |
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・・・・・・。 |
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ふみゅ? (ぺろ) |
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願わくば、私も使用人には嫌われたくはないものだ。たとえ経済上での雇用関係であってもな。人間同士である以上、ある種の信頼関係というのは存在するはずなのだから。 |
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・・・・・・それ以上のものだって。 |
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その通りだよ。 |
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・・・・・・ジョルジュさん。メルルと話した事がどれくらいありますか? |
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ふむ? |
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大人ってのは、どんなによく子供の事を見ているつもりでも、自分の見たいようにしか見てないもんなんですよ。ひいき目って事だけじゃなくて、自分の夢とか理想とか、トラウマさえ重ねている事だってある。その子が、本当にそれを望んでいるのかどうかも知らずに。 |
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メルルが望んで日本に来たのか・・・・・・という事かね? |
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それもあります。それと、この年で大学に進んだ事も。そりゃメルルくらい頭が良ければ、大学に入れるだけの資格は周りにも示せるでしょうけど。でも言語学なんて、どんなに研究したって、そうそう簡単に功績が認められるものじゃないでしょう? 科学のような法則も形もないんだから。それを15歳で卒業までもっていくのは、あなたも相当の無理をしたんじゃないんですか? |
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ふむ。その事か・・・・・・。それに関しては、私や他の大学の教授の力添えがあった事は否定できないな。しかし、在学中にそれに相応しい成果を残している事も確かだよ。文学という形でね。だからこそ、大学に研究員として戻ってほしいという話も出てくる。もちろん、これは私が手を回した事などではないよ。 |
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でも、メルルは・・・・・・そうしたいって言ったんですか? |
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嫌とは言っていない・・・・・・が。そうだな、喜んでいたわけでもないか。だが私には、この道しか娘に用意してやる事はできなかった。もうひとつは・・・・・・私は、娘の夢をなにも知らないと思うかね? |
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知ってるんですか? |
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あれは、小さい頃からよく言っていたよ。素敵な男性と結婚して子供を生んで・・・・・・それが夢だとな。ならば、その相手を見つけてやるくらいは許されるだろう? もちろん、いくら私が日本贔屓でも、天瀬のお嬢さんの言葉がなければ、この国で君に会う事もなかっただろうがね。 |
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子供は・・・・・・親がなにもかも与えてやらなくても、自分で欲しいものを見つけてくるんです。親がなにも言わなくったって、それを手に入れるためには努力が要る事や、そうやって得た宝物の価値を自分で計る方法を知っていくんです。それが育つって事なんです。親は、それを見守っていてくれればいい。手を貸すのは、どうしようもなくなってからでいい。 だけど、メルルは・・・・・・まだ子供なんですよ。もっと時間が必要なのに、こんなに急がせる必要がどこにあるんです? これじゃメルルが・・・・・・かわいそうです。 |
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君は、親になった事があるのかね? |
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あるわけないでしょ。だけど、子供の立場から、親にはこうしてほしかったって事は・・・・・・言えます。 |
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そうか・・・・・・君は、この1年で、私が15年かけた以上に娘に大切な事を教えてくれたのかもしれないな。このうえ、娘と一緒になってほしいと思うのは、欲張りというものなのかもしれんな・・・・・・。 |
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メルルがここにいられるのは、あと1週間。その事は、もう言ったんですか? |
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いや、今夜にでも言う事にするよ。 |
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・・・・・・俺が、言います。あなたが言ったんじゃ、メルルはフランスに戻ってからもずっと、辛い思いをしなきゃいけない。だから、恨まれるのは、もう別れる俺の役目じゃなきゃいけないんです・・・・・・。 |
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君は、・・・・・・すまない。ありがとう。 |
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・・・・・・。 |
| 〜〜〜〜〜夜〜〜〜〜〜 | |
| ご主人様・・・・・・なにかご用でしょうか。 | |
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うん・・・・・・。 |
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・・・・・・? |
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まあ、とりあえず座って。 |
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はい。 |
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・・・・・・あ、いや、そんな足元に座られても困るんだけど。 |
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おそばにいてはいけませんか・・・・・・? |
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じゃなくて、そんなトコいられると話しづらいとゆーかなんか危険な気分になるとゆーか・・・・・・とにかく、そっちの折りたたみの椅子使ってくんない? |
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あ、はい。 |
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で、だけど・・・・・・、メルルの親父さんな、ジョルジュさん。 |
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はい。あ、もしかして、お食事の事でお父様がなにかご迷惑をおかけしてしまったのでしょうか? お父様、日本食にはこだわりがありますので・・・・・・。 |
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食い物がからむと娘にも信用されないのか、あのオッサンは・・・・・・? あー、まあ、それはそれとして。1週間でフランスに帰る予定になってるんだけど。 |
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あ、そうなのですか・・・・・・そういえば私、まだ聞いておりませんでした。 |
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お前も、一緒に・・・・・・だよ。 |
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あ・・・・・・はい。 |
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・・・・・・? ・・・・・・・・・。 |
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・・・・・・ご主人様? |
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いや、・・・・・・もうちょっと、ごねるかと思ってたから。 |
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私、今回ビザを取らずに参りましたので、長期滞在はできないんです。ですから、いずれ一度はフランスに戻らないといけませんから・・・・・・。 |
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あ、そういう事じゃなくて・・・・・・そっか、最初から話さないとだよな。ジョルジュさんがここへ来た理由・・・・・・っていうか、去年お前をここへ来させた時から、俺とお前を結婚させるつもりだったんだとさ。メイド修行なんかじゃなくて、花嫁修行だったんだな。 |
| え、あの、ご主人様・・・・・・私、あの、私・・・・・・。 | |
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――けど、そんなの、無理だろ。 |
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・・・・・・!! |
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俺には、お前だけを見ていてやる事はできない。守ってなんかやれない・・・・・・。 だから、メルル・・・・・・親父さんと一緒にフランスに帰るんだ。今度こそ、ここじゃなく、お前の家に帰るんだよ。 |
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・・・・・・やっと、またお会いできたのに・・・・・・。 |
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もう二度と会えないってわけじゃない。だけど、お別れしなきゃいけないものもあるんだよ。引き出しの奥にしまった写真のように。 |
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ご主人様・・・・・・。 |
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なあ、メルル。親父さんの事、どう思う? |
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え・・・・・・? あの・・・・・・。 |
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――そうだよな。いきなり訊かれたって、答えられないよな。親子って、だけどそういうもんなんだよな。子供が生まれて最初に知る「他人」。いちばん近いけど、決して「自分」とは重ならない他人。顔を上げれば自分の歩いていく先にいて、でもいつかは追い越して行かなきゃいけない存在。そんなふうに言われるもの。 |
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・・・・・・。 |
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メルル。俺の考えすぎかもしれないけど・・・・・・親父さんを避けてないか? 今日だって、食事の時以外ほとんど話もしてないだろ? ジョルジュさんの方もだ・・・・・・昼間、お前が起きてきたとき、みゃあがついてくるから隠れてたなんて言ってたけど・・・・・・ホントはお前が来るのを見て隠れたんじゃないかって気がするんだよな。 まあ、妙な状況だから、なんとなく気まずいのは分かるけど・・・・・・。 |
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・・・・・・はい・・・・・・。 |
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ホント、やっかいだよな。お互いの考えてる事なんて、いつまで経ってもなかなか分からないんだから。中には、手を差し伸べる方法を知らない親だっているし、最初からそのつもりがない親だっている。 けどさ、メルル。お前の親父さんは。あれはあれで、一生懸命なんだよ。だから、気にいらない事があれば文句を言ってやったっていい。親のほうだって、子供からなにも言われきゃ、自分の考えを信じるしかないんだから。そんなふうにして、少しずつ距離を縮めていくしかないんだからさ。 |
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・・・・・・はい。 |
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メルル。今回の事だって、そうだろ? お前がこの国にいたい理由と、親父さんがここへ来た理由。どちらもそんなに違っちゃいないのに、言葉が足りないだけで、こんなにずれちまったんだよな。 |
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はい・・・・・・それは、私も感じていました。フランスへ戻ってから3ヵ月の間、どうして今まで日本での事を訊かれなかったのかと。もしかしたら、お父様は不安だったのかもしれません。いくらそうなるようにと考えたとしても、本当に私があなたと離れられなくなって、日本で暮らすようになるのが。 |
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たぶん、そうなんだろうな・・・・・・。親父さん、なにかにつけてお前のためっていうような事を言うけど、正当化したかったわけじゃなく、本当はそうやって自分を納得させてたのかもしれないな。 |
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はい・・・・・・でも私、どうしたらいいのでしょうか・・・・・・。 |
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そうだな・・・・・・とりあえず、親父さんと一緒に2、3日観光でもしてくるとか? せっかく日本まで来てるんだからさ。日帰りでもけっこう遠くまで行けるし、俺も去年、あんまり旅行とか連れていってやれなかったしな。 |
| はい・・・・・・そうですね。私、お父様にお話してみます。 | |
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うん。 ・・・・・・なあ、メルル。もしも、だけど。 |
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はい? |
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もし、俺がお前に・・・・・・いや、いいよ。なんでもない。 |
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いつになっても、「もし」としか言ってはくださらないんですね・・・・・・。 あなたの言葉なら、私はいつでも「はい」と答えます。 それが、私の気持ちです・・・・・・。 |
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・・・・・・そっか。 じゃ、話はこんだけ。終わり! |
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はい・・・・・・それでは、おやすみなさいませ。 |
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うん、おやすみ。 |
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(ぺこり。しずしず・・・・・・) |
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・・・・・・。 ・・・・・・・・・・。 俺さえその気なら、これからいくらだって変えられる・・・・・・こんな無意味な「もし」はないんだよな・・・・・・。 |