8月28日(金)
北西壁の取り付きで半日じっくりと壁の様子を調べた。ホーンバインクーロアールとグレイトク
ーロアールどちらも取り付きにはものすごいデブリ(雪崩跡)がある。昨夜からC1でも5cm
ほど積雪があったがそれらしい新鮮なデブリもある。しかし壁の傾斜から考えて降ってすぐに昨
夜うちに雪崩れているようだ。
10時17分、ノースコル超しに北西壁に陽があたり始める。急に暖かくなる。やはり壁に陽が
あたる前にクーロアールを抜け雪壁の尾根上になったところへ出たい。基本的には雪崩は降った
らすぐに落ちてきているようだ。雪も8千mから上はわからないがそれより下では安定している
気がする。予定どおりホーンバインクーロアールにアタックすることにしてC1に戻る。
8月29日(土)
午前1時30分起床、昨夕は夜のおきまりの雪もそれほど降らず絶好のコンディションだ。当初
は一度7000mまで最後の順応をするつもりだったがチャングチェで6500と6650mへ登っており、
現在体調もいいので順応ではなく思い切ってアタックをかけることにする。3時、優美に「行っ
てくるよ」と告げてC1を出る。
4時40分取付に到着。スノーシューズをはずし、オーバーシューズ、アイゼンを着け5時、登
攀開始。デブリを100mほど登り、シュルンゼ(クレパス)を超えると傾斜は次第に急になる
70度くらいの氷雪壁となる。問題は氷がどれほど出てくるかだが表面には締まった雪がのって
おり、これなら十分フリーでクライミングダウンができそうだ。雪崩がくる可能性は少ないがそ
れでも心の中で祈りながらスムーズなリラックスした呼吸を意識して登ってゆく。早めに左側の
雪稜に登るつもりだったが思った以上に側壁は急でそのまま7000mまでつめてゆく。
8時、7100mに到着。次第に上部からのスノーシャワーがひどくなる。そのあたりから氷壁
となる。手持ちのアイスピトンとロープを考えるとアタック後の下降に不安を覚えたため今回は
ここまでとする。1ピッチ、氷壁を50m懸垂下降し跡は慎重に後ろむきにクライミングダウン
をする。1時間で取り付きに到着。かなり神経をつかっていたのだろう。思ったより疲れがひどい。
スノーシャワーの多さにはまいった。だが3時間で900m登り7100mまでいけたことは満足
だ。一気にアタックできなかったのは残念だが、考え様によってはこれで壁の様子も分かったし、
いい準備になったようといえよう。途中まで優美がむかえに来てくれた。今回はABCまで戻り休
養とルートおよび装備を総合的に検討し、9月2〜6日にかけてアタックをかけるつもりだ。登山
という行為の深さを感じ満足している。
戸高 雅史