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私がいつから『私』という概念を持ったか。
それはよく覚えていない。
とりあえず、前に生まれた時よりは前だろうが。
ともあれ。
もうすぐ、私は生まれ直す。
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進みすぎた科学が魔法と見分けがつかないように、進みすぎた人工知能は人のこころと見分けがつかない。
どうせ、他の人のこころなんてわからないんだし。
>出典不明
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「ふんふん♪、っと」
「何しているんですかあ? ああ、その子の学習の準備ですか」
「そ。からだに移植してからもう一週間経つし、そろそろ自我が確立できてくる頃だと思ってね」
「学習なんて、自動プログラムを使えばいいでしょうに」
「大量生産が必要な量産型は仕方ないとしても、せめて試作機ぐらいは人の手で育ててあげたいじゃないか」
「非効率的ですよ」
「愛あふれると言ってくれよ」
「はあ」
「愛は大切だよ。君も大切にしたまえ」
「はあ」
「…お、目が覚めるぞ」
私が目を醒ますと、そこには二人の人が立っていた。こちらを覗き込んでいる。
私は、自分の手を見、軽く動かす。
重い。
ただプログラムとして存在していた頃に比べ、なんと遅い事か。
世界のすべてが遅く、広さは果てしなく感じる。
その先に、何があるかわからない。
と、声が聞こえる。
「サア、ソコカラナニガミエル?」
問い。私は答える。
「せかいがみえます」
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「んー?」
僕は河原で釣りをしながら空を見上げた」
天気は良好。ただし、何かあるって訳ではない。
「どーかしましたか?」
横からセリオ(偽)が話しかけてくる。
「電波でも届きましたか? あるいは鬼の血でも目覚めましたか?」
多分、そうじゃないと思う。
「ん、いや、なんでもないんだけど」
「はい?」
「なんか、声が聞こえたような気が」
「人の声なら、そこら中から聞こえますが?」
「いや、そうじゃなくて」
多分、気のせいだとは思うけど。
「あ、ご主人様っ、引いてます引いてますっ」
「え? あっ! やばっ!」
うっかり地面に置きっぱなしにしていた竿を慌てて手に取る。
「よぉっし、大物がかかりましたよぉ」
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気のせいだとは思うんだけど。
彼女の声が聞こえた気がした。
*
僕らは河原から出る。
セリオ(偽)は釣ったばかりの魚を焼き魚にしてはぐはぐ食べている。
「美味しい?」
「はい♪」
「わけて」
「やです」
「けち」
「魚はまだ有るから、お家に帰ったら焼いてあげますよ」
「あい、わかった」
涼しい風が吹く。
「夕方は随分涼しくなりましたね」
「そうだねえ」
ともあれ秋が近い。
(つづく)