帰りの電車の中。
 横で、セリオはすーすー寝ている。
 「一日損しました」とか言って、無闇にはしゃいでいたから、その疲れが出たんだと思う。
 かく言う僕も、結構疲れてはいる。

 がたんごとんと音がする。
 知らない風景が流れていく。

 結局、彼女がなんだったのかは良く分からない。
 セリオは、そもそも何があったのかわかってないらしいし。
 だから、何かするってわけでもないけど。
 何がなんだかわからないうちに現れて、何がなんだかわからないうちにいなくなった。
 だから、正直どう思っていいかは良く分からない。
 でもまあ。
 もう一度会いたいとも思う。
 そのとき、このセリオがいなくなってしまうのは、かなりの問題なんだけど。

 人の少ない電車の中。
 意味も無く、吊り広告なんかを読んでみる。

 横で眠っているセリオが目を醒ました。

「…今どの辺りですかぁ?」
「まだ、ちょっとあるよ」
「そうですか…じゃあ、もうひとねむりしますので、着いたら起こして下さいね」

 まだ眠いらしい。
 そう言えば、僕も眠い。

「ん。わかった。じゃ、僕も寝るから、着いたら起こしてね」
「へーい」

 なんか、噛み合ってない会話。
 それが妙におかしかった。
 

「はい。これでお終い」
「ああ、一時はどうなるかと思いましたよ」
「まあまあ、データ取りは万全だったし。これで、定期検診とか言ってあの子を呼び出して、本体のチェックを済ませれば完璧だよ」
「そうですね。まったく、海に来てまでこんな事をする羽目になるなんて、つくづくついてないです」
「ま、そう言わないで」
「ところで、仕事も終わったことだし、私もちょっと遊んできていいですか。他人が遊んでいるのを横目で見ながら仕事をするのは、精神衛生上かなりよろしくなかったんですけど」
「駄目。帰ってもう一仕事しなきゃ」
「…はあ? 何するんですか?」
「ん〜。ウチに試作機が一人いたよね。まだ人格インストールしてないコ」
「いや、まあ、いますけどね。最新型のが」
「うん、そのコで行こうと思うんだ。今度のテスト」
「まだやるんですか? まったくあなたは。自分の趣味に正直と言うかなんというか」
「科学者として正しい態度だろう? さてと、彼らには、もう少し付き合ってもらうことになるかな?」
「なぜですか?」
「彼は彼女に名前を与えた。彼女にとって、彼は特別な存在となった。まあ、早い話が刷り込みだね」
「ひよこじゃないんですから」
「いや、実際そんなもんだよ。まあ、あの二人の間に波風立てるのは正直心苦しいんだけど」
「…楽しんでいるくせに」
「ははっ、そう見えるかい?」
「そりゃもう」
「じゃ、帰って早速始めるか。1ヶ月もあれば調整、済むだろう」

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