私は目を醒ましましてすぐに、違和感を感じました。
 ここはどこでしょうか?
 私には後天的に取得したデータがありません。
 これは、私のログを参照すればわかることです。
 自分の体にインストールされる前にコンピュータ上で学習を受ける、必要最低限のデータしか私の中にはありません。
 ですから、私はこれが初起動と言うことになります。
 とすると、私はメンテナンス用のベッドの中で目覚めるはずなのですが。
 ここは、どうやら和風旅館の様子です。
 どういう事でしょうか? 私は何かイレギュラーなのでしょうか?
 その事に関する情報はありません。
 と、少し離れた所にある布団の中の人物が目覚めました。
 どなたでしょうか? ひょっとしたら、この方に聞けば私の状況が分かるかもしれません。
 その方は、目覚めに背伸びをなされると、私の方を見て、

「あ、おはよ、セリオ(偽)」

 と、おっしゃられました。
 それが私の名前なのでしょうか?
 なぜか、違うような気がしました。

 朝、僕は目を醒ました。
 枕投げの一発が奇麗にあごに入った所までは覚えているが、それ以後は覚えていない。
 情けないが気を失ってしまったのかもしれない。
 セリオ(偽)にかかれば枕も立派な凶器と化す。
 …怒らせないように注意しよう。
 と、セリオ(偽)の方を見ると、彼女も目を醒ましたようだった。
 僕は挨拶をする。
 返事はない。彼女は何かけげんそうな顔をしている。
 何かあったんだろうか?
 まあ、いいや、とりあえず朝ご飯でも食べに行こうか。
 
 そこで僕は、驚くべき風景を見た。
 セリオ(偽)が、あまりご飯を食べなかったのだ。
 天変地異の前触れだろうか?

「あっちゃあ」
「どうかしましたか?」
「見てよこれ。『あの子』が出てきちゃってる」
「…なんでこんなことに?」
「多分、昨日の夜の頭部への衝撃が原因だと思うが…詳しいことは分からんなあ」
「いいんですか? 彼女は認識能力こそ付いてますけど、まだ細かいデバッグは済んでないんでしょう?」
「うーん…それにこのまんまじゃ、元の人格との融合も考えられるしなあ」
「だから、一つの電子脳に二つの人格を置いとくなんて事、しない方が良かったんですよ」
「しかし、データを取るにはそこが格好の場所だし」
「もう、良いですから、さっさと回収作業を始めましょう」
「ああ、もう始めてる。今日中には何とかなるだろ」

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