バスから降りるとそこは海だった。

「海、でーす」

 セリオ(偽)が、わかりきったことを絶叫する。

「みんなぁ、海はいいぞぉー」

 わかったから、叫ぶのはやめなさい叫ぶのは。
 ほら、周りの方々が微笑ましいような目で見ている。
 まあ、奇異の目で見られるよりはマシだけど。

「ヘイご主人様? なにをボーとしているのですか? 海ですよ」
「ん…ああ、わかってるけど」
「けど?」
「いや…なぁんか、君と一緒だと、マグロ漁船に乗る羽目になったりするような予感が」
「んな事にはなりませんて」

 結局。
 セリオ(偽)の体調不調は、一日修理するだけで完全に直った。
 快復記念とばかりに空中3段回し蹴りを打ってくるぐらい元気だった。
 ついでに色々微調整もしてくれたらしいが、性格はそのまま。
 まあ、それは良し。
 でもって。
 なんか、会社の人が「すみません今回は迷惑をかけましたこのホテルのチケットを使って海にでも行って慰安旅行でもして下さい」と言って、今来ている海にあるホテルのチケットをくれた。
 僕としては、旅行費が浮いて大助かりなので、ありがたく貰うこととした。

「ほらセリオ(偽)そんなとこで叫んでないで、さっさとホテルにチェックインしてしまおうよ」
「はぁい。で、どのホテルなんですか?」
「えっと、つ、つるくるや? 変な名前。…っと、あれ、かな?」

 見ると、そこには鶴来屋とかかれたホテルがある。
 …なんか、立派なホテルだなあ。

「いいのかな? こんな立派なホテルを使わせてもらって」
「いいんじゃないですか? さあ、さっさと行きましょうよ」
「あ、ちょっと待って…。あのさあ、ちょっとは荷物持ってくれない?」
「こっちは病み上がりですよ」
「…全然元気のように見えるんだけど」

 まあ、いいか。
 セリオ、嬉しそうだし。

「ターゲットはホテル内に入ったようです」
「うん。引き続き監視続けちゃってちょうだい」
「…主任。何だってこんなパパラッチみたいな真似しなきゃならないんですか?」
「大丈夫だよ。室内までは監視していないから」
「それしてたら犯罪です。今でも犯罪ですけど」
「まあまあ、堅い事言わないで。あのセリオのデータを取るためだ」
「…確かに、あのセリオは、個性的…平たく言うと変ですけど。データ取るほどの事ですか?」
「セリオシリーズがあれほどあからさまに感情をあらわすケースは希有だよ。それこそ…」
「それこそ?」
「…いや、何でもない。ともかく、監視、続けるからね」
「…はい」
「さてと。あの子は、うまく働いてくれるかな?」

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