夜、辺りが寝静まった頃。
 僕は周囲に気配が無いことを確認し、ごそごそと布団から這い出した。
 押し入れの方をうかがう。
 特に不審な感じはしない。
 …よし。
 行動はすばやく、かつ正確に行なわなけらばならない。
 僕はテレビの前へと近づき、機材を用意。テレビにヘッドホンを付ける。
 照明を付けないのは目に悪いが、この際そんな事にこだわってはいられない。
 こんな所をセリオ(偽)に見つかるわけにはいかない。
 テレビを付ける。
 チャンネルをあわせる。
 心臓が高鳴る。果たしてうまく行くだろうか?

 よし。
 今の所いい感じだ。
 セリオ(偽)のことを思い出す。
 こんな感じだったかな?
 おお。
 できたできた。
 順調だ。この調子なら何とか。

「ご主人様ぁ? 何しているんですかぁ?」

 眠そうな声。やばい、セリオ(偽)が起きた!
 そうだ! 彼女の野生の勘は侮れないことを忘れていたっ!
 まずいぞ、こんな所を見られたら、何言われるかわかったもんじゃないぞ!
 僕は慌ててテレビの電源を切ってからイヤホンを引っこ抜こうとして。
 間違えてテレビの電源を入れたままイヤホンを抜いてしまった。
 機材はまだ動いている。
 イヤホンを抜かれ動き出したスピーカーから、大きな声が響いた。
 …なんてこった。
 …おしまいだ。

「しょーりゅーけーん」

「あっはっはご主人様なに夜中に起きてゲームの訓練なんかしているんですかそんなに私に昼間ボコボコにされたの悔しかったですかそれならそうと言って下されば私が特訓してあげなくも無かったですのにそ・れ・にちょぉっと独学で訓練したぐらいじゃ私には勝てないですよ実はセリオシリーズはゲームがやたら上手いと言う隠し設定があったり無かったりするんですから」

 セリオ(偽)は笑っている。
 …だから知られたくなかったのに。
 気付かれない間に強くなって、セリオ(偽)を見返してやろうと思ったのに。
 こうなったら…。

「ええい、もういいや! セリオ(偽)! リターンマッチを申し込むっ!」
「ほっほぉ、いい度胸です。ほえ面かかないように注意ですよ」
「その生意気な口も今宵限りだっ!」

 こうして、夜を徹してのゲーム勝負が始まった。
 明日は、辛そうだ。

 あ、ちなみに戦歴は僕の0勝256敗。
 セリオ(偽)手加減してくれないんだもの。

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