雨というものは、横から降るものだったろうか?
 
「ただいま〜。もーすっかり濡れちゃったよ僕シャワー浴びるねセリオ(偽)」

 部屋で枕を抱えているセリオ(偽)の姿を確認し、僕はそう言った。
 着替えて風呂場から出た頃には、外の雨はもっと激しくなっているようだ。
 雷も鳴っている。

「夏の雨は勢いがあっていいね」
「そ、そうですね」

 おや?
 なんとなく、様子がおかしい。
 そう言えば、僕が帰ってきたときも返事をしなかったし、なんとなく今も顔が引きつっている。
 何かあったんだろうか?

「どうしたのセリオ(偽)? なんか顔色悪いけど」
「え、いや、何でもないで…」

 雷が鳴った。
 びくっとするセリオ(偽)。
 油が切れたかのように、ゆっくりと外を見る。
 また雷が鳴る。
 今度は、短く悲鳴を上げた。

「ん? セリオ(偽)さん? ひょっとして…雷が怖いの?」
「え? そんな事は無いですよ」

 虚ろに笑う。その顔がすべてを物語っている。

「なんだい? この間、人のことをゴキブリなんかが怖いんですか?  って言ってたのに」
「し、しかしですね。雷というものはとんでもねー奴でありましてアイツが一発ゴロゴロンと落ちるだけで停電は起こるはTAは壊れるは地下室のスパコンからプログラムは具現化しちゃうは自動車は時間を超えてしまうはで大変なんです機械の敵です勘弁してください的な気持ちです」

 気持ち良いぐらいに狼狽してそんな事を一息で言った。
 どうも、うちのセリオ(偽)はあせると息継ぎを忘れる癖があるようだ。
 まあ、いいけど。

「たしかに、機械にとっては雷は天敵かもね」
「は、はい。そうなんです。ですから今日は私大人しくですね…」
「ところでセリオ(偽)くん。雨の中を傘を差しながら歩くというのも、なかなかいいとは思わないかね?」

 そう言って、僕はにやっと笑った。
 セリオ(偽)は恨めしそうな目を僕に向ける。

「はは、冗談冗談。僕だって、この雨の中を外に行くつもりにはならないよ」
「ご、ご主人様っ!」

 怒ったセリオは僕に枕を投げつけようとして。
 また雷が鳴って縮まった。
 …。
 さすがに、ちょっと可哀相かも。本気で怖がっているみたいだし。

「あー、ごめんセリオ(偽)ちょっとふざけすぎたみたいだね」
「…」
「うーん。今日は食事の支度は僕がするからさ、今日はさっさと寝ちゃおうか」
「あ、あの」

 食事の支度を使用とした僕に、セリオ(偽)が話しかけてきた。
 外の雨はいまだ降り続けている。
 夏の雨のくせに、根性のあることだ。

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