ただいま私は絶賛留守番中です。
 ご主人様は「先輩に呼ばれたんだ、無視するとあの人何するかわかんないから」
 とか言ってこんな時間に出かけてしまいました。
 こんな夜遅くに一人でいるのは始めてです。
 今日は面白いテレビ番組も無くて、パズル雑誌も全部終わってしまっていて、
家事も終わってしまっています。退屈です。
 サスペンド状態になれば、時間の経過を気にせずにすみますが、ご主人様を待つ
のもメイドロボの勤め。そういう訳にもいきません。
 私は待ちました。

 随分経ちました。
 ご主人様はまだ帰ってきません。
 とっても退屈です。
 この部屋にはゲーム機もありません。ご主人様はゲームをしません。
 それは、ちょっと損していると思います。
 今度、KCEの新型ゲーム機が出ますから、紹介してみようと思います。
 
 更に待ちました。
 ご主人様は一向に帰ってくる様子がありません。
 もう11時過ぎです。
 普段ならもう眠っている時間です。
 ロボットは眠らなくても長時間行動できますが、急に生活のリズムを崩すと、体内のメモリに蓄積されている生活パターンが崩れてしまいます。
 お肌にも良くありません。
 
 人間はご主人様で、私たちはその使いです。
 それは当たり前です。私たちは人間の作った道具なのですから。
 とはいっても、ぞんざいに扱っていい理由にはなりません。
 使いには使いのルールがあるように、主人には主人のルールがあると思うからです。
 ペットでもロボットでも同じです。
 人間は強い権利を持っています。
 それは事実です。でも、権利には義務が付いてくるのも事実です。
 そういえば。
 昔、「小さくても大切ないのち」というフレーズがありました。
 私はあれが、ちょっと苦手です。
 いのちには、大きいも小さいもないと思うからです。
 話がそれましたね。

 扉が叩かれたとき、私はちょっとうとうとしていました。
 いけません。私はすぐに扉を開けました。
 でも。
 そこに立っていたのは、ご主人様ではなくて。
 一人の女の人でした。

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