「よお、今から飯?」
「あ、先輩。そうですけど」
「ん〜愛妻弁当かね? …って、どー見てもコンビニ弁当だな、そりゃ」
「はあ、そうですけど」
「どうしたんだよ。確かお前、メイドロボ買ったんじゃなかったっけか?」
「はい、買ったんですけどね」
「じゃあ、弁当ぐらい作ってもらえばいいじゃん」
「それがその…」
「なんだ? 喧嘩でもしたか? って、しねえか。相手はロボットだもんな」
「いやその、それです」
「は?」
「喧嘩です。いや、どちらかというと、あっちが怒ってるんですけど」
「ちょいと待てい。どこの世界に主人に対して怒るメイドロボがいる?」
「残念ながら、うちにいます」
「なんだそりゃ? お前んちのって、どんな奴なんだ?」
「一言で言うと、ユーモラス、ですかね」
「例えば?」
「例えば、僕が家に帰るとしましょう」
「ふんふん」
「部屋には、メイドロボが待っています」
「問題ないじゃん」
「部屋のテレビには、バラエティ番組が映っていて、テーブルの上には
解きかけのクロスワードパズルがあります。時々質問されます。で、慌てて
出てきたのか、後ろ手にはごませんべいを隠しています。食べかけの」
「…何故ロボットがせんべいを食う?」
「食べること自体は出来ますし、味も分かります。栄養にはなりませんけど」
「いや、それはそうかもしれないけど」
「つまり、僕が留守の間、彼女はごろごろとくつろいでいる様子です」
「なんつーか、楽しいヤツだな」
「はい」
「で? なんで喧嘩なんかしてんの?」
「はあ、それはですね」
「ほうほう」
「昨日、僕が家に帰ったとき、いつもなら一応出迎えてくれる彼女が、何故か出てこなかったんです」
「買い物でも行ってたんじゃねえのか?」
「と、思ったんですけど、靴がありました。それに風呂場の方から水音がしたんです」
「風呂掃除か?」
「僕もそう思いました。で、風呂場に行って、ドアをガラガラっと開けて」
「ああ、なんとなくオチが見えたな」
「はい。大体予想できると思いますけど。そこには、彼女がシャワーを浴びていたわけです」
「…シャワーまで浴びるんかい」
「皮膚が汚れていると、冷却効率が落ちるし、何より清潔でないそうです」
「まあ、そこら辺はロボットでも一緒か。で?」
「僕としても、相手はロボットとはいえ女の子ですから、一応謝ろうとしたんですけど、
さすが高級機種ですね。僕が反応するよりも早く、風呂桶が飛んできましたよ。でもって、
”ひどいです最低です軽蔑ですあんまりです"って一息で言い切られちゃって」
「声色使わないように。で、怒っちゃったってわけか」
「はい」
「そりゃ、お前が悪いな」
「まあ、そうでしょうけど」
「いや、明らかに悪い。男と女が喧嘩になった場合は、例外無く男が悪い。そういう事にしとけ」
「…それは、どうかと思いますけど」
「まあ、そうすれば諦めも付くって話だ。とりあえず謝っとけ。な?」
「…はい、そうですね」
「しかし、お前も変なロボつかまされたなあ」
「ですよねえ。まあ、これはこれで楽しいから、別にいいんですけど」
「結構しぶといな、お前」
「はあ。と、そろそろ昼休み終りですね。それじゃ」
「おう。ところで、重要なことを聞くのだが」
「なんですか?」
「彼女、大きかったかね?」
「先輩っ!」

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