当たり前の話だが、メイドロボに限らず、ロボットというものはプログラムに従って動いている。

 しかしながら。
 たとえばメイドロボのような、極めて汎用的な状況を想定しているロボットの場合。
 すべての行動をあらかじめ指定しておくことなど出来ない。
 考えてみたら当たり前の話なんだけど『すべての状況の対してそれに対応する反応』なんて設定していたら切りが無い。
 それこそ、『迷子を見つけたとき』から『主人のへそくりを発見したとき』まで書いておかなければならない。
 とてもじゃないが、そんな事やってられない。
 ということで、そういった『知能のある』ロボットは、核となる、学習機能を持ったプログラムを書き込まれ、
そののち、実際の仕事をする際に必要となる知識を勉強するらしい。
 まあ、どんな風に学習機能を持ったプログラムを作るのかは、企業秘密だかなんだからしいけど。
 
 でもって。
 この学習、というのがポイントで、すべての機体にまったく同じ学習をさせることは出来ない。
 人間だって、双子でも性格は随分と違ってくるものだし、それに、ハードウェア的に見ても、
同機体でもわずかながらの違いがある。

 よって、そういったロボットには『個性』が生まれてくるわけだ。
 通常、この個性というのは、ぱっと見ただけでは解らない程度のものらしいし、
セリオのように発売してから随分と経ってこなれてきた機体には、個性的な機体は極めて少なくなる。
 と、いっても、やはり人間のすること。ミスはどこまでいっても消えない。
 ときどき、通常の性格設定とは常軌を逸した『変異種』が発生することがあるらしい。

 そして、その『変異種』さんは。
 今しがた、5枚目の皿を割った。

「…あ」

 あ、じゃないって。
 床に落ちて割れた皿を見て、そのあと僕の方を見て、ひきつった笑みを浮かべる。
 僕としては、なんつーか、悟りを開いたような表情でそれを見ているしかない。

「ご、ごめんなさいっ、おかしいな、お皿の洗い方を衛星からダウンロードしたはずなんですけど…」

 んな事しているから、手から皿がすべるんじゃないのか?
 …つーか、皿の洗い方ぐらいダウンロードするまでもないだろ。
 僕はやれやれ、と思いながら、

「もういいよ、セリオ(偽)さん。皿は僕が洗っておくから」
「…え? でも」
「いいってば。じゃあ、お風呂の用意でもしておいてよセリオ(偽)さん」
「あの、なんで名前の後に(偽)をつけるんですか?」
「それっぽいから。ダメ?」
「いえ…駄目という訳ではないのですが」

 セリオ(偽)さんがやってきてから、二、三日。
 まあ、世の中こんなもんかなあ、と、今は思っている。

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