マニュアルを見ながら必要な操作を済ませる。
閉じていた彼女のまぶたがゆっくりと開く。
僕を認識したらしい彼女。立ち上がり、僕の方に一歩近づこうとして、
床に置きっぱなしになっていたマニュアルの一冊を踏んづけて、足を滑らせてこけた。
鼻から。
「いたたたたた」
体勢を直し、座り込んだ姿勢で鼻を押さえるセリオ。
「だ、大丈夫?」
「もぉ、こんなところに本置きっぱなしにしないで下さいよぉ」
は?
今の台詞は?
「あの?」
「え?」
「セリオ…さん?」
「あ、はい!」
そこで、セリオは自分の台詞に気付いたらしい。
「あ、ごめんなさいっ。私ってば、ご主人様に口答えするなんて」
「いや、別にいいけど…」
ちょっと待て。
これが「セリオ」なのか?
冷静沈着、正確無比。常に落ち着いているクールで優秀なメイドロボ。
起動しての1分に満たない時間。彼女が見せた態度は、とてもそうとは思えないものだった。
僕がそんな事を考えている間に、セリオは立ち上がり、服のほこりをぱたぱたを払うような仕草をして、
「お買い上げありがとうございますっ。始めまして、私、HM13型、セリオと申します。
ふっつかものですが、なにとぞよろしくお願いしますっ」
ぺこりとお辞儀をしつつそう言った。
そして、僕の方に近づこうとして、
またマニュアル踏んづけてこけた。
「あたたたたたたたた〜」
…。
ひょっとしたら僕は。
「はずれ」を引いたんじゃないだろうか?
そんな事を考えていた。