彼女を見つけた僕は、しばらく立ち尽くし―そして、急いで彼女を家につれて帰った。
病院に行くよりも、家のほうが近かった。
そして、セリオに彼女を診てもらい、現在彼女は僕の家で眠っている。
確かに彼女の作業は手馴れていたし、素人目に見ても的確だったと思う。
でも、彼女は眠っている。
『外傷はありません』
『また、外部からのコマンドで、冬眠モードに入ることを止められていた様子もありません』
『彼女は、自分の意思で、この状態にまでなったんだと、推測されます』
僕は、彼女が目覚めるのを待つ。
*
その人がやってきてから、もう1日たちました。
つまり、その人は昨日私達の家へとやってきた事になります。
昨日の夕方すぎ。
その人は、ご主人様に背負われてやってきました。
HM―13型。
セリオさんと、似た顔をしています。
あたりまえです。いうなれば、彼女はセリオさんの姉妹です。
ということは、私とも姉妹と言うことになります。
でも、私とはあまりにてないな、と、最初思いました。
その人が来てすぐは、とってもあわただしかったです。
私にはよくわからなかったのですけれど、その人が大変なことになっていると言うのは、ご主人様とセリオさんの様子からわかりました。
ご主人様とその人がおうちのなかに入ってきたとき、最初、びっくりした顔をしていたセリオさんでしたが、すぐにとっても真剣な顔になって、二人に駆け寄りました。
その後は、セリオさんがコンピュータをひっぱりだしてなにか色々やっていたと思います。
私もなにかお手伝いしたかったのですけど、セリオさんはなんだか難しい言葉で喋りながら難しい作業をしているみたいで、私にはなんにも出来ませんでした。
ちょっと、情けなかったです。
そして、作業は、夜中まで続きました。
私は、なにも出来ないまでも最後まで見ているつもりだったのですが、何時の間にか眠ってしまっていたようで、気がついたときには朝でした。
やっぱり私は役立たずみたいで、ちょっとしょぼんとしましたが、それよりも、起きたときには事態は収まっていたようで安心しました。
安心しましたが、一つ問題があります。
今、その人は私たちの家にいます。
なんでも、動かすのはきけん、ということらしいです。
それでは、私は、その人のことをなんて呼べばいいんでしょう?
確かに、その人も「セリオさん」です。
でも。
私にとっての「セリオさん」は、セリオさん以外にありません。
だから、違う名前で呼ぼうと思ったのですが、いい名前が思い当たりません。
これは大変です。
大変なことです。
名前って、大切なものだと思うからです。
私がそんなことを考えている横で、その人は眠っています。
ご主人様とセリオさんは、隣のお部屋で、なにか話し合っているようです。
多分、これからどうするか決めているんでしょう。
私は、ぼーと、横に眠っている、その人の顔を見てみました。
その人は、ただ静かに眠っていて、私は、お人形さんみたいだな、と思いました。
だから。
やっぱり、この人は私とも似てるんだと、そう思いました。
*
結論として。
彼女は、しばらく……システムが安定するまでは、この家で介護するべきということになりました。
確かに、病院に連れていく方が設備は整っているのですが、彼女は精神が極めて不安定な状況にあり、今のところはなんとか小康を保っているものの、これ以上環境を変化させて刺激をあたえることは、下手をすれば人格の崩壊すら招きかねないと私は判断しました。
普通ならば、ここまで精神に負担がかかることはありません。
私たちは、その気になれば非常用以外の感覚器官をすべて遮断し、思考も停止させるいわゆる冬眠状態になることで、大抵の状況なら年単位で眠っていることが出来ます。
でも、彼女はそうしませんでした。
そのことで自分がどうなるかも、多分彼女はわかっていたのだと思います。
でもしなかった。
その理由は。
なんとなく、私にもわかるような気もします。
でも、私にそれが出来るかまではわかりません。
今、彼女は隣の部屋で眠っています。
ユニちゃんも、多分一緒に眠っています。
そして、ご主人様は、彼女のことをとても、心配しています。
そして、私はいやな奴です。
多分、私は、そんなご主人様を見て。
彼女に嫉妬してます。