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ねえ、おにいちゃん・・・・・・。 |
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ん? |
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あたし、大学は東京にしようかなあ。ねえ、どうしよう? |
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どうしよって言われてもな・・・・・・、そんなの、自分で決めろよ。 |
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え〜、おにいちゃんなんか冷たい・・・・・・。おにいちゃんが寂しいっていうなら、あたし、こっちから通える所にするのに〜。 |
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あのなぁ。大学って、そういう決めかたするもんじゃないだろ、普通・・・・・・。でも瑞葉、一人暮らしなんかできるのか? どう考えても不安なんだけど。 |
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やっぱり心配!? |
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喜ぶなって・・・・・・。 |
瑞葉は天美館でのバイトを辞め、実家で暮らしている。 「家はすぐ近くなんだからこっちで暮らす」という瑞葉の理屈は、さすがにというか当然というか彼女の母親には通じなかったらしく、家で受験勉強に専念する事になったようだ。予備校の合宿で倒れたという件も、家族の判断に影響しているのだろう。 とは言え、べつに外出が禁止されている訳でもないので、こうして毎日のように天美館に遊びに来ている。たまには予備校の友達と一緒に来て、メルルにお菓子の作り方を教わっている事もある。 そういえば、柊宏樹とは仲直りしたのか、よく電話で話しているようだ。ただ、瑞葉の話を聞いていると、柊の方は瑞葉のワガママに振り回されているだけのようにも聞こえる。「ヨリが戻ったのか?」ときいてみた事もあったが、「おにいちゃんの方がいいもん」という答えは相変わらずだった。 しかし、瑞葉が夜中にベッドにもぐりこんでくる事は、もうなくなった。 あの次の朝・・・・・・。 俺は、瑞葉の病室で目を覚ました。「おはよう、おにいちゃん!」という、昨夜の弱々しさが嘘のような元気な声に起こされて。 いったい病院までどうやってたどり着いたのかは、あとで考えてみてもどうしても思い出せなかった。車は家に置いてあったし、バスの走っている時間でもない。タクシーでも拾ったか、まさかとは思うが歩いてきたとでもいうのだろうか。そこまではいいとしても、深夜の病室にそう簡単に入れるはずがない。 様子を見に来た看護婦の驚きが、どうやら一晩中ここで眠りこけていたというわけではないらしいという、唯一の証拠だった。 あれ以来、瑞葉が体調を崩すような事は起こっていない。瑞葉の身になにが起こっていたのか、本当にみよりの存在が瑞葉の生命になんらかの影響を及ぼしていたのかどうか――今となっては、それを確かめる術はない。 ただ、今は瑞葉は元気になっている。それだけは、素直に喜んでもいい事なのだろう。 それでも、あの夜の事は夢ではなかったのだろうか・・・・・・。 その疑いは、今でも捨て切れない。いや、俺はむしろ、そうであってほしいと願っているのかもしれない。 みよりは、雪子さんの所へも帰らなかった。 もしもみよりが帰ってきたらすぐに連絡するから――電話の向こうでそう言っていた雪子さんの声には、すすり泣きと、なにかそれ以上に悲しい響きが重なっていた。 あるいは、あの人だけは、こうなる事を予感していたのかもしれない。 あの人は、みよりと「同じ」だったのかもしれないから・・・・・・。 だけど。 だけど、俺はまだ―― | |
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ところでおにいちゃん! |
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あ? ああ、なんだよ。 |
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庭のみかん、そろそろきれいな色になってきたよね! |
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ああ・・・・・・去年までぜんぜん実をつけなかったのに、いきなりいっぱい生ったよな。そーいえば、お前の家にもあったろ、みかんの木? この前行ったとき気づいたんだけど。 |
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ん〜とね、あれ、借家だった間に植えたんだって。思ったより大きくなっちゃって持っていけないから、くれるって。これでおにいちゃんとお揃いだね |
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それが良かったのかな。今まで、近所に他のみかんの木ってなかったもんな・・・・・・。 |
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ね〜、とってきていい? |
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いいよ。行ってくれば。 |
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おにいちゃんも行くの〜。 |
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なんで・・・・・・届くだろ、低い所に生ってるやつなら。 |
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だって、一緒に約束したでしょ〜! |
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そっか。――そうだな。 |
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えへへ☆ |
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なんだよ、なにがそんなに嬉しいんだ? |
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いいの〜。じゃあ行こ! |