〜 10月7日 天美館 〜
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ご主人様、今夜の夕食はなにがよろしいですか? |
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んー、なんでもいいけど。 |
| そんな事をおっしゃらずに、お好きなものを言いつけてくださいませ。 | |
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と言っても・・・・・・メルルのは本格的だからなあ。あんまり手間のかからないものの方がいいだろうし。 |
| いえ、ご主人様が喜んでくださるのでしたらそのくらい・・・・・・。 | |
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あー、てゆーか、メルルの料理だったらなんでもうまいからさ。簡単なんでいいって。そだ、それにさ、相手が好きそうな物を考えるっていうのも料理の楽しみなんじゃなかろーかと。 |
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あ、はい・・・・・・。それでは、魚介のリゾットなどいかがでしょうか? |
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うん、じゃあそれでいいよ。 |
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はい、かしこまりました |
メルルは、予定どおりこのみと同じ大学に留学生として編入する事になった。 在国中の住まいについては大学側でも寮を用意していたらしいが、本人及び両親の強い希望によりそちらは辞退。またこの家で暮らす事は、彼女とその家族にとっては決定事項以外のなにものでもなかったらしい。メイドとして、という話は聞いてなかったはずなのだが。 それはそれでいいとしても・・・・・・。 「今でも、気持ちは変わりません」。 ここへ帰ってきた夜、メルルの言った言葉だ。 けれど、その言葉を言うたびに泣く事はなくなった。一緒に過ごした時間。離れていた時間。それは、まだほんの少女だった彼女を、少しだけ強くしたのかもしれない。 いつか彼女の前に新しい恋が現れるまで、彼女はそうして少しずつ強く、美しくなっていくのだろう。 そのときまで、彼女の気持ちは変わらないままでもいいのかもしれない。 きっとそのときには、彼女は誰よりもきれいになっているだろうから。 | |
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あ、ご主人様、今年の冬はなにがいい? |
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あん? なにって、なんのなにだ?? |
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今日ね、毛糸買って来たんだけど。前はマフラーだったから、今度はセーターがいいかな? |
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ああ・・・・・・編み物の話か。 |
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だって、この時期になったら少しはやっとかないと腕が鈍っちゃうし。どうせならもらってくれる人がいるほうがいいから。 |
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彼氏とかは? |
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・・・・・・いないから、あなたに聞いてるんでしょ。 |
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ああ、そーか。 |
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そこで納得しないでほしんだけど。 |
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悪い、じゃあ、手袋がいいな。セーターは静電気がさー。 |
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そだね。じゃあ手袋ね、任せといて。 |
気安い関係。 一言で言うなら、そういう事だろうか。 「友達」と説明して、他人が納得してくれるかどうかは怪しい。男と女、異性同士のわりには、遠慮というものが二人の間に足りない。人に彼女を紹介したとき、そう言われた事もあるからだ。 けれどなにより、そんな「距離」を意識する必要がないという事が、恋人のような関係ではないというなによりの証明ではないだろうか。 もしかしたら、それは「親友」というものなのかもしれない。 このみは相変わらず、大学に通いながらここで働いてくれている。1年後の事は分からないけれど、明日は、明後日は、やっぱりこのみはここにいてくれるだろう。そんな安心感が、彼女にはある。 ・・・・・・彼女に恋人ができたという話は、まだ、聞かない。 | |
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なあぁ〜。(とてとてとて) |
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あれ、みゃあ。なにくわえて来たんだ? |
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みゃあ! |
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・・・・・・。 |
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・・・・・・。 |
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みゃあ〜ん |
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・・・・・・いや、気持ちはありがたいんだけど。俺、こんなもんもらっても困るんだが。 |
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みゃあ? |
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(むくっ。だだだだだ・・・・・・) |
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みゃ〜〜〜〜〜!! |
・・・・・・みゃあは相変わらずだ。 まだ冷たい雨のなか、水の染み込んだダンボール箱の隅で鳴いていたのを拾って来てから1年と半年。 そのうちみゃあにも子猫が生まれるのだろうが、あのときの、まだ名前がなかった頃のみゃあと同じような目には決して合わせまいと思う。幸い、子猫の貰い手には心当たりは多いし、この家が賑やかになるのもいいかもしれない。 でもそれは、みゃあの様子を見ていると、まだまだ先の事かもしれないという気もする。 そして―― | |