〜 3月1日 〜


・・・・・・ただいま。
おかえり〜。
帰ってないのか?
また、そういう言い方する。
あ、お帰りなさいませ、ご主人様・・・・・・。あの、お茶はいかがなさいますか?
うん。できればあんまり熱くないやつ。
申し訳ありません。私、まだご主人様のお好みに淹れられなくて・・・・・・。
いつも、みよりが淹れてたもんね〜。
・・・・・・そうだな。
あ、えっと、そーゆーことじゃなくって。
もう、二週間になるんですね。
ああ。今日、警察に届けてきたよ。事情が事情なんで、俺もだいぶ絞られたけどな。ついでに捜索願が出てる家出人の事も聞いてきたけど、年齢が同じ女の子でも、みよりはいなかったよ・・・・・・。
そっか。
・・・・・・。
あ、でも、もしも単に家出したんだとしても、みよりならきっと元気にやってるわよ。いつも無駄に元気だったじゃない。ね? そう思わない?
そうでしょうか。
メルル・・・・・・。
私なら、元気でなんかいられません。いちばん愛している方と離れて、元気でいる事なんか、できません・・・・・・。
ね・・・・・・本当に、みよりが想い出だとしたら、だけど。みよりからすれば、たぶん、離れたわけじゃないんじゃないかな。
どういう意味だよ・・・・・・?
だって、みよりって、想い出――妖精だか幽霊だか天使だか知らないけど、そういうのなんでしょ。あなたの想い出が帰るところって、あなたの心のなかしかないじゃない。だから、会えなくっても、話せなくても・・・・・・みよりはいつまでもそばにいられる方を選んだんじゃないかな・・・・・・そう、思わない?
でもそれじゃ、みより自身の想い出は、どこに行くんだよ。独りぼっちじゃないか。これじゃ、あいつは独りぼっちだろ!? そばにいるったって、これじゃ窓を覗いてるだけと、変わらないじゃないか・・・・・・それだけじゃ嫌だったから、ここに来たんじゃなかったのかよ・・・・・・。
でも、わからないでもない。そういう気持ち。
そんなの・・・・・・! なんだ、信じかけてるのかよ、俺。
何が?
いや、なんでもない。今日はもう休むよ。
ご飯は〜?
いい、ファーストフードで済ませてきた。(すたすた・・・・・・)
またそんなのばっかり・・・・・・。
あ、このみさん、私、ご主人様にお食事をお持ちしますね。今夜作ったビーフシチューでしたらお召し上がりになられるかと思いますので。
そだね。でも・・・・・・
なんですか?
あのひと、もうここにはいないみよりの事ばっかり気にしてるのに、どうしてメルルはやきもちもやかずにいられるのかなって。
・・・・・・。
ごめん。気にしないで。変なこと言っちゃった。
いえ・・・・・・ご主人様、言ってくださいました。私が、フランスに帰るときまで、恋人でいてくださるって。いいえ、恋人でいてもいいって。ご主人様から見れば、子供の遊びにしか見えないのかもしれませんが、私、真剣なんです。
私、ご主人様がいちばん安心して頼れるはずのひとなんです。そうじゃなければいけないんです。そう・・・・・・なりたいんです。
難しいかもよ。今は。それでも?
はい・・・・・・。(しずしず・・・・・・・)
・・・・・・。
帰るときまで、ね。子供の遊びよ、それじゃ。

メイドさんごっこも、子供の遊びのまま・・・・・・もう終わりかな・・・・・・。
〜〜〜〜〜「ご主人様」の部屋〜〜〜〜〜
(コンコン)ご主人様、まだ起きておいでですか? お食事をお持ちいたしました。
(・・・・・・がちゃ)あれ、もう寝ようと思ったから、わざわざ持って来てくれなくても良かったのに。
みゃ〜。(すりすり)
あ、みゃあちゃん。だめですよ、まとわりついたらこぼれてしまいます。
ふみぃ。
あー、とりあえず、ありがと。
はい。
・・・・・・えーと。
はい。
あー、そだ。話があるんだけど、ちょっと入ってくれないか?
あ、はい、なんでしょうか?
・・・・・・あー、うん。
・・・・・・?
・・・・・・。
みゃー。
あの、シチューが冷めてしまいますよ。
みゃああ〜。
え、ああ、そだな。ほれ、みゃあの分。冷ましてから食えよ。
みゃぁ (はむはむ)
ん、うまい。
はい、どうもありがとうございます。
――それで、だけど。
はい。
メルル・・・・・・次の誕生日、な。たぶん、フランスで迎える事になる。
・・・・・・! はい・・・・・・。
ごめんな。あんまり、かまってやれなくて。
いえ・・・・・・仕方ないです、こんな事になってしまったんですから。
誕生日プレゼント、今のうちに渡しておこうと思うんだけどさ。なにがいい?
欲しい物なんて・・・・・・ありません。その代わり・・・・・・いつまでもここに、いさせてくださいませんか? 
それは――
分かっています。無理を言って、すみませんでした・・・・・・。
なあ、メルル。やっぱり、俺には無理だよ、恋人の代わりは。俺がお前にしてやれる事なんて、なにもない。なにもしてやれないよ・・・・・・・。
ご主人様。教えてください。みよりさんのこと、愛していらっしゃるんですか?
・・・・・・い、いや、そーゆーふーに訊かれるとアレだけど・・・・・・。
いちばん、好きなんですか?
・・・・・・そうだよ。そうなんだよな。いつの間にか、そうなってた。
白い服の女の子じゃなくて、みよりが・・・・・・。
ひどいです、みよりさん。ご主人様がそんなに大切にしてらっしゃるのに、いなくなるなんて。・・・・・・ひどいです・・・・・・。
なあ、メルル。
はい・・・・・・。
俺、みよりだけは、ずっとここにいてくれると思ってた。メルルがいつかフランスに帰る事になるのは、最初から分かってた。せいぜい1年くらいだとは思ってたけどさ、夏に手紙に来たときは、やっぱり・・・・・・ショックだった。
このみだって、高校を卒業したあとは、進学先が決まっていればそっちに移るだろうし、引っ越した家族の所に戻るかもしれない。どっちにしたって、ここにいられるのは、1年だけだ。
でも、それでもみよりだけは、いてくれるって思ってたのにな。好きとか嫌いとかは関係なく。いつまでだって、そのままでいてくれると、思ってた・・・・・・。
ご主人様・・・・・・。
みよりが俺のためを思っていなくなったんなら、俺は、みよりなしでも笑ってないといけないのかな。それがみよりのためなのかな。
でも、さ。寂しいよ・・・・・・やっぱ。みよりがいないと、静かすぎて落ちつかないもんな。みよりがいないと・・・・・・
・・・・・・ぁ。ご主人様、泣いて・・・・・・
あ? いや、花粉症なだけだ。・・・・・・そんなお前まで泣きそうな顔するなよ。
ご主人様! (ぎゅ・・・・・・)
え、あ、メルル・・・・・・。
ご主人様・・・・・・・寂しかったら・・・・・・いつでもおっしゃってくださいね。私、いつでもあなたを抱きしめて、あなたのために子守唄を歌ってさしあげますから・・・・・・。
子供かよ、俺は・・・・・・。
いいんです、子供の遊びのままでも・・・・・・。あなたが元気を出してくださるなら・・・・・・・。
メルル――。うん・・・・・・ありがとう・・・・・・。



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