K2 Expedition 1994



(2)BC〜C2建設

 ◆7/ 5(火) BC←→ABC (ABCの建設と荷上げ)  
  今日より登攀活動の開始。6時前から荷上げ物の計量。戸高・北村・成田・加藤は一人当た
 り20sの荷上げ。個人装備を入れて29sになる。30分程モレーンを歩くとやっと雪原に
 出る。「これぞ氷河」と思うがなかなか歩きづらい。1時間で一本。先行する隊の赤旗の地点
 だ。前方にはABCらしい所が見えるがいっこうに近付かない。さらに1時間歩いてアイゼン
 を付け,セラック帯に入り込む。はじめは何でもないが,核心部は約50m。7mmザイルを出し
 てアンザイレンして突破する。韓国隊のフィックスザイルがあるが,スノーバーは利いていな
 い。それでもそれにカラビナを通し,スノーブリッジを通過する。
  3時間半でABCに到着。他の隊は南東稜の末端のガラ場にテントを張っているが,狭く悪
 るそうなので,手前のモレーンを整地しテントを2つ張る。戸高・北村・成田は高所順応と称
 して2時間程登り,5900mまで往復してくる。
  加藤は途中で雪解け水に足を突っ込んで靴が濡れ乾かしたので,先の3人とは同じ行動を取
 らなかった。でもあまり先を急いでもしょうがないのでこれで十分と思う。
  帰りは坂原・松井・加藤の3人で下る。雪解けが激しく,セラックは崩壊しないかクレバス
 に落ちないかと心配になる。最後30分のモレーン歩きが一番つかれる。テント場跡の小山が
 点々として迷路のようである。3:00BC到着。双眼鏡を出すとABCが見えた。
◆7/ 6(水) BC→ABC→C1→ABC(C1の建設とABCへの荷上げ)  
  今日はC1建設の日。本格的に山へ登り始める。ABCまでは高度差にして 300mだがほと
 んど水平。BCからK2に向かってその裾の下を見つめて右に視線を移動するとABCが見え
 る。僅かに氷河の高さが感じられる程度。しかしABCからは雪稜に取り付き,いっきに6230m
 までの700mの登り。3時間でABCに到着し30分休んで出発。ガラ場をトラバースして右手
 の雪面を登ると200mでフィックスロープが垂れ下がり,ユマーリングとなる。北村はアッとい
 うまに先に行き,その後戸高・加藤が続き,成田が少し遅れる。初めてのユマーリング。戸高
 は途中でストックをデポし,ザイルに任せてどんどん登って行く様子。自分はピッケルを頼り,
 確保にユマールを使うが,これではだめなんだろうなぁと思ってしまう。しかし,頼りきるの
 は安全ではないので最後まで頼らず,ピッケルとアイゼンで頑張る。しかしどんどん遅れザイ
 ルで2本分遅れたところでとうとう追い付かなくなる。
  12:50 C1着。北村は12:00 着。戸高は12:10 着。成田は2:10だった。
  少し休んで傾斜した雪氷をピッケルで削る。エスパースの4人用テントのスペースを切るの
 は一苦労。小西隊もおり2人はC1に残り,2人はABCに戻るという。温かいポカリをもら
 う。「うまい」。成田が到着しテントを立て,小西隊の後から下山を開始する。これはもう完
 全にロープに頼りっきりの下山。そんなに急な斜面でなければロープを腕に一巻きして前向き
 に滑り降りて行く。急なところはエイトカンを使って懸垂下降。それを組み合わせてどんどん
 下る。なかなか楽しいが,ロープが切れたら…と思うとぞっとする。これはもう運に任せるし
 か無い。また落石も多く気が抜けない。あやうく大きな奴に一撃を食らうところだった。最後
 は春山のような雪で,ズボ,ズボ,ザーと滑り降りる。 
◆7/ 7(木) BC停滞(休養)      
  いつもは5時起床6時出発だが,今日は休養日なので,7時起床で8時朝食。食後ミーティング。
 今日は成田氏の29歳の誕生日なので昼食に誕生祝いをする。加藤が実行委員長で,村上・津戸が
 ついて食事の用意をしてもらう。加藤はパキスタン製のローソクとビール缶をつかってバースディ
 キャンドルを作る。食事は,五目ちらし,わらび餅,ココアゼリー。
  ビールで乾杯をして全員からお祝いの言葉。これはみんな『29歳のときどんなことをしていた
 か,考えていたか』を言い合った。         
  午後4時には,戸高・北村・松井がABCに向けて出発。自分はシャワーを浴びて髭剃り。それ
 から,荷上げ用の個装をアタックとそれ以外に分けてパッキングする。
◆7/ 8(金) BC→ABC→C1→ABC (C1への荷上げ) 
  昨日ABCに入った松井・戸高・北村はC2への荷上げに挑戦。加藤は成田と一緒にC1への荷
 上げ。ABCから4時間40分でC1。昨日より遅かった。20分程休んで下る。1時間でABC。
 初めてABCに泊まる。だから持ってきたのは10s+個人装備。テントをもう1つ張って,ジャ
 ンパースに戸高・北村・成田・加藤が泊まる。3人は咳こんでいて……自分はその中に居たら,と
 うとう風邪がうつったのか咳が激しくなってしまった。         
◆7/ 9(土) ABC→C1→C2→C1  (C2への荷上げ)
  今日は戸高・加藤がC2まで行ってC2を建設してC1へ。成田はC2へ荷上げ。北村はABC
 で休養の予定。            
  7時過ぎに出発し,4時間でC1。成田氏は今日は速かった。しかしC1からは荷物が軽くなる
 のでバンバンユマーリングして(ロープに頼って)3時間40分でC2に到着。ハウスのチムニー
 の手前の一寸した緩斜面に小西隊のテントが張ってあり,近くで休憩をとる。成田氏は途中6600m
 地点から引き返す。1時間以上も氷の斜面を削ったが午後の4時を過ぎたので,戸高氏と一緒に下
 りC1泊。初めてのC1泊だが落石については余り気にしなかった。
◆7/10(日) C1→C2 (C2の建設)
  今日はC2に入り,C2の建設を完了する予定。そしてC2に泊まることになる。みんな調子が
 あまり良くないので体調の良い戸高と加藤が指名される。ウクライナ隊は今日アタックの予定。
  6時ごろ起きて8時出発。途中のガリーで上から降りてきたドイツ人に石を落とされ,危なく直
 撃を避けたが左膝に落石を受ける。途中でトイレタイムをとったので戸高氏に抜かれると思ったが
 抜かされなかった。調子が良くないようだ。4時間30分でC2到着。振り返るとブロードピーク
 の奥にG1らしきとんがりが見える。今日もまた昨日の続きの土木作業を繰り返し2時間半以上も
 かけてやっと4人用テントを張る。そうしていると,昨日アタックしたというドイツ隊のロブ・ホ
 ールが降りてきて色々話す。彼は,酸素を吸って15時間で頂上に着いたという。              
  その夜は雪が降り,壁際に雪が入り込んで押され寝苦しかった。一度10時ごろ起きて,ココア
 を作って飲んでまた寝るという有様。   
◆7/11(月) C2→BC         
  起きると頭が少しガンガンし,顔面も少しむくんでいる様子。風が強く上部はガスで隠れている。
 テントは昨夜の降雪で潰され,掘り起こす。朝の無線で昨日アタックしたウクライナ隊は4人のう
 ち3人が帰ってこないという連絡。1人は途中で諦め下ってきたという。8時の交信時も天気が悪
 くC3には行けないので加藤は下ることにする。C1の北村氏は調子が戻ったと言う事で,戸高・
 北村はC2ステイ。9:30加藤は一人で下山。北村氏と交差し, 11:00にC1で一休み。風で韓国隊
 と小西隊のテントが凧の様になったいた。 12:00ABCに到着。神ちゃん,鈴木氏,八尾さんにそ
 れこそ10日ぶりに再会する。テントの中でゆっくり休み,15時BC向けて松井・津戸と一緒に出
 発。17:20 BCに到着するが,同時に雨が降りだし…山は崩れ出した。いい時に下ってきたと思う。    


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