産婦人科疾患の解説

子宮筋腫

●子宮筋腫ってどんな病気ですか

子宮筋腫は最も多く遭遇する婦人科領域の良性腫瘍です。ごく小さなものも含めれば、およそ3~4人に一人の女性が持っていると言われています。できる場所や大きさによって症状は異なりますが、過多月経、月経痛、頻尿、腹部膨満感、腰痛等がみられることが多いようです。女性ホルモン(卵胞ホルモン) に依存して発育するため、閉経後は発育せずに次第に縮小します。
サイズが大きくなく、症状が強くなければ原則として経過観察でよい場合が多いのですが、経過観察中に大きくなったり、症状が強くなったために治療が必要になることもあります。急に増大した場合には子宮肉腫という悪性腫瘍であることもありますので、手術治療を選択する対象となります。

●診断法にはどんなものがあるのですか

確実な診断は手術標本の病理学的検査により行われますが、通常は画像検査によって診断が行われています。最も手軽に行えるのがエコー検査です。身体に対する侵襲がなく頻回の検査でも影響はありません。経膣エコーが行われることが多いのですが、大きな筋腫では経腹エコーでないと全貌がわからないこともあります。さらに質的な診断の精度を上げる場合にはMRIの検査が行われます。

●治療法にはどんなものがあるのですか

▼薬物療法
女性ホルモン (卵胞ホルモン) を下げることによって筋腫を縮小させる方法がとられます。現在、GnRH (性腺刺激ホルモン放出ホルモン) アゴニスト (同じ作用を持つ薬剤) とGnRHアンタゴニスト (作用をブロックする薬剤) の2種類があります。どちらも結果的に卵胞ホルモンを下げる働きをしますが、アゴニストは4週間ごとの注射・鼻への毎日のスプレーの2種類の投与法があります。アンタゴニストは飲み薬です。
どちらも基本的に月経を止め、閉経した状態を一時的に作り出します。そのため、更年期様の症状が出たり、骨密度の低下がみられます。この治療は6か月まででいったん終了することになっています。最大で50~60%程度にまで縮小することがありますが、治療をやめるとまた発育を開始します。この理由から根治的な治療とはなりませんが、過多月経の方の手術前の貧血改善や縮小することによる手術のやりやすさを目的として使われることがあります。また、閉経が近い方では逃げ切り療法として、縮小させて閉経に持ち込む方法として行われることもあります。
▼手術療法
根本的な治療ですが、手術をするという身体的な侵襲のある治療法です。筋腫のみを摘出する「筋腫核出術」と子宮全体を摘出する「子宮全摘術」の2通りの手術法があります。
筋腫核出術では子宮が残りますから、妊娠・出産の可能性も残ります。一方で、筋腫が再発することもあるので、根治的な手術とはなりません。また、非常に大きな筋腫が多数ある場合などでは手術時間も長くなり、出血量も多くなるため、術後の回復が遅れることもあります。
子宮全摘術では子宮を摘出するため、妊娠・出産はできませんが、再度筋腫ができることはありませんので根治的な手術といえます。以後の妊娠を希望していない方が対象となる手術です。閉経前後の方を除けば、基本的には卵巣を摘出することはないのでホルモンが出なくなるわけではありません。したがって、子宮全摘だけで更年期の症状が出るわけではありません。
▼子宮動脈塞栓療法 (当院では行っていない治療法です。)
子宮に流れ込む動脈に詰め物をして血流を止めてしまう方法です。その結果、筋腫は縮小しますが、筋腫のできている部位によって効果の程度は変わります。痛みを感じる方もいるようです。原則として以後の妊娠を希望しない方を対象とすることが多いのですが、妊娠を希望する方にも行っている施設もあります。

子宮内膜症

●子宮内膜症ってどんな病気ですか

子宮の内側には子宮内膜という組織があります。子宮内膜は月経周期の中で次第に厚くなって赤ちゃんの受け入れができるような準備を整えますが、妊娠が成立しない場合にはこの厚さを維持することができなくなって、はがれて崩れ落ちてしまいます。これが月経なのですが、この子宮内膜が子宮の外で発育してしまうのが子宮内膜症です。「子宮内膜症」は子宮の病気だと勘違いされることが多いのですが、実は子宮の外にあるのが子宮内膜症なのです。
卵巣に子宮内膜症があるとチョコレートのようなドロドロした液体がたまる嚢胞ができます。年齢とともにこの中からがんが発生することが増えてくるので、慎重に経過を見ていく必要のある病気です。がん化する可能性は30歳代で1~2%、40歳代で4~5%、50歳代で20%、60歳代では50%といわれています。また大きさが10㎝を超えるとがん化率が増加するともいわれています。
子宮内膜症が進んでくるといろいろな症状が出てきます。月経に伴う症状が最も多く、月経痛、腰痛などが月経時に増悪したら子宮内膜症の可能性があります。性交痛や排便痛を伴うこともあります。進行すると腹腔内の癒着を起こし、不妊の原因にもなります。卵胞ホルモンに依存して発育する病気ですから、妊娠している間や閉経すると軽快します。

●子宮内膜症の診断はどのようにつけるのですか

確実に診断をするには腹腔鏡で腹腔内を観察するか、手術で切除したものの病理検査によることになりますが、実際には症状と内診所見、超音波所見などを総合して判断することが多いと考えます。他にCA125という腫瘍マーカーが上昇することが多いので参考にします。卵巣の子宮内膜症によるのう腫 (チョコレート嚢胞といいます) の診断には超音波検査と共にMRIが役に立ちます。

●子宮内膜症の治療はどうするのですか

診断がついたらまずは薬物療法です。子宮筋腫に対する薬物療法と似ていますが適応のある薬剤が少し異なります。子宮内膜症に対して認められている薬剤には、閉経と似た状態を作るものと妊娠と似た状態を作るものの2種類があります。女性ホルモン (卵胞ホルモン) を下げることによって閉経した状態を一時的に作るGnRH (性腺刺激ホルモン放出ホルモン) アゴニスト (GnRHホルモンと同じ作用を持つ薬剤) には4週間ごとの注射と毎日鼻へ噴霧するスプレーの2種類があります。骨密度が低下するので6か月までの投与で終了する必要があります。
偽妊娠療法としては黄体ホルモンの薬が使われます。ジエノゲスト錠とデュファストン錠が適応のある薬剤です。ジェノゲスト錠が主に使われています。月経を止める働きがありますが、最初のうちは不正出血が多くみられます。継続していると不正出血は減っていきますが、出血があっても痛みはないのが特徴です。開始時に少しムカムカする人もいますが、すぐになくなるようです。長期間継続することができるのがメリットです。これ以外に保険適応はありませんが、効果の期待できる薬剤に超低用量ピル (LEP) やミレーナという子宮内に装着する器具があります。LEP は月経困難症に、ミレーナは過多月経と月経困難症に対して適応があります。

症状が強い場合には腹腔鏡下に子宮の後ろの靱帯を切除することがあります。また、チョコレート嚢胞ではサイズが大きい場合や、年齢が40~50歳を超える場合には手術的に取り除くことが勧められることがあります。

子宮頸がん検診

●子宮頸がんとはどんな病気ですか。

子宮の出口の部分 (図を参照してください) にできるがんです。

大きく分けると扁平上皮がん (約80%) と腺がん (約20%) に分かれます。ほとんど全ての扁平上皮がんと腺がんの90%はヒト・パピローマ・ウイルス (HPV) というウイルスが原因でがんになります。
HPVは性行為で感染しますが、感染しても大半は免疫の力で排除されてしまいます。残ったごく一部からがんが発生するのです。また、がんになるまでの途中経過が良く分かっているのが頸がんの特徴でもあります。前がん病変として、子宮頸部上皮内腫瘍 (軽度⇒中等度⇒高度⇒上皮内がん) というものがありますが、検査でどの段階でも発見することができます。

●子宮頸がん検診ではどのような検査が行われるのですか。

内診、膣鏡診 (膣を広げてがんのできる子宮膣部が見えるようにする方法です)、細胞診の検査が一般的に行われます。最近ではこれにHPVの検査を併用する方法もあります。細胞診は子宮膣部をブラシなどの採取器具でこすって細胞を採ってガラスに塗り、色を付けて顕微鏡で見る検査法です。顕微鏡レベルで細胞の異常を見つける検査ですから、胃がんや肺がんなどの他のがん検診で行われる検査法よりもはるかにミクロのレベルでの診断が可能です。

細胞診
この写真ではがん細胞が発見されている



一方でHPVの検査は同様に採取した検体を機械で判定する検査です。細胞診がどの程度の病変があるかをみる検査であるのに対し、がんがあるかどうかではなく、がんの原因があるかどうかを調べる検査です。ですからHPV検査のみではどのような病変があるのかはわかりません。

●子宮頸がん検診は痛いですか。

膣鏡を入れたり内診をするので若干の不快感や痛みを覚える人もいますが、細胞診の採取については基本的に痛くないと考えられます。

●検査で異常が出た場合はどのような検査に進むのでしょうか。

細胞診での異常が出た場合、以上の程度によって対処法は異なります。
▼細胞診の結果が「意義不明な異型扁平上皮細胞 (ASC-US)」となった場合、対処法としてHPV検査が勧められます。ここで「異型」という言葉が出てきますが、「異型」が最も高度となったものが「がん」であると理解していただくとよいと思います。つまり、ASC-USはがんや前がん病変があるような異型度ではないが、わずかな異型が認められるという意味で、この中にはおよそ10%の中等度子宮頸部扁平上皮内腫瘍以上の病変が含まれるとされています。そこでHPVの検査を行って、HPV (-) であれば1年後の検査を受ければよいと判断しますが、結果がHPV (+) であれば病変のある可能性が増えるので、コルポスコピーという拡大鏡での検査と組織検査を行います。
▼細胞診の結果が軽度扁平上皮病変 (LSIL) 以上の場合にはコルポスコピー (拡大鏡) と組織検査が行われます。拡大鏡で病変のありそうな部位を確認して、そこから小さな組織片を切り取って組織の検査をします。細胞診同様に色を付けて顕微鏡で診断しますが、ばらばらの細胞を見る細胞診と違い、細胞の形の変化だけでなく構造の変化も見ることができるのが組織診の特徴です。ただ、細胞診は広い範囲の細胞を集めることができるのに対し、組織診は切り取った部位しか診断できない検査法です。そのため、拡大鏡で観察して最も病変部のありそうなところから組織を切り取るようにしています。コルポスコピーで異常と考えられる範囲によって、採取する組織片は1~4か所程度となります。採取後はどうしても出血しますので、タンポンで圧迫したり、ガーゼを入れて圧迫したりすることが必要です。頻度は少ないですが、出血量が多い場合には縫って止めることもあります。

コルポスコープ

ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンについて

●子宮頸がんを予防する方法はありますか?

 子宮頸がんの予防方法は、HPVワクチンを接種することで、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防することが挙げられます。また、子宮頸がん検診を定期的に受けることで、がんになる過程の異常(異形成)やごく早期のがんを発見し、医師と相談しながら、経過観察したり、負担の少ない治療につなげたりすることができます。

●HPVワクチンの接種はどのようなものですか?

 小学校6年~高校1年相当の女子は、予防接種法に基づく定期接種として、公費によりHPVワクチンを接種することができます。
 現在、公費で受けられるHPVワクチンは2種類(サーバリックス、ガーダシル)あります。間隔をあけて、同じ種類のワクチンを合計3回接種します。接種するワクチンによって接種のタイミングが異なります。どちらを接種するかは、接種する医療機関に相談してください。
 また、平成9年度生まれ~平成17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)の女性の中で、定期接種の対象年齢(小学校6年から高校1年相当)の間に接種を逃した方には、あらためて公費での接種の機会を提供しています。詳しくは「HPVワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」をご覧ください。

●HPVワクチンは絶対に受けなければならないものですか?

 HPVワクチンの接種は予防接種法に基づいて実施されており、国内外の研究結果から、HPVワクチン接種による子宮頸がんの予防効果などのメリットが、副反応などのデメリットよりも大きいことを確認して、皆さまに接種をお勧めしています。
 しかし、接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです。接種を望まない方に接種を強制することはありません。また、接種対象者やその保護者の同意なく、接種が行われることはありません。
 実際に予防接種を受ける際は、ワクチンの効果とリスクを十分に理解した上で、受けるかどうかご判断ください。ワクチンの効果とリスクについてはHPVワクチンに関するリーフレットもご参照ください。
 また、HPVワクチンについて不安や疑問があるときは、お住まいの都道府県に設置された相談窓口にご相談いただけます。

●HPVワクチンは何回接種すればよいですか?

 HPVワクチンは、3回の接種が必要です。
 公費で受けられるHPVワクチンは(サーバリックス、ガーダシルともに)、3回の接種を、次の①または②の接種間隔で行います。
①標準的な接種間隔
サーバリックスについては、1回目の接種を受けた1か月後に2回目を、6か月後に3回目の接種を受けます。
ガーダシルについては、1回目の接種を受けた2か月後に2回目を、6か月後に3回目の接種を受けます。
サーバリックス、ガーダシルともに、1年以内に接種を終えることが望ましいとされています。

②標準的な接種方法をとることができない場合の間隔
 ①の標準的な接種間隔以外でも、小学校6年生から高校1年生相当の年度の間に、公費で以下のとおりHPVワクチンを受けることもできます。
 サーバリックスについては、1か月以上の間隔をおいて2回接種し、1回目の接種から5か月以上かつ2回目の接種から2カ月半以上の間隔をおいて3回目の接種を受けます。
 ガーダシルについては、1か月以上の間隔をおいて2回接種し、2回目の接種から3か月以上の間隔をおいて3回目の接種を受けます。
サーバリックス(2価HPVワクチン)とガーダシル(4価HPVワクチン)の標準的な接種スケジュール

●HPVワクチンの定期接種の対象年齢を過ぎてからでも、接種できますか?

 定期接種の対象であった方々の中には、HPVワクチンの公費での接種機会を逃した方がいらっしゃいます。こうした方に、公平な接種機会を確保する観点から、定期接種の対象年齢(小学校6年から高校1年相当)を超えて、あらためて公費での接種の機会をご提供しています。
 平成9年度~平成17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)(※)の女性で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない方が対象です。対象者は、令和4(2022)年4月~令和7(2025)年3月の3年間、HPVワクチンを公費で接種できます。詳しくは「HPVワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~」をご覧ください。
(※)このほか、平成18・19(2006・2007)年度生まれの方は、通常の接種対象の年齢を超えても、令和7(2025)年3月末まで接種できます。
 対象者に該当しない方でも、任意接種としてHPVワクチンを接種することは可能です。お近くの医療機関などにご相談下さい。ただし、この場合、予防接種法に基づく定期接種(公費での接種)の対象ではないため、接種費用は全額自己負担となります。

●HPVワクチンはどれ位効くのですか?

 公費で受けられるHPVワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因とされる2種類のヒトパピローマウイルス(16型と18型)などの持続感染等に対して予防効果をもつワクチンです。海外や日本で行われた疫学調査(集団を対象として病気の発生などを調べる調査)では 、HPVワクチンを導入することにより、子宮頸がんの前がん病変を予防する効果が示されています。また、接種が進んでいる一部の国では、子宮頸がんそのものを予防する効果があることも分かってきています。

●公費で受けられるHPVワクチン以外にも、日本で接種できるHPVワクチンはありますか?

 現在、公費で受けられる(定期接種の対象となっている)HPVワクチンは、サーバリックス(2価HPVワクチン)とガーダシル(4価HPVワクチン)の2種類です。この他のHPVワクチンとして、シルガード9(9価HPVワクチン)があります。
 シルガード9は2021年2月から日本国内で販売が開始されているため、任意接種として接種することは可能です。シルガード9の接種費用は全額自己負担となります。
 シルガード9(9価HPVワクチン)の詳細については「9価HPVワクチン(シルガード9)について」をご覧ください。

●HPVワクチンについて、がんを予防する効果は証明されていないのですか?

 子宮頸がんは、数年から数十年にわたって、持続的にヒトパピローマウイルス(HPV)に感染した結果として発症するとされています。
 海外や日本で行われた疫学調査(集団を対象として病気の発生などを調べる調査)では 、HPVワクチンを導入することにより、子宮頸がんの前がん病変を予防する効果が示されています。また、接種が進んでいる一部の国では、子宮頸がんそのものを予防する効果があることも分かってきています。

●HPVワクチン接種後に副反応はありますか?

 HPVワクチン接種後に見られる主な副反応として、発熱や接種した部位の痛みや腫れ、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神などが挙げられます。

 また、ワクチン接種後に見られる副反応が疑われる症状については、接種との因果関係を問わず収集しており、定期的に専門家が分析・評価しています。その中には、稀に重い症状の報告もあり、具体的には以下のとおりとなっています。

●HPVワクチンを受ける際に注意することはありますか?

 次のいずれかに該当する方は、特に、健康状態や体質などを担当の医師にしっかり伝え、予防接種の必要性、リスク、効果について十分な説明を受け、よく理解した上で接種を受けてください。
●血小板が減少している、出血した際に止まりにくいなどの症状のある方
●心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患、発育障害などの基礎疾患のある方
●予防接種で接種後2日以内に発熱のみられた方
●過去にけいれんの既往のある方
●妊娠又は妊娠している可能性のある方
●ワクチンを接種した後や、けがの後等に原因不明の痛みが続いたことがある方
 また、接種部位には主に、腕の肩に近い外側の部分(三角筋)が選ばれるので、接種当日はこの部分を露出しやすい服装にしてください。

●新型コロナワクチンを接種した(したい)のですが、HPVワクチンと同時期に接種することはできますか?

 原則として、新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンは、同時に接種できません。互いに、片方のワクチンを受けてから2週間後に接種できます。
ただし、本年(2022年)夏にインフルエンザワクチンと新型コロナワクチンは同日接種が可能となっております。
 詳しくは「新型コロナワクチンQ&A」をご覧ください。

●HPVワクチン接種後に注意することはありますか?

 針を刺した直後から、強い痛みやしびれが生じた場合は、担当の医師にすぐに伝えて、針を抜いてもらうなどの対応をしてもらって下さい。また、その後の対応についても相談してください。
 予防接種直後に、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神が現れることがあります。失神し、倒れて怪我をする例も報告されているため、接種後の移動の際には、保護者の方が腕を持つなどして付き添うようにし、接種後30分ほどは体重を預けられるような場所で、なるべく立ち上がることを避けて、待機して様子を見るようにしてください。
 その他、予防接種一般に言えますが、予防接種当日は激しい運動は避け、接種部位を清潔に保ち、また、接種後の体調管理をしっかり行ってください。接種部位の異常や体調の変化、さらに高熱、けいれん、長期間持続する激しい痛みなどの異常な症状を呈した場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
 また、接種後に気になる症状が現れたときは、以降の接種を中止、延期することが可能です。気になる症状があれば、担当の医師に相談してください。

生理不順について

初めての月経 (初経といいます) が開始してからあまり年月が経っていない女性では、ある程度の生理不順はやむをえません。18歳ころまでに整ってきさえすれば問題はないと考えられます。  ただし、半年以上も月経がないなどというのであれば、治療を行った場合が良いこともあります。
 治療には若年の女性では低用量ピル (LEP) が用いられることが多いようです。妊娠・出産の経験のある年代の方ではLEP以外にも、中用量ピルなどが使われることがあります。
 生理不順の場合に基礎体温をつけてみると、卵巣がどのくらい働いているのかが判断できますので有用です。生理不順で不妊症の方は不妊治療が必要です。

生理痛 (月経困難症)

●月経困難症ってどんな病気ですか

月経時に下腹痛・腰痛・頭痛などの症状が強い病気です。症状の強さは人それぞれ違いますが、日常生活に支障をきたすようであれば治療を必要とします。最初の月経が始まってからあまり経過していない若い女性では少なからず月経困難の症状がありますが、年齢と共に軽減するようであれば治療の必要のない場合が多いようです。反対に原因となる疾患があるための月経困難症もあります。この場合には対症療法だけでなく、原因となっている疾患の治療も必要です。
卵巣の機能が少し低下していることによっておこるものを機能性月経困難症と呼びます。子宮内膜症・子宮腺筋症・子宮筋腫などの疾患を伴うものを器質的月経困難症と呼びます。

●月経困難症の診断や検査はどのようにするのですか

まず、ホルモンの値が正常かどうかの血液検査をします。これによって機能性月経困難症かどうかを判断します。必要に応じて基礎体温を策定することもあります。器質的月経困難症かどうかを判断するためには、内診・エコー検査や必要ならMRI・CTなどの検査を追加することもあります。一度の検査ですぐに診断がつかない場合もあります。

●月経困難症の治療にはどんなものがあるのですか

▼薬物治療
鎮痛剤は最も多く用いられますが、原因の治療をする薬剤ではありません。長期間連用すると胃潰瘍・十二指腸潰瘍を引き起こすことがあるので注意が必要です。

低用量ピル LEP) は鎮痛剤に次いで最も多く用いられている治療薬です。機能性月経困難症でも器質性月経困難症でも用いられます。LEPについては別の項で詳しく説明していますので、そちらをご覧ください。

ミレーナという子宮の中に装着する器具による治療法もありますが、分娩を経験している方が対象となります。

低用量ピル (LEP) について

低用量ピルは少ない量の卵胞ホルモン (エストロジェン) と黄体ホルモンの配合剤です。避妊用に使用されるピルと基本的には一緒です。ただ、自費で使用される避妊用のピルと異なり、治療のために保険診療で使われるピルを日本ではLEPと呼んでいます。
LEPは月経困難症や過多月経に対して非常に高い効果が期待できる薬剤です。保険での適応はありませんが、薬効的には子宮内膜症が退縮する可能性があります。しかし、ホルモン剤ということで警戒したり不安を感じる方が少なくありません。そこで、LEPの功罪についてご紹介したいと思います。

●何歳から使えますか。

はっきり何歳から・・・という基準はありませんが、月経が始まって少し時間がたっていれば使用できる可能性が高いと思います。できれば身長が伸び始める前ではないほうが良いので、ある程度の身長の発育がみられていれば可能と考えます。一般論として概ね15歳くらいからは問題なく使えることが多いようです。

●がんになりやすくなるってホントですか?

がんについて心配される方が多いのですが、実際にはLEPを服用することで卵巣がん・子宮体がん・大腸がんが減ることが分かっています。特に卵巣がんは早期発見が難しいがんの一つですので、それが減らせるのであれば大きな魅力です。乳がんに関しては少し減るかもしれないという論文とわずかに増えるかもしれないという論文がありますが、ほとんど変わらないと考えてよいでしょう。子宮頸がんについては5年以上服用するとわずかに増えるというデータがあります。子宮頸がんの原因のほとんどはヒト・パピローマ・ウイルス (HPV) ですので、ホルモンが関与するわけではありません。ほとんどのHPVは感染しても免疫の力で排除されるのですが、長期間LEPを服用した場合に、この免疫の力に少し影響するのではないかと考えられています。もっともHPVに感染しさえしなければ関係のない話なのですが......このようにむしろLEP服用によって減るがんの方が多いのです。

●不妊症になってしまうことはありませんか?

LEPは避妊用のピルと同じなので、きちんと服用していると妊娠する可能性はほとんどありません。ですが、妊娠を希望するようになった場合には服用を中止することによってすぐに妊娠可能にラなります。LEPを服用していないカップルが妊娠を希望して1年間に妊娠する確率は80%程度ですが、LEPを服用していた女性が服用を中止した後の1年間で妊娠する確率は同程度であることが分かっています。

●ホルモン剤を使うことで体の変調をきたすことはありませんか。

ごく少数ですが、黄体ホルモンによって吐き気が起こることがあります。ただし、その場合でも服用を継続していると1~2ヵ月程度で吐き気は軽くなるようです。同様にわずかではありますが、不正出血や頭痛、乳房痛、倦怠感などが起こることがあります。いずれも次第に軽くなることが多い症状です。ご自身の生理痛や過多月経による症状と比べて服用するかどうかを決定すればよいと思います。

●最も心配な副作用は何ですか。

血栓塞栓症という病気です。主に下肢の静脈に血栓ができ、それが血流にのって他の臓器の血管に詰まってしまう (塞栓) のが実態です。肺の血管に詰まってしまう肺塞栓症が塞栓の起こりやすい部位といえますが、起こすと命を落とす可能性のある病気です。
血栓症のリスクは何もリスクのない女性 (肥満でなく喫煙をしていない、家族性に血が固まりやすい因子を持っていない女性) のリスクを1とすると、LEPを服用することでリスクは3倍程度に増加します。ただ、喫煙をしている人ではリスクは4倍、妊娠すると5~8倍、産褥期には20倍にも増加するのです。これ以外にも肥満やキャビン・アテンダントなどではリスクが上昇します。
LEPを服用した時のリスクは開始した直後が最も高く、3か月を経過するとリスクは下がってきます。ただし0にはなりません。若い女性 (10~20歳代) の方がリスクは低くなります。
この理由から、40歳を超えてから初めての服用をすることは勧められません。また、40歳未満で服用を開始した場合は50歳になる前に中止することが良いとされています。

●血栓塞栓症の予防法はありますか。

100%予防できる方法はありません。しかし、脱水にならないように水分を多めにとったり、体重を増やさないことは少しだけ役に立つかもしれません。もちろん喫煙はご法度です。
ただ、血栓が下肢の静脈にできただけでは命にかかわらないので、早く見つけて血栓を溶かしてしまうのがお勧めできる方法といえます。下肢 (膝の裏) が痛い、赤くなる、むくむ、しびれるなどの症状が出た場合には様子を見ずに早く受診して検査をすることが大切です。D-ダイマーという血液検査をして陰性であれば血栓はないと考えてよいのです。妖精の場合は超音波検査や造影CTの検査などで血栓や塞栓があるかどうかを確認します。血栓が確認できた場合にはLEPを中止して血栓を溶かす治療を開始します (主に循環器科が担当します)。

更年期障害について

閉経の前後各5年のおよそ10年間を更年期と呼びます。閉経年齢は個人差が大きく、44歳から56歳くらいの間であれば、さしたる問題はありません。現在の日本人女性の平均閉経年齢は51歳くらいです。
 更年期は思春期の裏返しと考えることができます。性成熟期からの卒業というようにとらえることができ、それ自体は異常でも病気でもありません。ただ、ホルモンのバランスの崩れからくる症状が日常生活に支障をきたす場合には「更年期障害」として治療の対象になります。

●更年期の症状はどうして起こるのですか。

閉経期が近づくと卵巣は次第に働かなくなってきます。脳からは卵巣を刺激してホルモンを分泌させるように働くホルモン (FSH) が出ていますが、卵巣が働かなくなると卵胞ホルモンが作られなくなりますから、脳からのFSHが多量に分泌されてしまいます。それでも卵巣が反応しないと脳が混乱して、いろいろな症状が出るようになるのです。しばらくこの状態が続くと、脳からのFSHがだんだんに出なくなって、更年期の症状が緩和してきます。

●更年期障害の症状にはどんなものがありますか。

更年期の症状には不定愁訴という言葉が使われるとおり、様々なものがあり、個人個人で違う症状が出ることが多いのが特徴です。主なものとしてホット・フラッシュ (肩から顔面にかけてカーっと熱くなること) や肩こり、動悸、発汗、冷え、焦燥感、イライラ、不眠などが挙げられます。複数の症状が出ることも多くあります。

●更年期セルフチェック

次の10項目の内、思い当たる症状がいくつありますか?
更年期セルフチェックの中の5項目以上に当てはまる方は、更年期障害があらわれていると言えます。
1. 顔がほてる、のぼせる
2. 汗をかきやすい
3. 手足や腰など体が冷えやすい
4. 動悸、息切れがする
5. 寝つきが悪い、眠りが浅い
6. イライラしたり、怒りっぽくなる
7. 不安になったり、憂うつになることが多い
8. 頭痛、めまい、はき気が良く起こる
9. 疲れやすい
10. 肩こりや腰痛がある、手足に痛みが有る

●更年期障害の治療にはどんなものがありますか。

▼ ホルモン補充療法
 ホルモンが出なくなったことが原因なので、ホルモンを薬剤として補充すれば症状は改善します。ホルモン補充療法は即効性があり、効果もシャープに現れます。ただし、血栓症や肝障害、乳がんなどが僅かに増える可能性があります。☞ ホルモン補充療法の項を参照してください。
年齢的には通常55~60歳くらいまでが対象となることが多い療法です。
▼ 漢方療法
不定愁訴の多い更年期障害では複数の症状を同時に軽減してくれる可能性のある漢方療法は魅力的な薬剤です。しかし、効果が現れるのに少し時間がかかることと、体質に合っていないと効果が出にくいことなどが特徴です。また、特有のにおいや味に拒否反応を示す方もいます。
▼ サプリメント
大豆イソフラボンから腸内の乳酸菌によって産生されるエクオールは、弱い卵胞ホルモン様の作用があり、更年期の症状を緩和する可能性があります。☞ エクオールの項を参照してください。
ホルモン補充療法と異なり、乳がんや血栓症のリスクを増加させることはありません。
▼ 抗うつ薬
うつ症状の強い方の場合はSSRI (選択的セロトニン受容体拮抗薬) などのうつを改善する薬剤が効くことがあります。ふさぎ込んでしまって、外に出たくない、ひとと会いたくないなどの症状が強い場合には試してみる価値があります。

●日常生活の中で気を付けることがありますか。

・趣味を持とう
  自分で楽しめる趣味を持つことは生活にハリをもたらします。
・夫婦の時間を持とう
  お互いのことを見つめ直して理解することが大切です。
ゆっくり話したり、一緒に何かをやったり…これからは夫婦の時間と考えましょう。
・友人との交流を持とう
 ひととの交流は脳を活性化させます。
 笑うこと、話をすることはストレスの発散につながります。
いずれにしてもゆったりとした気分で過ごす時間を持つことが大切です。

ホルモン補充療法について

ホルモン補充療法はホルモンが出なくなったために起こる症状や病気を改善させるために用います。一般的に卵胞ホルモン (E) と黄体ホルモン (P) を併せて用います。ホルモンの効果としては卵胞ホルモンだけでも良いのですが、単独だと子宮体がんのリスクを上昇させてしまうので、体がんのリスクを減らすために黄体ホルモンを加えているのです。
 ところがE+Pで投与すると乳がんのリスクが僅かですが増加してしまいます。そこで子宮筋腫などの病気で子宮を摘出している女性にはEを単独で用いるようにしています。

●ホルモン補充療法の効果

・更年期障害の改善には即効性と確実な効果が期待できます。
・軽度の骨粗鬆症やその予備軍では骨を強くする効果が期待できます。
・生殖器 (外陰部や膣など) の萎縮を防ぐことができます。性交痛などがある場合にも有効です。

●何歳まで使えますか。

はっきりした決まりがあるわけではありませんが、およそ55~60歳程度までとするのが一般的です。ただし、症状があってつらい場合には60歳を超えても使用することがあります。症状と副作用の比較で判断するのが良いと思います。

●どのような剤形がありますか。

一番多く使われているのはやはり飲み薬 (経口剤) です。米国には卵胞ホルモンと黄体ホルモンが配合されたプレンプロという薬剤がありますが、日本にはないのでそれぞれの薬剤を別に服用することになります。一部、中用量ピルが使われることもあります。
次に貼り薬 (貼付剤) です。これには卵胞ホルモンだけのものと黄体ホルモンとの合剤とがあります。皮膚がかぶれやすい方には向きません。Eだけのものは1日おき、E+Pのものは週2回の貼付となります。
最後に塗り薬 (ジェル剤) です。皮膚に塗って使う薬剤で、毎日塗る薬剤です。
経口剤は貼付剤やジェル剤と比べるとわずかに肝障害が起こる可能性が高いのですが、頻度は少ないので、現在肝機能が低下している場合を除き選択肢から外す必要はないでしょう。

●がんのリスクは高いのですか。

乳がんのリスクはE+Pの投与によりわずかに増加します。10000人の女性に乳がんが発症する頻度が33人⇒41人に増加したというデータが出ています。ですからE+Pの投与を受けている方は確実に乳がん検診を受けるようにする必要があります。
一方で、E単独の投与では乳がんのリスクは増えない、もしくはわずかに減少するということが分かっています。
子宮体がんのリスクはE+Pで少し減少しますが、E単独では上昇します。子宮のある方とない方ではホルモン補充の仕方が異なるのは以上のような理由からです。

●ほかに副作用はありますか。

薬剤である以上、わずかながら肝障害の起こる可能性があります。皮膚から吸収される貼付剤やジェル剤の方が若干少なくなることが分かっています。
もう一つは血栓塞栓症です。下肢の静脈などに血栓ができる可能性が少しだけ増えます。これは主に卵胞ホルモンによるとされています。血栓がはがれて流れて行ってしまうと、重要な臓器の血管に詰まってしまうことが起こります。完全に血管がふさがってしまうと生命にかかわりますので注意が必要です。予防法などについてはLEPの項を参照してください。