
小池清通氏作
灼熱の中、摂氏40度を越える日もあった、今年で55周年を迎えるスタージ
ス・ラリー・ウイークには相変わらずのハーレー・エンスージアストたちが
様々な改造や装飾やコステュームを凝らしてやってきた。普段は静かなこの街
も、この週だけは朝から晩までVツインのけたたましい排気音に包まれる。回
りの街、ラピッドシティーや映画俳優ケビン・コスナーのお兄さんの経営する
カジノのあるデッドウッドの街、カスターやスピアーフィッシュなど、そし
て、カスター国定森林を含むブラックヒルズ地域、バッドランズ国立公園、
ニードルズハイウエイ付近も単車で溢れていた。
昨年初めてこのアメリカのハーレー乗り達が夢見る祭典の一つであるサウスダ
コタ州スタージスに顔を出してから早くも一年になる。月日の過ぎる早さに驚
かされながらも7月位から心がうきうきしてくる、と同時に、夏のこの忙しい
時期に果たして数日を裂いて今年も旅立てるかどうか、という不安と共に日々
を過ごす。私の郷里の浜松では毎年開催される「浜松祭り」のあるゴールデ
ン・ウイークを前に4月の下旬にもなると市民全体が波長を合わせたかのよう
に浮足立ち、エキサイトするような、心理的な心の高まりを感じざる負えな
い、何とも楽しい時期である。名古屋弁で言ういわゆる「もえらげにゃー楽し
い時期だがね。エキサイトしてちょ。」である。楽しみのある人生とはこんな
ことかも知れない。他者から見れば、何の輝きもないものが、ある人にとって
は宝石に値する、と言うような価値観の違いはどのような分野にも様々なレベ
ルであるが、これは個々人の主観の違いが生み出す素晴らしさではないかと思
う。有難いことである。
今回は、先日入手し(偶然にも昨年のロードキングの場合と同じように)何と
か必死の思いで慣らし運転を終えた95年式ヘリテージ・スペシャルにウイン
ドディフレクター(正面から膝にあたってくる風を防ぐデザイン)、パッシン
グライト(ヘリテージ・ソフテイルには標準装備だが何故かスペシャルにはな
い為)と長距離ツーリングにはかかせない、これは通過予定のネブラスカ州の
農地に力一杯飛びまくる虫たちの標本用に、フルサイズのウインド・シールド
を装着した。BBCのメンバーのボブは先日仲間のビニーの伝手でアイダホ州
から入手した95年式FLHTCUウルトラクラシックで、ハリーは、因縁深
いローライダー・カスタムを下取りにしてやっと手に入れた95年式の
FLHRロードキングで私より一日早く金曜日に出発して行った。
私は土曜日の朝7時に出発し、ルートを今回は北北東に取りネブラスカ州に住
む友人の猪坂氏を先ず訪ねた。彼とは仕事を通じてご縁を戴き、何かお互いに
通じるものを感じながらお付き合いをさせて戴いている。仕事の話や、生まれ
たばかりの長女のナオミちゃんの顔を見たり、後継ぎのアンソニー君のやん
ちゃぶりを眺めながら1時間半ほどお邪魔した後一路ラピッドシティーに向か
う。ネブラスカの草原地帯は、肉牛の飼料用のアルファルファの干し草の収穫
期に入っている為、あちこちで丸められたり箱状に固められたヘイ(干し草)
が刈り取られた草原に無造作に、しかしながら芸術的なアクセントをもって、
その何処までも続くような広いキャンバスに散らばっていた。刈られたばかり
の草の匂いに思わずくしゃみを三唱。むむむーんと、私の期待を裏切ることも
なく案の定、ネブラスカの青空に向かって辺り一面に飛び交う虫達はこれでも
かこれでもかと言わんばかりに、無情にもシールドにこびりつき前が見にくく
なるほどになっていった。アメリカでの夏の長距離ツーリングには、必ずと
いっていいほど給油ごとにシールドをきれいにする。ウインド・シールドは上
記のような昆虫採集の用途の他にライダーの体温を逃がさないようにして疲労
を防ぐ上で、長距離ツーリングの大切な味方である。
ソロということもあって飛ばしていたため6時間半で到着した。昨年は何人か
でまとまってのんびりと走り、また、マイクの帽子がとんで一騒動あったりし
て10時間位かかったと記憶している。ともかく、太陽がまだ高かった為、
真っ黒い雷雨が襲っているように見えていたブラックヒルズ地区に向かって、
うまく雨雲が東に流れて行くことを期待しながらホットスプリングスに向かい
北進し顔がやっと出来上がりつつある(私の孫の代までには完成するであろう
が)クレージーホースを右手に見ながらマウント・ラシュモアー手前で、ヒョ
ウ混じりの雷雨に遭遇してしまう。10分ぐらいで通りすぎた後、ちょうどマ
ウント・ラシュモアのジョージ・ワシントンの右横顔のみが見える道路脇に駐
車し、レインコートを乾かしながら記念写真を撮ったが、気が高ぶっていたと
は言えかなり疲れていたようである。上下線とも何十台もの仲間達が同じ目的
地を持って走りさって行く。知らない者同志が一つになる思いである。昨年は
霧のため、ロンと双子のロードキングで寄ったにもかかわらず4人の大統領の
顔は全く見れなかったが、いつ見てもこのやっとかめで見る山は、何せ岩山を
そのまま彫刻にしてしまうという発想とそれを実現することが、いや、実に凄
いと思うアメリカらしい見物である。
ホテルに到着し駐車場に入ると丁度出てきたボブと会い無事合流出来た。夜は
噂に聞いていたハリーのいびき攻めに合うが、疲労の中ゆっくりと眠れた。イ
タリア人の母を持ち中国人の父を持つニューヨークのチャイナタウン育ちのハ
リーのいびきは、フェラーリの情熱と中国三千年の歴史に培われた力強ささえ
感じさせられる凄いものであった。歴史と文化を仲間から学び取った思いで
あった。
翌日曜(8月6日)は早朝から、ワイオミング州のデビルズ・タワーへと向かう。当初は私一人で行くつもりでいたが、何のかんのと言いながら突然予定を
変えて?ボブとハリーも一緒に行くことになった。映画「未知との遭遇」で有
名になったナショナル・モニュメントである。オペラで有名なスピアーフィッ
シュで朝食を取り(ここでは溢れるばかりの朝食に群がるバイカー達の為かな
り席を待たされた)、工事中の東回りルート(インターステート90号線から
ハイウエイ85号線を北、ハイウエイ24号線を西に向かう)を取り、給油後
目的地に向かう。山岳地を切り裂くように伸びる舗装前のダート道を数マイル
走る。昨年ローライダー・カスタムでロッキーの山岳道路で路面に残っていた
砂にのって大転倒をし、鎖骨や肋骨を折ってヘリコプター旅行をしているまだ
心理的にその恐怖から離れられないハリーはバックミラーの彼方にヘッドライ
トと共に遠ざかってゆく。エンジンは朝の静けさの中、私の鼓動を高めるかの
ように回転数を上げていく。ラピッド・シティーから2時間位であろうか、近
付くにつれその頭の部分を左前方の山々の彼方に出しては消えるデビルズ・タ
ワーに心を踊らせる。顔の半分を黒く焦がされる思いで到着すると、既に数百
台の仲間達が集まっており入園ゲートに列をつくって待っている。ゲートの背
景は、このとてつもなく(どえりゃー)でかい岩の化け物である。大昔の火山
活動が冷えきった時に縦に幾つもの線を作り出すようにして固まったマグマが
隆起したものらしいが、ともかくその大きさには驚かされる。自然の偉大さを
思い知らされる。ゲート前のギフトショップでブレイクを取り清涼飲料で喉の
乾きを癒す。体格の大きくしかも異常に肥満化を成し遂げているアメリカ人の
乗るハーレーは、どんなサスを付けてもボトミングしてリジッド感を楽しめる
ように思え、リジッドにするとフレームに歪みが出来るのではと疑いたくなる
ほどで目を見張るほど小さく見える。V8を積んだバイクが造られるのも当然
かも知れない。
帰りにスタージスにより、例によってメインストリートをパレードし、単車を
各自停めて歩く。ごっつ暑い。あちこちの店に顔を出し、脱水状態に陥り気味
ながらもレモネードを片手にともかく歩き回る。ヘッドクォータービルの中で
涼みながら、アメリカではとても人気のあるキャスト製の、大きさが10から
15センチくらいの長さのミニカー貯金箱を物色する。HD90周年記念で出
ていた1931年式のデリバリーバンを二年前に買い損ねており、デンバーで
は既に完売になっていたものが運良くあったためあわてて購入した。こいつは
色といいデザインといい、ホワイトタイヤも輝いて気にいっている。アメリカ
ナイズされたのか、ただ単に、趣味が広がって足を踏み込み始めたのか、私も
このミニカー(トラックやトレーラーもある)貯金箱を集めている。製造地は
ともかく、結構奇麗に塗装されており、またその殆どがクラシックと呼ばれる
時代の車両を模している為、飾っておいて見ているだけでも何か心が落ち着
く。かーちゃん達から見れば、キャベツを買うよりも高い男の玩具になってし
まうが楽しませて戴いている。(このての車の貯金箱などに興味のある方は
KTS, 6535 S. Dayton Street, Suite 3650, Englewood, CO 80111, 303-790-
4816-fax まで書簡またはファクスで連絡を)
例によって日本の雑誌にも登場する露出狂の連中は、男でもハイレグ風のパン
ツ一枚で歩いていたり、きわどいほどの露出度のワンピースの網シャツ風の服
を着る女性から数メートルあるような蛇を首に巻いた人などサーカスの雰囲気
さえあるメインストリート。彼氏?の後ろにノーパンで超ミニで足をおっ広げ
て乗っているお姉様は交差点で止まったところ思わず腰を上げて前屈みになっ
たからさあ大変、世界の大国アメリカ合衆国の国民ばかりか外国人を含む半強
制的に傍観者にさせられた人々の時間を一瞬とめてしまった。近くにいたポリ
スは喜びにひたっている訳にはいかず、渋々と公務を執行しなければならな
かったが、既に今度は自主的に観客となっていた人々は
ポリスに向かってブーイング(気に入らないという表現としてブーブーと叫ぶ
こと)を連発していた。日本からもかなりの方々が来られると聞いていたので
会えるかと期待していたが、残念ながら誰とも会えなかった。日本の方々が日
本人に見えなかった為かはたまた私が日本人に見えなかった為かは今後の日米
関係に影響を与えるとは思われないがあえて触れない事にする。
スタージスと言うと、もう10年ほど前になるが東京で「サンダンス」という
HDのカスタムショップを経営する柴崎さんと初めて会った頃を思い出す。デ
イトナのレースにも情熱的に参戦し、また職人気質の強い頑固者で、大変人間
的にも魅力的な方でその後何回か東京でお会い戴いているが、彼のようなHD
乗りが日本でも少しでも増えていればと祈る。同じバイク乗りでも特に利害関
係に関して何らかのコネをつくる為に人を利用して、用事が済むと感謝の気持
ちもなくに自分だけ走る人が多く感じられる中、私にとって彼のような人間の
存在そのものが強い励みになる。単車乗りに限らず、金銭的なものとは全く関
係なく単に気持ちの問題でありただ一言の感謝を表現出来ない人が増えている
のだろうか。人の生き方を批判するほど自分の人生を全うしてはいないし、ま
た、自分の人生が楽しくて人の人生から学ぶことはあってもそれを批判する暇
はないが、いろいろな人々の生き方をこのスタージスでも見ることが出来る。
各々が各々のレベルにおいて、有意義にまた発展性をもってHDライフを楽し
んでいることと信じている。ハーレーに国境はないのだとつくずく思う。二つ
の井戸を見下ろせる自分は恵まれている。二つの文化を見つめながら自分なり
の、自分に合ったハーレーライフを楽しみたいと常に思う。
と言う内に無事に二晩目のハリーのアリ地獄、いや、いびきを乗り越え朝を迎
えた。7日の月曜日は摂氏で41度ほどまで気温が上がった。バッドランズ国
立公園にソロで行く考えでいたが、来年の楽しみとしてパスし、皆と朝から恒
例のブラックヒルズHDのディーラーに寄った後、スタージスに向かいいろい
ろな出店やテントを回る。カスタムHDでは世界的に知られているアーレン・
ネス氏が50年代のシボレー風に改造した黄色いHDを自ら乗っているところ
に会う。いい目をした方だと思った。近年アメリカで名前を知られてきている
アーティストのエリック・ハーマン氏にも会うことが出来た。いわゆる、知る
人ぞしる、の人で私は知らなかったが、私は彼の作品は何度もHDの関係誌で
見ていたが、一緒にいたハリーがはしゃぎ出したので、その彼と一緒に写真ま
で撮らせて戴いた。ガッチリとした体格の気さくな男でデモンストレーション
の作品に手を動かしていた。
余りの暑さに昼過ぎにはホテルに戻り、冷たいシャワーを浴びて体を冷やし夕
方から始まるHOGメンバーのみ招待の初日新車展示会に向かう。開場前から
かなりの仲間達が集まり、クーラーのよく効いたコンベンションセンターの中
で、あたかも新装開店をを待つ(あー懐かしい)パチンコ狂達のように列を
作った。開場と共に、目の色を変えなくてもいろいろな色をした連中とど
どーっと入った。
何台かは既にブラックヒルズHDディーラーに置いてあったが、96年モデル
を直に見る。昨年デビューしたビュエルS2サンダーボルトはツーリングサド
ルバッグを装着(オプションか?)。ライトウエイトのスポーツモデルとして
S1がデビュー。ニューモデルはスポーツスター系のみでその「カスタム」は
外見上は昔のFXLRローライダーカスタム風のデザインで奇麗にまとめられ
ていた。ヘリテージ・クラシックは容易に脱着可能なリアシート、リアのラッ
クをはじめ、ウインドシールドなどをデモンストレーションを通じて紹介。
96年モデルからインジェクション装備のモデルも紹介され、ツーリングモデ
ルであるエレクトラ・グライド及びウルトラ(ツアーグライドを含む)、ロー
ドキングにキャブのものとインジェクションのものと選択が出来るようになっ
ている。インジェクション付きのビッグツインにはまだ乗ったことがないが、
経験者に聞くと馬力も多少有り満足しているらしい。興味はある。
また、ペインティング工場の充実化に成功したHDは前年度に比べ、なかりの
カラーのバラエティーを揃えている。各インディビジュアルに合ったいい色を
見つけられるといい。アクセサリーはじめ、置物、服、コレクタブルなど充実
したものを見せていた。
昨年ばったり会ったウイリーGと奥さんに再会する。数分雑談をした後、昨年
右肩側にサインをしてもらったシャツのその反対の左肩にサインをしてもらっ
た。当然ながら私のことなど思えているはずもないウイリーGだが、昨年のサ
インをみて婦人共々喜んでくれた。例によって疲労を隠せない顔を力一杯崩し
て笑っておられた。大変な仕事である。ハーレーとデイビッドソンが約100
年前にこの会社を始めた時点でウイリーGの人生が決ってしまっていたと言っ
てもいい人生の不思議さを思わされる出来事に思える。大げさかも知れない
が、物事、大小の違いはあれ必ず何かの意味を持って動いているものである。
人との出会いもこれと同じで不思議なものでありまた有難いものであるとつく
ずく思う。
もう一日滞在する予定でいたが、仕事の都合で8日火曜日に帰途につく事に
なった。驚いたことにハリー達も同調し、ボブとはラスクのガススタンドで合
流するのだが一緒に帰る事になった。約1600キロのツーリングになった。
素晴らしい想い出を年々増やしてくれるハーレーとそのエンスージアスト達に
は言葉で表現出来ないほど感謝をしている。皆無事に帰途につかれたことと願
い、祈る。また来年会おう。