彼の風景 彼女の風景
「まるで映画の中にいるみたい・・・」

彼女はそう言って、悲しそうに微笑んだ。



彼女はどんな思いでこの街に来たのだろう。

最初で最後になるであろう、この街へ。

ここは僕の故郷。一番好きな街。

そんな僕の故郷へ彼女がやってくる。

そう考えるだけで、胸が躍った。

同時に、これで彼女との日々に終止符を打つことに

多少の躊躇いと戸惑いが存在する。

「だって、仕方が無いことだから・・・」

僕はそう彼女に言った。

遠く離れた場所で、それぞれの人生を歩んでいくのに

「恋人」という言葉で自分も彼女も縛るのは

僕にとっては、もう無理じゃないかと思う。

実際、無理が出てきているじゃないか。

お互いの心が離れていくのがわかる。

いや、それは、僕の方なのかもしれない。

彼女を思う気持ちが無い訳ではない。

だけど、自分が一人前でない以上、

今、目の前のやるべきことを一所懸命にクリアしていく

それだけで、僕は精一杯なのだから・・・。

彼女がこの街で楽しそうにしているのを見ると

あぁ、これだけで僕は大丈夫なんだ

今、自分にできる精一杯の思いが伝わっている

そんな気持ちになった。

それは幻想でしかないかもしれない。

でも、その幻想が、これからの僕の生きる糧になる。

それで良いと思う。



彼女は涙をこらえながら

僕の最後の言葉に「うん」と頷くだけだった。

「まるで映画の中にいるみたい・・・」

そう、私がつぶやくのを彼は眩しそうに見ていた。



彼はどんな思いで、私がこの街にくるのを迎えたのだろう。

おそらく最初で最後のこの街への旅。

ここは彼の故郷。一番好きな街。

そんな彼の故郷へ私は一度限りの旅へ出る。

私が言い出したことなのに、心は暗雲が広がるばかり。

彼の故郷へ行くことで、それで終止符を打とうと思っていた。

はっきりとけじめをつけるべきだと思っていた。

「だって、仕方の無いことだから・・・」

彼が私にそう告げた時、もうだめなんだと思った。

遠く離れた場所で、それぞれの人生を歩んでいくのに

「恋人」という言葉が彼にとって重い存在になっていた。

そう諭された一言だった。

私は彼が忙しいからと、彼のことを思い、連絡も控えた。

連絡を取らなくなると急に気持ちが不安になる。

新しい環境の中で、彼は誰と出会い、何に笑い、

どんな生活をしているのだろう。

不安が不安を増幅させ、後ろ向きな考えになる。

それではいけないと、やっとのことで連絡をとっても

まともに話すことができない。

思いは募るばかり・・・。

言いたくても言えないことが心を支配していった。

そんな私だから、話せばいつも喧嘩ばかり。

彼に不愉快な思いを何度もさせてしまったと思う。

だから、彼に決断をさせて、彼の決断に従うことにした。

これ以上、彼に迷惑をかけたらいけない。

自分の気持ちは押し殺しても、彼には幸せになって欲しい。



私は最後に小さくつぶやくと

一度も振り返ることの無い彼の背中をずっと眺めていた。

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