Tabaの鉱物標本箱

2000年2月〜2000年 3月の特集

「水晶 特徴5:被覆鉱物」

 博物館や標本店で目にする水晶は、形や結晶形が整ったもの、透明さなど、見た目がきれいなものばかりです。しかし、ここにご紹介する水晶たちは見かけこそ良くありませんが、その表面に別の鉱物が付き、それぞれの生い立ちを物語る特徴があります。
 私もそうでしたが、標本を手にすると、とかく水晶ばかりに目を向けてしまい、表面に付いたものは邪魔もの扱いされがちです。表面をゴシゴシする前に、手持ちの標本を少し眺めてみることにしましょう。



【1】 石膏 被覆 埼玉県大滝村道伸窪産(写真の幅30mm)

  

 標本の石膏は、粉状というか粒状というかハッキリとした結晶ではありません。石膏の色合いと質感、明らかにそれよりは硬そうな水晶との組み合わせは、ぬかから顔を出したたくあんを思わせます。

 
【2】 雲母 被覆 (左)茨城県桂村錫高野産(中央の標本幅11mm)、(右)岐阜県蛭川村田原産(写真の幅約40mm)

  

 錫高野の水晶は玉状の白雲母にくるまれていて、これをていねいに割ると雲母の放射状断面がキラキラ光る中心に水晶が現れます。雲母によって水晶が大切に守られてきたような感じさえします。
 田原産のものは趣が異なりますが、典型的な苗木産ペグマタイトの結晶群を覆いつくさんばかりの勢いです。
 

【3】 黄鉄鉱 被覆 茨城県真壁町山ノ尾産(33mm×46mm:粒の径0.5mm)

  

 黄鉄鉱は非常に小さいですが、煙水晶の表面に付いた黒いツブツブがそうです。黄鉄鉱もまた、白っぽい被覆鉱物(ベルトラン石)で覆われているのが分かります。
 

【4】 ベルトラン石 被覆 茨城県真壁町山ノ尾産(水晶の長さ20mm)

  

 このように見栄えのしない水晶は、ほとんど見向きもされないで捨てられてきたでしょう。ところがよく見ると、塩の結晶を思わせるような小さなベルトラン石でびっしり覆われています。
 珍しい鉱物も意外な所に見つかったりするんですね。





 私は、水晶は鉱物の典型だと考えています。しかし、それが故に端正できれいな結晶だけに目が行きがちです。
 きれいな水晶はもちろん好きですが、ここでご紹介したような、自然の中で水晶が偶然巡りあったほかの鉱物との関係も、ぜひ観察してみてください。
 初めに申しましたとおり、「ゴシゴシしなくて良かった」と思える標本が、これからきっと見つかると思います。

 特集「水晶」は今回で終了です。

◇ お詫びと訂正
 前回の特集:1999年12〜2000年1月の特集「水晶 特徴4:包有物」にて、文中の見出しが”特徴4:結晶形”と誤って記述してありました。
 お詫びしますと共に、訂正しましたので、もう一度ごらんいただくとよろしいかと思います。