僕は読んでいた本を置き、聞きなおした。
「はい。妹様です。たしか、お年は7歳だそうです」
彼?僕の家の使用人だ?は、こともなげにそう返してきた。
「…そうか」
「今日、こちらにくる予定なのですが」
「随分急な話だな」
「早いほうがよろしいでしょうから」
妹。
だが、僕はいままで一人っ子として育てられてきた。
ということは。
彼女は…。
「…で」
僕は、ちょっと気になったことを聞いてみる。
「僕は、兄、なのか?」
「はい。お兄様、ということで、話を通してあります」
「…そうか」
そうだな。僕は伊集院家の一人息子なのだから。
…いや。
もう、一人、ではないのか。
*
規定の時間には、すでになっているらしい。
しかし、彼女は姿をあらわさなかった。
「…どうかしたのか?」
「はい。なんでも、近所の公園で遊んでおられたとか」
「警備のものは何をしていたのだ?」
…とはいえ。
その子の気持ちもわかる。
管理された生活を強いられるのは、つらいことだから。
それが、突然変化した環境下でなら、なおさらだろう。
やがて。
「お連れしました」
見なれぬ男に連れられ、小さな少女が部屋に入ってくる。
なるほど確かに、髪の色など、見た目は僕と似ている。
少女は、知らない人間を前にして戸惑っているようだった。
僕は立ちあがり、少女に近づく。
「こんにちわ。はじめまして。僕は君の兄の伊集院レイ。
よかったら、君の名前を教えてくれるかな?」
「わたし、は」
少女は、少しうつむきながら、
「い、いじゅういん、めい、です」
ぼそぼそとそれだけ言った。
「これからよろしくね。メイ」
「…うん。あ…は、はい。よろしくお願いします、お兄様」
お兄様。
僕は、僕をそう呼んだ少女の、メイの髪を優しくなでた。
なんとなく、そうするべきだと思ったから。
まだ一人ぼっちの少女。
そんな不安そうな顔を見ながら、僕は。
彼女の支えになりたいと思った。
僕はまだ、偽りの僕だけれども。
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