「妹?」

 僕は読んでいた本を置き、聞きなおした。

「はい。妹様です。たしか、お年は7歳だそうです」

 彼?僕の家の使用人だ?は、こともなげにそう返してきた。

「…そうか」
「今日、こちらにくる予定なのですが」
「随分急な話だな」
「早いほうがよろしいでしょうから」

 妹。
 だが、僕はいままで一人っ子として育てられてきた。
 ということは。
 彼女は…。

「…で」

 僕は、ちょっと気になったことを聞いてみる。

「僕は、兄、なのか?」
「はい。お兄様、ということで、話を通してあります」
「…そうか」

 そうだな。僕は伊集院家の一人息子なのだから。
 …いや。
 もう、一人、ではないのか。

 規定の時間には、すでになっているらしい。
 しかし、彼女は姿をあらわさなかった。

「…どうかしたのか?」
「はい。なんでも、近所の公園で遊んでおられたとか」
「警備のものは何をしていたのだ?」

 …とはいえ。
 その子の気持ちもわかる。
 管理された生活を強いられるのは、つらいことだから。
 それが、突然変化した環境下でなら、なおさらだろう。

 やがて。

「お連れしました」

 見なれぬ男に連れられ、小さな少女が部屋に入ってくる。
 なるほど確かに、髪の色など、見た目は僕と似ている。
 少女は、知らない人間を前にして戸惑っているようだった。
 僕は立ちあがり、少女に近づく。

「こんにちわ。はじめまして。僕は君の兄の伊集院レイ。
 よかったら、君の名前を教えてくれるかな?」
「わたし、は」

 少女は、少しうつむきながら、

「い、いじゅういん、めい、です」

 ぼそぼそとそれだけ言った。

「これからよろしくね。メイ」
「…うん。あ…は、はい。よろしくお願いします、お兄様」

 お兄様。
 僕は、僕をそう呼んだ少女の、メイの髪を優しくなでた。
 なんとなく、そうするべきだと思ったから。

 まだ一人ぼっちの少女。
 そんな不安そうな顔を見ながら、僕は。
 彼女の支えになりたいと思った。
 僕はまだ、偽りの僕だけれども。

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