悪いのは特番だかなんだか知らないがプログラムを変更しやがるテレビ局であり。
 とっくにHRの時間になってるっつーのに授業を終わらせねえ数学の金子のヤツである。
 やっとその数学も終わり、あたしは今、一日千秋の気分でHRが終わるのを待っている。
 はっきり言って途中で抜け出したい気分だ。が、そんなことをして風紀委員の連中とトラブったら帰ってロスタイムになっちまう。落ち着けあたし。大丈夫。今からでも十分間に合う。
 にしても、こっちは生徒会長だぜ? 風紀委員の奴らも、ちょっとぐらいあたしを優遇してもいいんじゃないのか? ったく。
 そんなことを考えている内に、
「じゃー今日はここまで」
「きりーつれいちゃくせーき」
「おい赤井。お前クラス委員じゃないんだからそれは言わなくていいんだぞ」
「いいって事ですよ、じゃ、あたしはこれで」

 よぉっし。これで合法的に帰れる。鞄を引っつかみ、超速ダッシュで教室から脱出。頭の中でコースを描く。教室出口から昇降口までの最短ルート。こう見えても「ひびきの高校のスピードスター」で通っているあたし。イレギュラーな障害物である一般生徒をうまくよけ、ドリフトターンを駆使してゴールを目指す。
 しかし、突然目の前に立ちふさがる男子生徒たち。
 こいつらは!

「ふっ、我らひびきの高校生徒会!」
「会長、どこへ行かれるおつもりですかな?」
「今日と言う今日こそは、生徒会に顔を出してもらいますぞ」
「さ、覚悟なされ」

 ちぃ! 生徒会の連中だ。

「手前ら、そこをどけ! 会長の命令が聞けないのか!?」
「ふむ。会長の権限を行使するからには、しかるべき義務を果たしてからにしていただきたいですな」
「ああ、まったく」
「こいつらは……」

 くそ、名もなき生徒会員ABCDの癖に生意気な。飼い犬に手をかまれるとはこの事だぜ。

「と、に、か、く、どけっつってんだよ!」
「ふ、そうはいきませんな。どうしても、と言うならば……」

 と、生徒会員Aは自分たちを指差し、

「われわれを倒してからに
「シャイニング会長キィッック!!!」

 全滅!(二秒)

「ぐふっ!」
「ま、まさか、こんなにあっさりと……」
「そんな、あきらかに通常の会長の三倍のスピードは出ている!」

 地べたに倒れた連中は口々に疑問の声を出す。
 あたしは、そんな連中は無視してさっさと帰宅しようとするが、

「くそ……なぜ、会長に勝てないんだ……」

 とか言っているヤツがいたので、一応答えてやることとした。

「おめーらとは、背負っているものが違うんだよ」
「背負っているもの? 一体、あなたは何を背負っていると言うのですか?」

 あたしは静かに、

「今日は、早く帰らないと……」
「帰らないと? 一体何があるというのですか!?」
「ゴッドリラーが始まっちまうんだよぉっ!」

 今日はなんか知らんけど始まるのが早ええんだよっ!
 そう答えると、あたしはきびすを返し、たっ、と走り出した。

 校庭を抜け、校門を通りぬける。
 ヤバイ、かなりヤバイ。バカにかまってたせいで、時間がデッドラインぎりぎりだ。
 もちろん、あたしはビデオ予約している。しかし、だからってリアルタイムで見なくても言い理由にはならない。オタクくさいと言うなら言え。なんと言われようとあたしはリアルタイムで見る。
 しかし、このままではまずい。

(くそ、やはり未完成のワザは負担が大きいぜ)

 あんな連中相手に使うのはもったいなかった。あたしが後悔しつつも必死で走っていると、

「ん? 誰かと思えば、赤井ほむらではないか?
 何を急いでいるか知らんが、ご苦労なことなのだ」

 後方の車からそんな声が聞こえた。
 ……この声は。

「メイ!」
「ふん。まあいい。メイも忙しい身だから、あまり貴様にもかまってられないのだ。
 おい。もういい。速度を出せ」

 後半のセリフは運転手に言ったものだろう。メイの乗った車は、徐々に速度を増していく。
 その車を見ながら……あたしはあることを思いついた。
 車を見据える。よし、いける。
 残った力を振り絞って、
 車の、今メイが明けた窓を見据えて、
 あたしは、
 飛びついた。

「で、で、でぇい」
「……え!? ちょ、ちょっと、貴様、何をしているのだ?」
「お、い、メ、イ、ちょっとどいてろっ!」
「え? え? え?」

 うろたえるメイを尻目に、あたしはもう結構なスピードの出ている車の中に飛び込んだ。
 どさっと、体をシートに預ける。その横には、あっけにとられた顔のメイ。
 うひー。結構スリリングだったな。

「……よし、成功成功っ!」
「成功……って」

 きょとん、としているメイが、突然すごい剣幕で、

「何考えてるのだ、けが……けがしたらどうするつもりなのだ?」
「あん?」
「あぶないのだ。そんなことしちゃ、だめなのだ……」

 なんだか知らんが、やつは今にも泣きそうな口調である。

「何言ってんだよ。お前に心配されなくても、あたしが怪我なんかするわけないだろ」

 あたしがそう言うと、メイはぴた、と止まり、それから明後日の方向を見て、

「べ、別にメイは貴様の心配など、してないのだ。
 怪我するってのは……だから、貴様が無茶なことをして、メイが怪我するのを恐れたのだ。
 本当なのだ!」
「別になんでもかまわねーよ」
「良くないのだ! 貴様の心配などしてないのだ!」

 そして、いつものごとくケンカ腰になるメイ。
 わけわかんねーやつ。まあいいや。それより重要な用事をすまさねえと。

「おいメイ」
「何なのだ?」
「車を、あたしん家に向かわせろ。どうせ、調べついてんだろ?」
「まあ、貴様の家の位置ぐらいとっくに調べ上げてるが、なぜメイがそんなことをしなければならん?」
「してくんねーのか? ちぇ、仕方ねえ」

 と、あたしは窓に手をかけると、

「ちょ、ちょっと、何をするつもりなのだ」
「あ、だから、仕方ねーから車から出てく」
「だから、無茶したらダメなのだ!
 ……仕方ない、今回は特別に、貴様の家まで行ってやろう」

 まったく、最初っからそう言ってればいいんだよ。
 さすがに車は速い。あたしは無事放送時間前に家に着くことが出来た。
 メイも使い様だな。

「おう、あんがとさん。じゃーな」

 ま、一応礼ぐらい言い、あたしが家に入ろうとすると、

「ちょっと待つのだ」
「んだよ?」

 メイが呼び止めてきた。

「貴様、人にさんざん迷惑をかけておいて、そのまま行ってしまうつもりなのか?」
「なんだよ、礼言っただろ?」
「大体、メイはなぜ貴様が急いでいるのかも知らないのだ。
 一体、貴様は何をしようとしているのだ?」

 メイの問い。ま、もっともっちゃもっともだが、すでに気が急いているあたしは、

「うっせーな。テレビ見んだよテレビ」
「てれび?……たかがテレビを見るためにあんな無茶をしたというのか?」

 たかが、と言うのは気に食わなかったが、議論をしているヒマはないので、

「あーそうだよ、何に急ごうととあたしの勝手だろ?」
「……待つのだ」
「あーもー。今度はなんだよっ」
「メイも、そのテレビ番組を見るのだ。貴様がそこまでする番組、少し興味がある」
「あー、勝手にしろ」

 もうどうでも良くなってきたあたしは、家の中に入っていく。後ろからはメイもついてくる。

「ここが貴様の家か」
「あん? なんだ。狭い家だとか文句言うつもりか? そりゃお前んちにくらべりゃ狭いだろうが」
「……別に、そんなつもりじゃないのだ」

 なんかメイのやつは落ち着かない様子だが、そんな事はどうでもいい。
 あたしは早速テレビをつけ、チャンネルを合わせる。
 少し待つうち。
 始まったぜ!

「くぅー、やっぱゴッドリラーは燃えるなあっ!」
「……って、これは」
「おおっし、今回はどんな話だ?」
「マンガではないのか?」
「え? なんだって、ああ、そうっだのか! そこでそうなるとは、くそー、やられたぜ!」
「貴様こんなのが見たかったのか?」

 あたしが熱中している横で、メイがなんかごちゃごちゃ言っている。

「るせーな。黙って見ろ」
「しかし、こんな子供向け番組。メイは2歳で卒業したのだ」
「見たくなきゃ帰ればいいだろ? お前に騒がれるとあたしが集中できねえんだよ」
「……ま、仕方ない。黙っててやるのだ」

 ?
 なんか今日は素直だな。ま、いいか。
 そして、熱血とドリルの30分が過ぎる。

「やー、今回も最高だったなあ」
「……」
「あん?」
「……」
「どうしたんだ?」
「……え? な、何でもないのだ。今日のところはこれで帰るのだ」
「おう。気をつけて帰れよ」
「別に、貴様に心配なんかされたくないのだ」

 そう言って、メイは帰っていく。
 なんだか知らんが、ちょっとぼーとしている。
 ったく、ワケわかんねーヤツだな。
 でも、まあ。
 かまうと面白いやつではあるけどな。

 その日の夜。伊集院宅。

「……そうかもうビデオが出ているのか」
「メイ様? 一体何をご覧になっているのですか?」
「咲之進? あ、これは……」
「たしか、赤井ほむら殿が好きなテレビ番組、でしたか?」
「いや、その……メイは、この番組の、個性的な科学考証が気になっただけなのだ」
「そうでございますか。では、研究資料として取り寄せさせますが」
「う、うむ。よろしく頼む」
「なんでしたら、まだ放映されていない分などを集めることも出来ますが」
「……いや、普通に市場に出回っている物だけでいい」
「かしこまりました。では、明日にでも」

 そう言って咲之進退室。
 部屋に残されたメイ。ポツリとつぶやく。

「ズルなんかしたら、赤井ほむらに悪いのだ」

ほむらVSメイそのに。
実はけっこう趣味合うんじゃないんですかね。この二人。

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