ある日。あたしとあいつで河川敷にある公園にまで出かけた。
 いや、別にデートとか、そういうんじゃない。ただ、ちょっと、ヒマだったからていう、それだけだ。
 ま、それはそれとして、その際に、こんな話題があがったんだ。
「赤井って、なんかきらいなもんとかあるのか?」
「んー。そうだなあ。ああ、あの伊集院のガキ! あいつだけはどーにも好きになれねーな」
「はー。そうなのか」
「ああ。だってあいつときたら、自分のことを「メイ」なんていうんだぜ。
 名前で呼ぶなっつーんだ。気色わりぃってのまったく」

 まあ、そんな感じのどーでもいいような会話だったんだが、
 こともあろうにあいつはこう抜かしやがったんだ。

「ふーん。そうなのか。
 俺は、そう言う呼び方結構好きだけどな」

 てな。
 まったく、バカじゃねーのって感じ。
 もちろん、あたしはそんなふざけたヤツには必殺会長キックをお見舞いして、とっとと帰ったってわけだ。
 で、今がその帰宅中。
 もう結構な時間なので、辺りに人影は見えなくなっている。

 しかし。
 あいつ、そーゆー呼び方する女が好きなのか?
 いや、呼び方そのものの問題か?
 …うーん。
 周囲を見まわす。やはり人影は見えない。

 ま、なんだな。
 何事も経験って言うか。
 駅前体験一日入学というか。
 別に深い意味なんかないが、英訳みたいなもん、つーか。
 たとえば「あたしはゴッドリラーが好き」を英訳すると「あいらいくごっどりらー」になるようなもん。
 ちょっと、やってみっか。
 えーと。

「ほむらは……が好き」

 ……。
 うひー!
 鳥肌立ってきちまった。
 やっぱ、なれねーコトするもんじゃねーな。
 と。

「ふっふっふ。聞いたのだ」

 突然、いずこからか声が聞こえた。
 その声の方向を見ると、そこにいるのは、
 ……伊集院のガキ!
 こいつ、どこに隠れてやがった!

「ふん。貴様、人に「自分のこと名前で呼んでんじゃねーよ」とか散々言っておいて、
 自分でやるとはどういうつもりなのだ?」

 カチ。メイの手元で音がする。そこを見ると、カセットかMDかなんか、つまりは録音装置。

「大方、あの庶民の気を引こうとする、バカの悲しい努力なのだろうがな。
 言っておくが、あれはメイの下僕。つまり所有物なのだ。いくら貴様がバカ猿でも、人の物に手を出したら犯罪になる、ということぐらい理解できるだろう?」

 不意をつかれたあたしが言葉に詰まっているのをいいことに、調子に乗ったメイはなおも言葉を続ける。

「だがまあ。メイは寛大だから、貴様の態度次第ではこのテープを返してやらんでもない」
「ほお。三回回ってワンとでも言えってのか?」
「想像力貧困な庶民は、そんなことしか思いつかないのか?
 ま、貴様がそうしたい、というのなら、それでも構わんが」

 あたしはメイを睨み付け、

「ごめんだね」
「ほう。このテープを返さなくてもいいと?」
「そのテープはこの世から消し去る。貴様の思うとおりにもならない。つまり。
 力ずくで取り返す」

 あたしは指をポキポキ鳴らしながらメイに迫る。
 しかし、ヤツは悠然とした態度を崩さない。
 ゆっくりと目をつぶったかと思うと、パチ、と指を鳴らす。
 途端に、そこここの物陰から怪しげな男たちが現れる。
 ……だから、一体どこに隠れてたんだ?

「貴様のような強暴女の前に、無防備で現れるほどメイは愚かではないのだ。
 さあお前たち、伊集院家お庭番の力、とくと見せ付けてやるがいい!」

 じり、周囲の男たちのにじり寄る気配を感じる。…10人はいるだろうか?
 あたしは、ふっ、と笑う。
 上等だ。
 最近、ちょっとなまってたから、ちょうどいいくらいだ。
 最初の一人が踏み込んでくる。まずは、そいつからいくか。

 某月某日行われた赤井ほむらVS伊集院家お庭番の争いは熾烈を極めた。
 しかし、所詮名もなき脇キャラでは、新ワザ「超電磁会長キック」を極めたほむらの敵ではなかった。
 とはいえ、いかんせん数が多く、件のテープ破壊は何とか成功したものの、そこで力尽きてしまう。
 そして、目を覚ましたときには額におっきく「肉」の文字。消えるまで三日を要した。
 一方メイのほうも、無断でお庭番を使った咎により、三日間ゲーム禁止の令を受ける。
 双方、被害甚大痛みわけ。
 しかし、二人の争いは続く。
 ほむらVSメイの戦いは始まったばかりなのだ。

(つづく?)

つーわけでほむらVSメイです。
メイさまのせりふ、書いてて楽しい。
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