まあ、そんな感じのどーでもいいような会話だったんだが、
こともあろうにあいつはこう抜かしやがったんだ。
「ふーん。そうなのか。
俺は、そう言う呼び方結構好きだけどな」
てな。
まったく、バカじゃねーのって感じ。
もちろん、あたしはそんなふざけたヤツには必殺会長キックをお見舞いして、とっとと帰ったってわけだ。
で、今がその帰宅中。
もう結構な時間なので、辺りに人影は見えなくなっている。
しかし。
あいつ、そーゆー呼び方する女が好きなのか?
いや、呼び方そのものの問題か?
…うーん。
周囲を見まわす。やはり人影は見えない。
ま、なんだな。
何事も経験って言うか。
駅前体験一日入学というか。
別に深い意味なんかないが、英訳みたいなもん、つーか。
たとえば「あたしはゴッドリラーが好き」を英訳すると「あいらいくごっどりらー」になるようなもん。
ちょっと、やってみっか。
えーと。
「ほむらは……が好き」
……。
うひー!
鳥肌立ってきちまった。
やっぱ、なれねーコトするもんじゃねーな。
と。
「ふっふっふ。聞いたのだ」
突然、いずこからか声が聞こえた。
その声の方向を見ると、そこにいるのは、
……伊集院のガキ!
こいつ、どこに隠れてやがった!
「ふん。貴様、人に「自分のこと名前で呼んでんじゃねーよ」とか散々言っておいて、
自分でやるとはどういうつもりなのだ?」
カチ。メイの手元で音がする。そこを見ると、カセットかMDかなんか、つまりは録音装置。
「大方、あの庶民の気を引こうとする、バカの悲しい努力なのだろうがな。
言っておくが、あれはメイの下僕。つまり所有物なのだ。いくら貴様がバカ猿でも、人の物に手を出したら犯罪になる、ということぐらい理解できるだろう?」
不意をつかれたあたしが言葉に詰まっているのをいいことに、調子に乗ったメイはなおも言葉を続ける。
「だがまあ。メイは寛大だから、貴様の態度次第ではこのテープを返してやらんでもない」
「ほお。三回回ってワンとでも言えってのか?」
「想像力貧困な庶民は、そんなことしか思いつかないのか?
ま、貴様がそうしたい、というのなら、それでも構わんが」
あたしはメイを睨み付け、
「ごめんだね」
「ほう。このテープを返さなくてもいいと?」
「そのテープはこの世から消し去る。貴様の思うとおりにもならない。つまり。
力ずくで取り返す」
あたしは指をポキポキ鳴らしながらメイに迫る。
しかし、ヤツは悠然とした態度を崩さない。
ゆっくりと目をつぶったかと思うと、パチ、と指を鳴らす。
途端に、そこここの物陰から怪しげな男たちが現れる。
……だから、一体どこに隠れてたんだ?
「貴様のような強暴女の前に、無防備で現れるほどメイは愚かではないのだ。
さあお前たち、伊集院家お庭番の力、とくと見せ付けてやるがいい!」
じり、周囲の男たちのにじり寄る気配を感じる。…10人はいるだろうか?
あたしは、ふっ、と笑う。
上等だ。
最近、ちょっとなまってたから、ちょうどいいくらいだ。
最初の一人が踏み込んでくる。まずは、そいつからいくか。
*
某月某日行われた赤井ほむらVS伊集院家お庭番の争いは熾烈を極めた。
しかし、所詮名もなき脇キャラでは、新ワザ「超電磁会長キック」を極めたほむらの敵ではなかった。
とはいえ、いかんせん数が多く、件のテープ破壊は何とか成功したものの、そこで力尽きてしまう。
そして、目を覚ましたときには額におっきく「肉」の文字。消えるまで三日を要した。
一方メイのほうも、無断でお庭番を使った咎により、三日間ゲーム禁止の令を受ける。
双方、被害甚大痛みわけ。
しかし、二人の争いは続く。
ほむらVSメイの戦いは始まったばかりなのだ。
(つづく?)
つーわけでほむらVSメイです。
メイさまのせりふ、書いてて楽しい。
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