「四葉 誕生日 台風」

 たーんたーんたーらーらーらー(BGM:Be happy, please!)

 チェキ! 今日は四葉の誕生日なの! だから、今から兄チャマのおウチで誕生日パーティをやることになってるんデス!
 最初は兄チャマ、四葉のおウチまで迎えに来てくれるって言ってくれたんだけど、でもでもやっぱり、待っている兄チャマの所に「やってきましたーっ」って言いながら行くのが好きだし、それに兄チャマもパーティの準備で忙しくなっちゃうでしょうから、兄チャマにはおウチで待っていてもらうことにしたの!
 そして、四葉は今、兄チャマの所に行くための準備をしているトコロ。どのお洋服を着ていこうかな〜、こっちの服がいいかな〜、こっちの服もかわいいデス! あ〜ん、目移りしちゃう!
 と、そんな風に四葉が自分のお部屋で、お出かけの準備をしていたときのことでした……。

「四葉ちゃん、随分ゴキゲンみたいね」

 と言う声が聞こえたの! 四葉がびっくりして振り向くと、そこにいたのは……。
 咲耶ちゃんでした!

「わっ、咲耶ちゃん。いらっしゃいデス。でも、四葉のお部屋に来る時はノックして欲しかったデス」
「ごめんなさい。でも東京−名古屋間の最速記録を塗り替えるためには仕方なかったの」

 ムム、それなら仕方ありませんね。

「なるほどなるほど。まあ、ともあれ、折角来てくれたんデスから、大英帝国特製の紅茶とクッキーを持ってくるデス。一緒にたべましょっ。あ、でも、四葉今日兄チャマと約束があるから、あんまり長くはダメなんデス……」
「気にしないで四葉ちゃん。急に来ちゃった私が悪いんだから。準備をするなら、私も手伝うわ」
「ダメデスよ、咲耶ちゃんは今、四葉のお客さんなのデスから。イギリス紳士の名に置いて、お客さまにそんなことはさせられないのデス!」
「ありがとう四葉ちゃん。じゃあ、お願いね」

 と言うわけで、四葉は咲耶ちゃんのおもてなしをすることになりました。おいしい紅茶とクッキーを頂きながら、四葉と咲耶ちゃんはお話をしたりとっくみあいのケンカをしたり! 学校のコト、かわいい服のコト、最後の大隊の侵略を受けているイギリス本国のコト、ジョン・ウー映画における男の友情のコト……色々話題は出たのデスけど、やっぱり一番たくさん話したのは……兄チャマのコトでした! やっぱり、四葉たちは姉妹なのね。クフフゥっ。
 と、そんな風にお話をしていて、ふと四葉が時計を見ると……大変デス!

「わ、もうこんな時間っ! 咲耶ちゃんごめんなさい、四葉もう行かなきゃ!」
「……チ」

 言いながら四葉は立ちあがり、お出かけの準備をし始めました。咲耶ちゃんがものすごいやさぐれた目で舌打ちをしたのはとりあえず見なかったことにしておきます。

「じゃあ咲耶ちゃん、コレ、四葉のおウチの合鍵だから、家から出る時に使ってクダサイ。あ、でも防犯の都合上、閉めるのはいいけど開けようとすると半径30キロ四方が焦土と化すから、気をつけてクダサイねっ!」

 四葉は咲耶ちゃんにそう言って、出かけていこうとしたのです。
 ところが!

「待ちなさい四葉ちゃん! あなたを行かせるわけにはいかないわっ!」
「え! 咲耶ちゃん、イキナリなにを言いだすんデスか? 気がフレましたか?」
「そんなんじゃないわ……ただ、男子たるもの一歩外に出れば七人の敵がいるという……私がその一人目よ!」
「って咲耶ちゃん、四葉は『男子』、つまり男のコじゃアリマセン。四葉は女のコデス!」
「甘い、甘いわ、四葉ちゃん……いい! 女子供と手加減してくれるような人が、本当の敵と言えるの!?」

 ずがーん。四葉は衝撃に打ち震えマシタ。
 確かに、咲耶ちゃんの言うコトはもっともデス。この点においては、四葉は甘ちゃんだったといわざるをえません……。
 ならば! 四葉の取るべき道はただひとつ!

「咲耶ちゃん……判りマシタ! 咲耶ちゃんがそのつもりなら、四葉、全力を持ってお相手致しマス!」
「ええ……所詮妹とは、拳と拳でしか語り合えぬ不器用な生き物! それでは、存分に語り合うとしましょう!」

 四葉と咲耶ちゃんは向かいあい、それぞれ構えを取りマス……四葉は破邪の構え、咲耶ちゃんは右螺旋の構え。それぞれの技は一流、ゆえに、勝負がつくのは一瞬デス!
 お互いに睨みあったまま、時間はジリジリと流れていきます。兄チャマとの約束があるから、こうして時間を浪費して、不利になるのは四葉の方。けれど、焦って不用意に仕掛けた所で、咲耶ちゃんは倒せる相手ではアリマセン。はやる心を必死で押さえ、咲耶ちゃんの目線、重心、筋肉の動き等を観察し、こちらも幾多の細かいフェイントを繰り出しながら隙を伺い……。
 そして!
 お互いに引き絞った弓が、ついに解き放たれる時がきました!
 それは、お互いにじりじりと接近しあい、すでに双方共に相手を射程範囲をおさめた時のコトでした。先に仕掛けて来たのは咲耶ちゃんの方。空気を切り裂くような音と立てつつ接近する咲耶ちゃんの掌。それは四葉のおなかに当たったなら、体内の臓物を螺旋の力にて破壊し尽くし、四葉はシチコウフンケツ、絶命してしまうトコロでした!
 けれど、そうはならずに……間一髪のトコロで、四葉の因果が先にサクレツしたのデス!
 因果はカウンター技。咲耶ちゃんの技の威力が強ければ強いほど、四葉の一撃の威力も増します。咲耶ちゃんが一流であったがゆえに、その一撃は致命的なものになったのでした。

「う、まさか、私が負けるなんて……」
「咲耶ちゃん、咲耶ちゃんが負けた理由はたったひとつ……たったひとつのシンプルな答えデス……。
 ――『四葉は、さっきの紅茶に一服盛っていた』」

 その四葉の言葉を聞いて、咲耶ちゃんは、とても綺麗な笑顔を浮かべました。

「……さすがね、四葉ちゃん……だけど、私の行動が世界を守るためだとしたら……そして、私はあなたのあ、ね……」

 ガクリ。咲耶ちゃんは息絶えました。
 はて、咲耶ちゃんは最期に何を言いたかったのでしょうか?
 四葉はそれがちょっと気になりマシタけど、ふとお部屋の時計を見てみたら……たいへん!

「わわわっ、たいへんっ。もうこんな時間デスっ」

 咲耶ちゃんとの死闘で、とっても時間が流れてしまったみたいなの。これ以上遅れたら、峠最速の豆腐屋さんでも間に合わないかも! 早く出かけなきゃ!

「咲耶ちゃんごめんなさいっ! 遺体は四葉が帰ってからねんごろに葬りマスから、今はそこでお亡くなりになっててクダサイねっ」
「ええ。判ったわ四葉ちゃん。あ、そうそう、今日台風が来るらしいから、気をつけてね」
「はーい。ワカリマシタっ。咲耶ちゃん、ありがとうございますっ」

 咲耶ちゃんにお礼を行って、四葉は家を飛び出ました。
 さあ、目指すは、セントアーバーエーと名を変えた、兄チャマのおウチですっ。

 そして。
 道中、四葉は他の妹たちと出くわしました。
 せっかくだからと四葉に挑戦を挑むみんなを、四葉はちぎっては投げ、屍を踏み越え、亞理亞ちゃんに甘いものを与えて誘拐し、鈴凛ちゃんに袖の下を渡して買収し、鞠絵ちゃんの寿命を待ち……そんな苦難の道を乗り越えて、ついに四葉は兄チャマのおウチへと辿りついたしたのデス!
 長かった……ここまでのオハナシを詳しく書くと、CD−ROM6枚組みでしかもそれでも終らなくて独立した作品と称した続編が出ちゃうトコロなので省略しマス。とにかく目の前に、兄チャマのおウチがあるのデス!
 そう思ったら、四葉はなんだか緊張してきちゃいました……髪の毛にヘンなクセはないかな、お洋服に皺とかできてないかな、誰かの返り血がついていないかな……あわわ、四葉、とってもドキドキデス!
 だけど……いつまでもこうしているわけにはいきません。必要なのは覚悟デス! 覚悟することは幸福デス! 覚悟とは苦痛を回避しようとする生命の本能すら凌駕した魂のコトデス!
 よし、と四葉は覚悟を決めて、兄チャマのおウチのドアノブに手をかけました……そこに!
 突発的局所的な台風が四葉を襲ったの!

「ウェザーリポートッ!」

 思わず四葉はそう叫んでしまいました……もしくはDISCを受け継いだエンポリオのせいかも知れないデス……とにかく、四葉はジョジョ第六部最終回みたいにズブヌレになってしまいました……。
 兄チャマに見てもらいたくて、一生懸命選んだお洋服も、髪の毛も、もうメチャクチャ。ぱんつまでグッショリデス……台風は一瞬であがりマシタけど、四葉の心は晴れないまま……なんだか、泣きたくなってきちゃいました……。

「うう、こんな格好、兄チャマには見せられないよう……」

 地面に出来た水溜まりに写る四葉の姿は、まさに負け犬そのものでした……四葉は、はあ、とため息をついて、くるりとその場から振りかえりました。負け犬の四葉に出来るコトは、おウチに帰って咲耶ちゃんを二度と復活しないよう埋葬することだけデス……。
 と、四葉がおウチに帰ろうと、一歩踏みだそうとした、そのときデス!
 兄チャマのおウチのドアがギィ、と開いて、その音に四葉は慌てて振り向いて、そこから顔を出していたのは……。
 兄チャマデス!
 兄チャマは四葉の姿を見て、どうしたんだい、って訊いてきました……四葉はこんなビショヌレの姿を見られちゃってると思うと、恥ずかしくって、お顔がかあ、ってなっちゃいマス……気分は視線恐怖症。このままでは兄チャマをの目に鑿を突き立ててしまいかねマセン……。
 でもそんな心配をしている四葉に対し、兄チャマは心配そうな声で、そんな格好でいると風邪を引いてしまうから、中にあがってシャワーを浴びなさい、って言ってくれたの!
 わーい、やっぱり兄チャマは優しいデス! 四葉は兄チャマのお誘いにのって、おフロを借りることにしました。兄チャマのおウチのおフロを借りるのは、ちょっと恥ずかしかったケド、四葉たちは兄妹なんだから、問題ないよねっ。
 そういうワケで、四葉はシャワーを浴びていました。ここが、兄チャマがいつも使ってるおフロなのですねー……あわわ、そう考えると、なんだかドキドキしてきちゃいマシタ……あ。
 そう言えば、と四葉はたいへんなコトに気付きマシタ! シャワーを借りたはいいけれど、四葉のお洋服はビショヌレのまま……兄チャマのおウチには、女のコの服なんてモチロンないでしょうし……きゃー、たいへん、四葉、着る服がないデス! わわ、四葉、もしかしてハダカのままでいなきゃイケナイんでしょうかっ。
 ……いや、男モノのワイシャツのみを着ているというシチュエーションも在り得るか……。
 と、四葉がそんなコトを考えていると、

「四葉ちゃーん、着替え持ってきたから、ここに置いておくわね」
「あ、はーい。ありがとうデス、咲耶ちゃん」

 おフロの扉の向こうからそんな声が聞こえてきました。わぁい。四葉のピンチに咲耶ちゃんがやってきてくれたデス。やっぱり咲耶ちゃんは頼りになりマスねっ」
 ……って。

「咲耶ちゃん!?」

 なんで死んだはずの咲耶ちゃんがココに、よりにもよってこの兄チャマのおウチにいるんデスか?
 四葉は慌てておフロの扉を開けましたけれど、そこはすでにもぬけの空。急いで体を拭いて、咲耶ちゃんが置いて行ってくれたお洋服に着替え、ダッシュで兄チャマのいるお部屋へと向かいマス!
 と、そこにいたのは!

「咲耶ちゃん……」
「あら。ずいぶん慌ただしいかったのね、四葉ちゃん。もうちょっとゆっくりしていればよかったのに」
「なんで、咲耶ちゃんが、ここにいるんデスか……」

 だって、だって、四葉は、あのとき……咲耶ちゃんにトドメを差したハズなのにっ。

「甘いわね、四葉ちゃん……こちとら生まれて十数年、ずっとお兄様のコトだけを考えて生きてきたのよ。心臓が止まった所で、死ぬはずがないわ」
「な、なるほど……さすがは咲耶ちゃんデス……」

 四葉は、咲耶ちゃんのことをあなどっていました! まさか、これほどの人類規格外だったとは!

「咲耶ちゃん……四葉は甘かったデス。同じ妹だから手を抜いていた、とは思いたくないデスが……でも、四葉はまだ非情になり切れていなかったようデス」
「そうね……私は四葉ちゃんのそういうところ、嫌いじゃないけど……でも、これ、戦争だから」
「ハイ……」

 言いながら咲耶ちゃんは立ちあがり、構えを取りました……さっきとは違う構え、これは兄チャマを葬送せしめし、双手螺旋デス! これでは、左右いずれから来るかワカリマセン!
 じわり、と四葉の額に汗が流れます……イケマセン。飲まれたらお終いデス、臆せば死にマス。四葉は心の中で妹見参と三回唱え、反応反射音速光速という感じでそれを迎え撃とうとしました。そのときデス。兄チャマが、食べ物のあるところで暴れちゃいけないよ、って言ったのは。
 食べ物? 四葉はそう思って、お部屋にあるテーブルを見てみました……するとそこにあったのは……。

「ケーキデス!」

 そう、それは四葉のバースディケーキでした。とっても大きくて、おいしそうっ。兄チャマ、四葉のために、これを用意してくれたのねっ。

「わーい、とってもおいしそうデス! 咲耶ちゃん、ナイフ取ってクダサイ。切り分けましょっ」
「ええ。そうね。四葉ちゃんはこの名前付きチョコレートも食べるといいわ」
「いいんデスか?」
「もちろん、だって今日は、四葉ちゃんの誕生日だもの」

 わーい。咲耶ちゃんは優しいデス。四葉は兄チャマと咲耶ちゃんと一緒に、ケーキを食べマシタっ。その後も、兄チャマが用意していたお料理を食べながら、いろんなお話をしました。兄チャマの用意してくれたお料理は、ローストチキンも砂肝の唐揚げも仏跳牆も、みんなおいしかったデス! だから、四葉ちょっと食べ過ぎちゃったっ。クフフゥっ。
 そんな風にして、四葉の誕生日は過ぎていきました。
 色々ドタバタしちゃったけど、とっても楽しかったデス!
 来年も、こんな誕生日だったらいいなっ。

おわり。