『じゃーんけーんぽーん!』
「えっと……ふっふっふっ。どうやらあたしの勝ちのよーねぇ」
「……一番やな奴に当っちまったな」
「なによぉ、それどういう意味?」
「いやそのまんまだが」
「むっきぃー! 何よ、私じゃシンデレラに相応しくないとでもいうの?」
「まあまあ、二人とも喧嘩しないで。それじゃ『志保のシンデレラ』開幕ですっ!」

 前回までのあらすじ。
 シンデレラは継母&義姉の二人に苛められていました。

「せっせ、せっせ……ああ、今日も継母&義姉の横暴に耐え、けなげにも掃除を続けるあたし。
 こーゆー雰囲気に、男はコロリと騙されるのよねえ」

 そんな事を呟きながら、シンデレラは掃除を続けます。
 そこへ、継母&義姉がやってきました。

「……えっと、志保、じゃなった、シンデレラ? ちゃんと掃除してる? 大丈夫? 疲れたんなら変わろうか?」
「そうですよ。わたし、お掃除は大好きですから、よろしかったらわたしが……」
「ちっがーう!」

 シンデレラは叫びました。

「いい!? あかり&マルチ! あなたたちは今、意地悪な継母&義姉役なのよ! ただただ意地悪をしまくって、不幸でけなげなあたしのイメージを組み立てるのが仕事なの! 大体そんな態度じゃ冒頭の説明に全然のっとってないでしょう!」
「そ、そうだね、志保」
「は、はいっ! わたし、がんばりますっ!」

 ぐっと握り拳を作って気合いを入れる継母&義姉。
 シンデレラの迫力の前に、気合いを入れざるのを得ないのも事実ですが。

「まぁ良いわ。で、どこからだっけ?」
「えっと、これから私たちが舞踏会に行くって話をして……」
「ふんふん。じゃあ、そこから再開しましょ」
「うん、わかったよ。じゃあ……シンデレラ、私達はこれから舞踏会に行ってくるわ。留守番お願いね」
「ちゃんとお掃除しておいて下さい……じゃなくて、しておくのよ、です」
「んーまだぎこちないけど、まあ良いわ。じゃ……。
 お母様、あたしも舞踏会に行きたいわ!」
「うん、一緒に行こ」
「違うでしょっ!」
「え? でも一緒の方が楽しいんじゃ……あ、うん、わかったよ。えっと、あなたはどれすももっていないでしょうそんなかっこうでおしろにいってわたしたちにはじをかかせるつもり?」
「やっぱりちょっと硬いわねー。もうちょっと、役に入って、ほら、自分が意地悪な継母になったような気分で」
「むずかしいよー。ねえ、マルチちゃん?」
「はい、そうですね」
「あーもうだめねえ」
「ごめん……」
「とにかく続けましょ。じゃあ、あたしは留守番しているから、二人はさっさと行っちゃって」
「うん。じゃあ、行ってくるねー」

 去り行く二人の影を見送りながらシンデレラは、配役間違えたんじゃないかと心配していました。

 シンデレラは掃除をしています。延々と。

「あーもう、いつまで掃除していれば良いのかしら? 序盤は退屈ねえ」

 と思っているシンデレラの所に、ひとりの魔法使いがやってきました。
 何故魔法使いであるか分かったかというと、その人物はそれっぽい格好をしていたからです。

「……」
「あのー? あなたは、魔法使いさん?」
「……」

 こくこく(うなずいている)。

「わたしを、お城に連れていってくれるのよね?」
「……」

 こくこく(うなずいている)。

「ねえ、黙ってないで喋ってくれない?」
「仕方ありませんよ、それが先生のアイデンテティーなんですから」

 声は後ろからしました。

「おわっ! あんた、誰?」
「申し遅れました。私、魔法使いの芹香さんの助手の超能力者の琴音です」
「何で魔法使いの助手が超能力者なの?」
「人手不足なもので」
「……それは良いから、さっさとかぼちゃでもなんでも馬車にしちゃってちょうだい。時間も押してきているし」
「はい、それではかぼちゃとネズミを用意して下さい」
「はいはい」

 シンデレラは、かぼちゃとネズミを調達してきました。

「それをこの魔法陣の中に入れて」
「ほいほい」
「で、先生、お願いします」
「…」

 魔法使いの芹香さんは、魔道書を開き、何やら呪文を唱え始めます。

「ふーん。これで終り?」
「はい、これで一昼夜ほど待って下されば、かぼちゃが馬車に、ネズミが馬になります」
「……一昼夜も待ってたら、舞踏会終わっちゃうわよ」
「と、申されると思ったので、すでに調理済のものがこちらに用意してあります」
「……最初からそっち出しなさいよ」
「ではこの書類にサインを。代金は指定の口座に20日までに振り込んで下さい。なお、この契約は本日の夜の12まで有効です。それ以降に起こる一切のトラブルについては、当方では責任を負いかねますのでそのつもりで」

 シンデレラは書類に一筆さらさらと書きました。この程度の代金、王子をゲットして玉の輿にのってしまえばちょちょいのちょいです。
 こうしてシンデレラは、馬車に乗って城へと向かいました。

 その夜は暴走族の解散集会の日でもありました。
「……なんでこんな日に限って、こんな連中がこんな事やってんのかしら?」

 シンデレラは天をうらみました。明らかに作為的な何かを感じます。
 違法改造をなされているとおぼしき馬車達が、天下の公道を我が物顔で走り回っています。
 そのため、一般車はとても進めたものではありません。

「こらあかんわ。お客さん、あきらめたほうがええで」

 運転手の委員長(仮)さんがぼやきます。(仮)がついているため、神戸弁もインチキ入っています。

「そこを何とかするのが運転手の腕でしょ? ああ、もう10時過ぎちゃったわ。どうにかならないの?」
「まあ、どうにかならへん事もないけどな」

 運転手は意味ありげに視線を逸らし、

「……身の安全を保障せんでもええっちゅうんならな」

 呟くように言いました。

「はあ? 一体、どーゆー意味……」

 シンデレラが台詞を言い終えるのを待たず、馬車は停止状態からいきなりフルスロットルに入り、前で渋滞している馬車と馬車の間を香港映画っぽい片輪走行でくぐりぬけ、前方、暴走馬車達のエリアに入っていきます。

「だっ、たっ、あたっ、舌噛んじゃったじゃない!もーちょっと丁寧に走んなさいよっ!」
「黙っときっ! また舌噛むでっ!」

 運転手は凄まじい手綱さばきで行く手を阻む暴走馬車達の隙間を抜けていきます。
 もちろん、突然の乱入者に対しておとなしくしていられるほど、暴走連中はジェントルマンではありません。
 一台の馬車がシンデレラ達の馬車に近づき、その中の人物が野次を飛ばしてきました。

「おう姉ちゃん、おれ達のパレードに割り込んでくるたぁ、良い度胸じゃねえか!」
「一般馬車はたらたら走ってろってんだ!」

 なんか自分勝手な理屈です。
 委員長(仮)はそんな言葉には耳を貸さず、ただひたすら加速します。
 そして、目の前には急カーブ。

「ちょ、ちょっと、ちょっと! スピード出し過ぎ! 曲がりきれないわよ事故っちゃうわよ!」

 そんなシンデレラの叫びに、委員長(仮)は、ただニヤリと笑い。
 速度をゆるめないまま、馬車でドリフトしました。
 どうやって? とか言われても困りますが。

「あ、あれ? あたし、生きてるの?」

 シンデレラは呆然としています。何が起こったのか把握できてない様子です。

「あ、あのドリフトは?」

 暴走連中の一人が、驚愕しながら言います。

「まさか『日本アルプスのイニシャルT』?」

 その言葉を聞いた委員長(仮)は「昔の話や」と言い、シンデレラは「何の話よ?」と言いました。
 様子が変わったのは暴走連中です。今まで盛んに野次を飛ばしていた連中までもが、遠巻きに見るにとどまっています。

(…委員長(仮)の過去に何が?)

 シンデレラは不審に思いましたが、それは話の筋にまったく関係ないことなので無視しました。
 と、そこへ、一人の男がやってきました。

「やあ。えっと、何が起こっているのかな?」

 暴走連中の一員とは思えないほどのさわやかさです。
 彼こそが、暴走連中の総長、雅史です。
 やはり配役に問題がありました。

「あんたがこいつらの親分か」
「うん。そうみたいだね」
「ちと子分のしつけがなっとらんのとちゃうか?」
「はは、そうかもね。でも、僕らは暴走連中なわけだし」
「まあな。確かに若いうちは多少ハシャいでもしゃあないかも知れん。ドリフトをかまそうと車を派手に塗装しようと時速180キロからウィリーしようと側溝にタイヤを引っかけて減速しようとお嬢様は魔女で5億点とろうと夜の校舎窓ガラス壊して回ろうと仲間がバイクで死んでとっても良い奴だったからガードレールに花添えて青春アバヨと泣こうとそれは勝手や。
 しかしやな、それでカタギの衆に迷惑かけるんは、ちと違うんちゃうか?」
「うん。僕もそう思うけど、まあ理屈が通らないのが体育会系の掟らしいから。
 どうだい? ここは走りで決着をつけると言うのは?」
「おもろいやないか。後悔するなや」

 そんな二人の会話を聞きながら、シンデレラはこれ以上ここにいると何がなんだか判らなくなってしまうと思い、こそこそと脱出しようとしました。と。

「おい、あんた!」

 委員長(仮)に声をかけられ、シンデレラはビクっとします。
 振り向くと、委員長(仮)はぐっと親指を立て、

「ココはうちにまかせて、先に行きや」

 言われなくてもそうさせていただきます。
 そう思い、シンデレラはとっとと走り去りました。

「志保遅いねー」
「ああ、そうだ、な」
 ここはお城。
 すでにスタンバイの終わったこの場所で、出演陣は主役であるシンデレラ=志保を待っています。

「たしか、ここの城って片づけの時間を入れても12時ちょい過ぎまでしか借りてなかったんじゃなかったけか? 間に合うんかよ?」
「うーん……もうとっくについている時間の筈なんだけど」

 まわりでは、エキストラ役の方々が踊っています。
 シンデレラが来るまで踊るのが仕事なので、もういい加減つかれていますが。

「暇、だな」
「うん……ちょっとね」
「なあ、あかり」
「今は継母だけど……何?」
「暇だから、その、なんだ。ちょっと踊ってるか? せっかく舞台は整ってるんだし」
「え? でも、志保がまだ……」
「志保がちんたらしてんのが悪いんだろ?」
「うん……じゃあ」

 微妙に思春期モードに入っている二人は、ぎこちなく踊り始めました。
 一方その頃。

「つ、着いたぁ……」

 お城の入り口では、シンデレラがやっと到着した所でした。
 その格好はぼろぼろです。服は裾が千切れ、砕けてしまったのか、ガラスの靴ははいていません。
 どうやら、相当の修羅場をくぐりぬけてきたようです。

「……なにが樽なのよ? 延々禁止するんじゃないわよ、カササギがそんなに偉いっていうの?」

 ブツブツと訳の分からないことを呟くシンデレラ。
 そんなシンデレラに対し、お城の警備兵のバイトの理緒が近づきます。
 
「あのぉ、すみません、そのようなお召し物でのご入場は、ご遠慮願いたいのですが……」

 がっ!
 シンデレラは、野獣のような目で睨み付けました。
 警備兵理緒は、ひっ、と小さく声を上げます。明らかにカタギの目では有りません。
 そこに、警備隊長セリオがやってきました。
 勇ましい格好も良く似合っています。

「……どうかなさいましたか?」
「あ、隊長! あの、この人が……」

 セリオは野獣の目をしたシンデレラを見て。

「……どうぞお入り下さい」
「うい」

 シンデレラを通しました。

「隊長……いいんですか?」
「あの目はマジモンです。ここで逆らったりしたら、この城の人間すべてに危害が及ぶほどのこととなるでしょう……」
「はあ、そうなんですか?」

 お城へ入っていくシンデレラの後ろ姿を見ながら、理緒は、まあバイト代入ればどうでも良いか、とか思っていました。

 ついにあたしはここまで来た……。

 シンデレラの心の中には、何かをやり遂げた時の充足感が満ちていました。
 あとは、王子を見つけて力ずくでもハッピーエンドに持っていくだけです。
 勢いづくシンデレラはきょろきょろとあたりを見回し、王子を探します。
 しかし。
 そこでシンデレラが見たものは。
 踊っている、藤田浩之と神岸あかりでした。

「……」

 二人の踊りはお世辞にも上手とは言えません。
 でも……。
 志保は自分の姿を見直します。
 ぼろぼろの服。顔は薄汚れ、ひどい格好です。
 こんな格好で。
 自分は何をしようとしているのでしょうか?

「ん……」

 近くの壁に背を預け、軽くためいき。
 そこから見える二人は、とても楽しそうです。

「はあ……」

 そんな二人をじっと見つめ、

「ま、いっか」

 うすく微笑みました。

 と。
 あかりは、そんな志保を見つけました。
 あかりは、少し考えた後。

「浩之ちゃん」
「ん? なんだ?」
「志保、来てる」
「は? あ、ああ、ほんとだ。ったく、しゃーねーな」
「ほら、行ってあげなきゃ」
「ああ、うん」

 あかりに急かされ、浩之は志保の方へと歩いていきます。
 浩之の背中を見つめながら、あかりは呟きます。

「きょうのヒロインは、志保だからね」

 はたして、それはどういった意味だったのか。

 志保はうつむいていました。
 だから、近づいてくる浩之にも気付きませんでした。
 
「よぉ、遅刻魔シンデレラ」
「……へっ? って、ヒロ! あんたいつのまに!」
「いつのまにってーか、今来たんだが」
「なによ、なんか用?」
「なんか用って、お前シンデレラだろ?」
「いーのよもう。あんたはあかりと踊ってなさい」

 志保は顔を逸らします。
 浩之はしょーがねーな、と言った顔をして、胸ポケットから何やら紙を出して。

「あー、うん、えっと、そこのうつくしいおじょうさんわたしとおどってくれませんか?」

 棒読み。志保は、?、という顔をします。

「あんた、何言ってんの?」
「何言ってんのじゃなくて、芝居だろ芝居。シンデレラだ」
「え、ええっと、あの、その」

 志保は慌てます。すっかり台詞を忘れてしまっていました。

「ああ、あたしは、その」

 そんな志保を見ながら、浩之はカンニングペーパーをポケットに仕舞い込み、

「ったく、何どもってんだよ。普段はうるせーぐらいに喋ってるくせに」
「うっさいわね! こっちだって色々ハプニングあって大変だったんだから!」
「にしても、ひでーかっこだな」
「あー! あんた、傷心のレディーに対して、その言い方はないんじゃないの? あたしのガラスのよーに繊細なこころはいたく傷つちゃったわよ!」

 そこまで来て浩之は笑い、

「やっと普段の調子に戻ってきたな」
「はあ?」
「おめーが大人しくしていると、何かの前触れかと思えて心臓に悪い」
「な、何よそれー!」

 食って掛かる志保。それをいなす浩之。
 しばらくぎゃあぎゃあと言い合った後、浩之は何かを思い出したかのように、

「と、そーじゃねーな、踊りだ踊り、もうこうなったらとっとと終わらせちまおう」
「何よそのやる気のなさげな態度は? もっと感情を込めなさいよ、せぇっかく美少女と踊れるチャンスだってのに」
「……美少女……誰が?」
「……その言葉、宣戦布告と判断するわよ。いーわ。志保ちゃんの華麗なダンステクニックを披露してあげるわ。マニパラだって楽勝なんだから」
「へいへい、言ってろ言ってろ」
「あ、どさくさに紛れてヘンなところ触ったら、承知しないからね!」
「そっちこそ足踏んだりすんじゃねーぞ」
「んなこと、するかーい!」

 こうして二人は踊り始めました。
 12時はとっくに過ぎていましたが、そんな事はもう関係有りません。
 魔法なんて、本当はいらないのですから。
 


 

「志保のシンデレラ」

>幕劇

あとがき

「ふ、残るはあんただけのようやな」
 委員長(仮)は、総長雅史を見据えました。
 その足元には、雅史の部下、カラテーカの綾香と葵が転がっています。
 そう、奴等は、走りの勝負に見せ掛け、委員長(仮)を闇討ちしようとしたのです。
 しかし、そこは百戦錬磨の委員長(仮)。手傷を負ったものの何とか二人を撃退できました。
 雅史にじり、と詰め寄ります。

「なめた真似してくれるや無いか…けど、もう残るんはあんただけや」
「はは、そうみたいだね」

 相変わらず爽やかな雅史。そこには焦りが感じられず、委員長(仮)はその不気味さに少し戸惑います。

(あかん…びびったら負けや…)

 そう思い、雅史へと飛びかかろうとすると。

「ほう…なかなかやるようですな…」

 威圧感ある男の声が聞こえました。
 そちらの方を向くと。
 そこにいたのは、伝説の総長、セバスチャンでした…。

 よーし、全員出たな?
 はい今日は。私です。
 今回は何の気の迷いかシンデレラを書きました。
 こーゆーネタでシンデレラってのは使いやすいんですかね?
 色々な所で見ます。
 で、私もやってみようとしました。
 ふつーに考えると、あかりがシンデレラ、もしくは、委員長がシンデレラであの3人組が継母&義姉ってーのなんでしょうが。
 ここはあえて「配役ミス」というコンセプトでやってみました。
 どうだったでしょうか?

 前編と後編はただひたすらバカやって訳わからなくなったので、完結編ではちとラブコメっぽくしよーかなー、と思ってたら思春期が暴走しました。(最初は分割してのっけててました)
 これらのセリフを私の前で言ってイジめるのは不許可です。勘弁して下さい。
 じゃ、次は何しようかなあ?

 …あ、レミィがいねえや。

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