2月13日、朝。

「バレンタイン、ですか」
「そです。そもそもはキリスト教徒のバレンタインさんがどーしたこーしたらしいですが、
 まあ日本においては好きな人にチョコ渡す日っぽいです」
「なるほど。そうなのですか」

 ユニは納得したようにうなずきました。
 なぜそんなことをするかという根本的な疑問は残りましたが、人間の行事は良くわからないものが結構あるので、これもそれだと判断しました。

「それでですね……」

 セリオ(偽)はきょろきょろと辺りをうかがい、ユニに耳打ちするようにして、

「どなたか、台所を貸してくださる方はいないでしょうか?」
「はい?」

 ユニはその質問の意味がわかりません。だって、台所はおうちにだってあるのですから。

「なぜ、貸してくれる方が必要なのですか?」
「いや、そのですね」

 セリオ(偽)は少し照れたようにしながら、

「世の中意外性が大事でしょう」
「はあ。そうかもしれませんね」
「おうちで作ると、さすがにばれちゃうじゃないですか」
「……はい」

 やっぱり、なんでばれると困るのかは分かりませんでした。
 しかし、他ならぬセリオさんの頼み。ユニは必死に考え込みます。

「……えっと、あの……あ、今から、部活で学校に行きますから、誰かいないか聞いてきます」
「ほえ? 今日部活あるんだっけ?」
「はい」

 それを聞くと、セリオ(偽)はちょっと考え、

「そおだ。この際だから私も学校言ってみましょう」
「学校に来られるのですか?」
「はい。夏樹さんに来ないか、って言われてることですし」
「それはステキですね。わくわくです」
「よぉっし。そうと決まりましたら早速着替えましょう」

 そういって、着替えを始めた二人ですが、

「……セリオさん、その格好は?」
「ほえ? これは、闇ルートで手に入れたユニちゃんの学校の制服ですけど?」
「どういったルートなのかは多少気にかかりますけど、それよりもなぜセリオさんも制服を着るのですか?」
「はっはっは。大丈夫っスよ。私、これでも外見年齢は16歳で通ってますから」
「……いえ。あの、そおいうことでは」

 ユニはちょっとみゅーとしましたが、特にこだわるほどのことでもありませんので、二人は出かけました。

 同日、昼。

「なんと、日曜は学食休みですか」
「はい。そのようです」

 セリオ(偽)は、どんなものがあるのか楽しみにしていただけに、ちょっとがっかり。
 ユニも、うっかり前もってそのことを言うのを忘れていました。

「仕方ないから、近くの商店街に買い物に行ってきます。ついでに、チョコの材料も買っちゃいますか」
「はい。お供します」
「部活はいいのですか?」
「あ。……すみません」

 ユニはそもそも部活に来たのですから、部活に出なければしょうがありません。
 セリオ(偽)はユニと別れ、学校を出ようとしました。
 と、その前に。

(ここが、ユニちゃんの学校ですかあ)

 午前中、来てすぐにユニに学校の説明をしてもらったので、大体どんな建物があるかは分かります。

(……学校かあ)

 妙にノスタルジックな気分。学校生活を送ったことは、無いのですけれど。
 少なくとも私は。
 そんなことを考えつつ見物しながらふらふら歩いていると、

「あれ……セリオさん?」

 声。くるりとそちらに振り向くと、

「おや、誰かと思えば夏樹さん」
「……ども、こんにちわ」

 そこにいるのは、ユニの友達で、この前の温泉で知り合いになった風間夏樹という女の子でした。

「部活動ですか?」
「ええ。そうだけど……セリオさんは?」
「はい。ちょいっとヤボ用で」
「まあ、それはいいんだけど。なんでウチの制服着ているの?」

 まさか、彼女までウチの学校に通い出すとか?

「いやあ。趣味です」
「……はあ」

 誰の? と聞きたくはありましたが、なんとなく夏樹は止めておきました。
 今、部活の休憩中だと言う夏樹。
 ちょっと話しこむ二人。
 と。

「そういえば、明日はバレンタインですね」
「……まあ、そうかもね」

 夏樹は、その話題はあまり乗り気で無いようです。

「私、この行事あまり好きじゃないのよね」
「ほう。そうなのですか」
「なんか……踊らされている感じがするし」
「まあ。確かに。でも」
「でも?」
「楽しけりゃいいんじゃないんですか」
「そうかなあ?」

 考えが深いんだか浅いんだか分からないセリオ(偽)の対応に対し夏樹は考え込みます。

「……そうかもね」
「そーですよ。私とユニちゃんは、手作りするつもりですが、夏樹さんもご一緒しません?」
「……そうね」

 妙に考え込む夏樹。
 台所確保できてほくそえむセリオ(偽)。
 そして、二人は別れ、夏樹は部活に戻り、セリオ(偽)は商店街へと向かいました。

 同日、夜。風間家。

 夏樹の両親は忙しいらしく、その日は家にいませんでした。
 そして、そこに集まった三人。夏樹、ユニ、そしてセリオ(偽)。
 三人はセリオ(偽)が買ってきたチョコの材料、そして作り方の本とにらめっこしています。
 セリオ(偽)はともかく、残りの二人は料理が得意ではありません。
 指導の元、調理を進めます。
 間にテレビ見たり、雑談したりしながら。
 その夜は、ふけていきました。

(明日に続く)
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