「バレンタイン、ですか」
「そです。そもそもはキリスト教徒のバレンタインさんがどーしたこーしたらしいですが、
まあ日本においては好きな人にチョコ渡す日っぽいです」
「なるほど。そうなのですか」
ユニは納得したようにうなずきました。
なぜそんなことをするかという根本的な疑問は残りましたが、人間の行事は良くわからないものが結構あるので、これもそれだと判断しました。
「それでですね……」
セリオ(偽)はきょろきょろと辺りをうかがい、ユニに耳打ちするようにして、
「どなたか、台所を貸してくださる方はいないでしょうか?」
「はい?」
ユニはその質問の意味がわかりません。だって、台所はおうちにだってあるのですから。
「なぜ、貸してくれる方が必要なのですか?」
「いや、そのですね」
セリオ(偽)は少し照れたようにしながら、
「世の中意外性が大事でしょう」
「はあ。そうかもしれませんね」
「おうちで作ると、さすがにばれちゃうじゃないですか」
「……はい」
やっぱり、なんでばれると困るのかは分かりませんでした。
しかし、他ならぬセリオさんの頼み。ユニは必死に考え込みます。
「……えっと、あの……あ、今から、部活で学校に行きますから、誰かいないか聞いてきます」
「ほえ? 今日部活あるんだっけ?」
「はい」
それを聞くと、セリオ(偽)はちょっと考え、
「そおだ。この際だから私も学校言ってみましょう」
「学校に来られるのですか?」
「はい。夏樹さんに来ないか、って言われてることですし」
「それはステキですね。わくわくです」
「よぉっし。そうと決まりましたら早速着替えましょう」
そういって、着替えを始めた二人ですが、
「……セリオさん、その格好は?」
「ほえ? これは、闇ルートで手に入れたユニちゃんの学校の制服ですけど?」
「どういったルートなのかは多少気にかかりますけど、それよりもなぜセリオさんも制服を着るのですか?」
「はっはっは。大丈夫っスよ。私、これでも外見年齢は16歳で通ってますから」
「……いえ。あの、そおいうことでは」
ユニはちょっとみゅーとしましたが、特にこだわるほどのことでもありませんので、二人は出かけました。
*
同日、昼。
「なんと、日曜は学食休みですか」
「はい。そのようです」
セリオ(偽)は、どんなものがあるのか楽しみにしていただけに、ちょっとがっかり。
ユニも、うっかり前もってそのことを言うのを忘れていました。
「仕方ないから、近くの商店街に買い物に行ってきます。ついでに、チョコの材料も買っちゃいますか」
「はい。お供します」
「部活はいいのですか?」
「あ。……すみません」
ユニはそもそも部活に来たのですから、部活に出なければしょうがありません。
セリオ(偽)はユニと別れ、学校を出ようとしました。
と、その前に。
(ここが、ユニちゃんの学校ですかあ)
午前中、来てすぐにユニに学校の説明をしてもらったので、大体どんな建物があるかは分かります。
(……学校かあ)
妙にノスタルジックな気分。学校生活を送ったことは、無いのですけれど。
少なくとも私は。
そんなことを考えつつ見物しながらふらふら歩いていると、
「あれ……セリオさん?」
声。くるりとそちらに振り向くと、
「おや、誰かと思えば夏樹さん」
「……ども、こんにちわ」
そこにいるのは、ユニの友達で、この前の温泉で知り合いになった風間夏樹という女の子でした。
「部活動ですか?」
「ええ。そうだけど……セリオさんは?」
「はい。ちょいっとヤボ用で」
「まあ、それはいいんだけど。なんでウチの制服着ているの?」
まさか、彼女までウチの学校に通い出すとか?
「いやあ。趣味です」
「……はあ」
誰の? と聞きたくはありましたが、なんとなく夏樹は止めておきました。
今、部活の休憩中だと言う夏樹。
ちょっと話しこむ二人。
と。
「そういえば、明日はバレンタインですね」
「……まあ、そうかもね」
夏樹は、その話題はあまり乗り気で無いようです。
「私、この行事あまり好きじゃないのよね」
「ほう。そうなのですか」
「なんか……踊らされている感じがするし」
「まあ。確かに。でも」
「でも?」
「楽しけりゃいいんじゃないんですか」
「そうかなあ?」
考えが深いんだか浅いんだか分からないセリオ(偽)の対応に対し夏樹は考え込みます。
「……そうかもね」
「そーですよ。私とユニちゃんは、手作りするつもりですが、夏樹さんもご一緒しません?」
「……そうね」
妙に考え込む夏樹。
台所確保できてほくそえむセリオ(偽)。
そして、二人は別れ、夏樹は部活に戻り、セリオ(偽)は商店街へと向かいました。
*
同日、夜。風間家。
夏樹の両親は忙しいらしく、その日は家にいませんでした。
そして、そこに集まった三人。夏樹、ユニ、そしてセリオ(偽)。
三人はセリオ(偽)が買ってきたチョコの材料、そして作り方の本とにらめっこしています。
セリオ(偽)はともかく、残りの二人は料理が得意ではありません。
指導の元、調理を進めます。
間にテレビ見たり、雑談したりしながら。
その夜は、ふけていきました。
(明日に続く)
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