と言うわけで、月本真一を丸め込んだ星野裕司はプラン「海に初日の出を見に行こう」を発動させる。
さすがに男二人で行くのもなんだかな、って感じではあったが、運悪く他の知人はつかまらず結局二人で行くことになった。
3分前までは。
海へと向かう電車に乗り込もうと駅へ向かう二人。その前に彼らの同士ユニ出現。「せっかくだから」と提案する裕司の意見にあっさり承諾したユニは家に「少し遅くなる」と電話。この時点で彼女何をしに行くか分かっておらず、当然帰りが次の日になることも理解していない。教えてやれ男二人。
そして3人になった一行は電車に乗り込む。
「海に行かれるのですよね」
「うん。そう」
「……楽しみです」
海。
あの日、海に行こうと決意したものの、地図を広げてみたら件の海は結構遠いところにあった。
それでも、行こうと思えばいけなくもなかっただろうが、彼女は、正直電車の乗り方を完全に理解してはいなく、一人で出かけるのは何かと気が引けた。
今、自分たちが向かっているのは偶然なのかその海。
どきどきする。とても楽しみ。
なんのかんので現地には11時過ぎ到着。迷った迷った。もっとちゃんと計画を立ててからやるべきだろう。計画と言えば、彼らは宿の手配などもしていない。夜中じゅう起きているつもりだからだ。
若さゆえの過ちもたいがいにしないと凍死するぞ。
この時点でユニ隊員、
「ひょっとして、おうちに帰るのが遅くなってしまうのでしょうか?」
「うん、そーかも」
「そーかも、つーか、遅くなるな」
気づくのが遅いユニは、いまさらながらちょっと慌てる。
そもそもこんな遅くまで外にいる時点でダメだ。テスト機体である自分は規律正しい生活を過ごすことを義務付けられている。そうでなくても、朝帰りなんて……。
不良さんのすることだ。
「……私、不良さんになってしまったのでしょうか……」
「……だいじょーぶじゃねーの?」
「いや、大丈夫だって! 子供なら誰しも反抗期を乗り越えるもの、むしろ反抗しなけりゃその後の人格形成に大きな障害が残るね! それにちょっとグレてるほうが僕好みだし」
「誰もお前の趣味は聞いてねーと思うが」
「……私、グレちゃったのでしょうか?」
ユニの頭にぐるぐると「不良メイドロボ」のレッテルを貼られ、売れ残って倉庫に山済みになっている量産型の自分のさまが浮かぶ。光の入らないその瞳はどこか寂しそう。
「ごめんなさい、私の妹たち……」
「なんか落ち込んでるよーだが……まあ、ウチに電話かけときゃいいんじゃねーのか?」
「そうでしょうか」
「そーだよ、プロレスだって5カウント以内なら反則オッケーだし。何事も例外は付き物だって」
「はい。では……」
ユニは、辺りをきょろきょろと見まわして、
「電話は、どこでしょうか?」
二人も辺りを見まわした。
携帯電話ぐらいもっとけよ最近の若者。
一行が電話を見つけたとき、すでに年は明けていた。
「……はい。ユニです。はい。あ、隆山ってところです……」
ユニが電話をしている。
「ここ、結構都会なのに、なんで電話ボックス見つからなかったんだろーな」
「ま、そう言うことも有るって」
がちゃ。電話が切れる。
「終わったか?」
「はい」
「なんか疲れちったね」
裕司は言う。電話を探して右往左往して、3人ともちょっと息切れしている。
「少し休もっか。あそこに自販機が有るよ」
「ん。そうだな」
「はい。そうですね」
3人はどやどやと移動。
「裕司何飲む?」
「おごってくれるの?」
「しねーよ。まとめて買ったほうが手間が省けるだろ」
「ん。しんちゃんと同じのでいいや」
「手抜き。ユニはどうする?」
「私は……」
ちょっと考える。
二人が選んだのはコーヒー。
セリオ(偽)が紅茶派であるが故に、そっちは良く飲むのだが、コーヒーは飲んだことが無い。
多分、平気だとは思うけど、拒否反応が出ないかちょっと心配。
でも。
「私も、真一さんと同じのがいいです」
「……お前らもっと主体性持てよ」
缶入りコーヒーは小さい。男二人はさっさと飲みきってしまう。
ユニはおっかなびっくり、ちまちまと飲む。
うん。大丈夫。
おいしい。
そこでいろいろ無駄話を繰り広げているうちに、そろそろ時間になって来た。
「じゃ、移動しよか」
そうしてまたどやどや移動する。今度の目的地は海。
途中、お眠むになったユニがふらふらしていたので、裕司につっつかれた真一が背負うことになった。ユニはさすがに断ったが、結局押し切られて背負われることになった。
ちなみになぜ裕司が背負わなかったかと言えば、純粋に身長差によるところが大きい。
それはともかく。海に到着。
「海だー」
「海だな」
「真っ暗ですね」
夜の海。静かに潮騒が響く。
目を凝らすと、結構人がいる。客層としては親子連れが多いよう。
海を見る。夜明け前の海。
「ねー。僕、これ持ってきたんだけど」
「暗くて良く見えねーけど……ハンディカラオケか?」
「そう! さあ、夜明けに向かって歌おうよ!」
「……ステキですね」
「ま、いいかもな」
珍しく裕司の意見が皆に受け入れられた。
と、突然、
「……なんであんたらがいんのよ」
『?』
聞き覚えの有る声に一同振り向く。
そこにいるのは彼らの知人。
「夏樹。てめー「家族で旅行に行くから」とか言って断ったくせに何でこんなところにいるんだ?
……そーか分かったぞ、お前、俺のストーカーだな!」
「何が悲しくて私があんたをストーキングせにゃならんのよ。ここに来たのは本当に家族旅行。
初日の出見ようってんで海に来たら、聞いた覚えの有るバカっぽい声が聞こえたから寄ってみただけ」
ま、世の中偶然も有るものだ。
「夏樹さん、明けましてございます」
「え? うん、おめでと……、てなんでユニちゃんまでいるのよ?」
「通りがかったから」
「せっかくだから」
計画性の無い連中の声に夏樹はあきれ顔をして、
「あんたら二人がバカやろうと勝手だけど、ユニちゃんを巻き込むんじゃないわよ。
可哀想に。風邪でも引いたらどうするの?」
「俺らは風邪引いてもいいのか?」
「大丈夫。あんたらは引かないから」
「なんでよ?」
「バカだから」
「んだと!」
二人は言い合いを始める、夜更かしして寝不足ハイになっているらしく、なんだか分からん感じになって来た。
そんな二人を見ながら、ユニ思う。
なにか、あったはずだ。確か。
この状況を言い表す言葉、うーん。でも、これで良かったんだっけ?
「あの、裕司さん」
「何?」
「あの、この状況は『夫婦喧嘩は犬も食わない』と言い表してよろしいのでしょうか?」
「むー。微妙だね」
『微妙だねじゃ(ねーよ)(無いわよ)』
一連のボケに語尾以外ハモって突っ込む二人。きれいに決まりすぎ。
打ち合わせしてただろう君ら。
そんな事をしているうちに。
夜が明ける。
騒がしかった一同が、そろって黙り込む。
冷たくて、でもきれいな風が吹く。
時間がゆっくりと流れる。息が詰まる。
光があふれる。夜が溶ける。
*
1月分の定時報告に、早速書き足さなければならないことが出来ました。
このからだ、涙腺ゆるいです。
*
日の出は結構あっさり終わる。
周囲は、もう明るくなってきている。
「ねえ。あんたらこれからどーすんの?」
「ん? 電車で帰る」
「無茶すんのねえ……良かったら、私たちが泊まってる旅館に来る?
ちょっといるぐらいなら、旅館もどうこう言わないでしょ」
「いーのか?」
「あんたらは別にどーでもいいけど、ユニちゃん少し眠らせてあげないと、
体壊したら大変でしょ」
「俺らはどうでもいいってのは気に食わないが、ま、そうだな」
話がまとまったようなので、一同は夏樹の泊まっている旅館「鶴来屋」へと向かう。
本日何度目かの移動を開始しようとする一行。
しかし、
ユニは、じっと、海を見ている。
「……どーかしたのか?」
「いえ。あの」
目を、ごしごしとこすってから、
ユニは手を広げてぐるっと周り、
「海も、空も、きれいです。なんかすごいです。こういうのを見てると、
生まれてきて良かったなあ、て、思えるんです。
なんだか、幸せな気持ちです」
3人に向かって、そういった。
そして、言葉を続ける。
「みなさん、今年もよろしくお願いします」
*