除夜の鐘が鳴り響く。
 もうすぐ、今年も終わる。

「やー。この人は年々派手になるねえ」
「そうなんですか? へー」

 僕とセリオ(偽)は、いっしょに年越しそば(セリオ手製)なんかをすすりながらテレビを見ている。
 ユニちゃんは、なんでも学校の友達のところに行ったらしい。
 うまくやっているようだ。保護者(てほどえらそうなことはしてないけど)としては一安心。
 セリオ(偽)を見ると、彼女は、なんだかずいぶんはしゃいでる。
 特番ばかりのテレビ放送を夢中で見ている。
 本人は隠しているつもりだろうけど、お正月用に買ってきた料理を、こっそりつまみ食いしたのを僕は知っている。
 何でこんなに嬉しそうなんだろう?
 ……ま、それはそうか。
 この子は今年「生まれた」わけだから、年を越す、と言うのもこれが始めて。
 見なれぬ事態に興奮しても無理はない。

「ご主人さま、なぜ年末になるとみなさん歌を歌うのでしょう?」
「さあ? 歌いたいんじゃないの?」

 テレビをぱちぱち切り替える。
 流れてくる音をバックに、時間が流れていく。

「……今年も、後30分なのですね」
「そうだね。……今年も、結構いろんなことがあったなあ」

 今年一番の出来事は、決まってるけど。
 と、セリオが急にまじめな顔になって。

「お買い上げありがとうございます。はじめまして、私、HM13型、セリオと申します。
 ふつつかものですが、なにとぞよろしくお願いします」

 そう言った。そして、微笑んで。

「ありがとうございます。私、あなたに会えて良かったです」
「う、うん。どうも、こちらこそ」

 急にそんなこと言うものだから。言葉に詰まって。なんていうか。
 ……照れる。
 僕が照れてる横で、セリオはそばをすすりながらテレビ鑑賞モードに戻る。

「ねえ……」
「はひ? なんれふか」
「……美味しい?」
「(ごっくん)はい。おいしいですよ。おかわりしますか?」
「うん。お願いできる?」
「はい♪」

 何か言いたい気もする。でも、言葉がうまく見つからない。
 台所の方にいる彼女に話し掛ける。

「来年、いい年になるかなあ」
「ご主人様、そんなしょーきょく的なことではいけません。
 たとえ悪くなる可能性のほうが高かったとしても「いい年にしてやる」ぐらいの根性が必要です
 ポイントは気合です。気合。」

 はは。そーかも。
 そばを持ったセリオが戻って来て、僕の前にお置く。
 セリオが近くにいる。
 手を伸ばせば届く位置に。
 彼女の顔を見る。そのことに気づいた彼女が見つめ返し、そして微笑む。
 僕は。
 彼女を抱き寄せて、そして、
 そして。
 
 ……付けっぱなしのテレビからの音は、異国の言葉の様。まるで頭に入ってこない。
 ゆっくりと時間が流れる。
 古い年が終わり、また新しい年が始まる。

 二人して紅い顔して見詰め合う。
 セリオは唇を押さえながら照れ笑い。

「……いやー。なんか照れるっスね」
「僕ばっか照れてたら不平等だから、これでおあいこ」
「なんか、その理屈わけわからないですけど」

 そうは言いながらも、彼女も悪い顔はしていない。安心する。
 ……。
 時間が流れる。
 ……。
 どうにも間が持たない。

「……あの、ご主人様?」
「はい?」
「……あ、ユニちゃん、遅いですね」
「うん。そうだね」

 眼も合わせられない二人。

 と、突然電話のベルが鳴り響いた。

「で、電話だね」
「は、はい。そうです、ね」

 とったったと電話に駆け寄るセリオ。

「はい。……あ、ユニちゃん? え? あ、うん。今どこ?
 え? 隆山? 温泉の?なんで? うん、うん。あ、わかった。うん。じゃ」

 声からするに、電話はユニちゃんかららしいけど。
 と。
 突然、セリオはいつもの調子に戻って。

「さ、ご主人様、とっとと着替えて出かける準備を、光より早く出かけますよ!」
「って、なんだいそれはっ!」

 なにがなんだかわからない。

「ユニちゃんからの電話です。事件の予感です。私としては首突っ込みに行ったろーかと言う気分です」
「……なんか分からないけど。まーいーや」

 少なくとも、ユニちゃんに何か会ったのは、確からしいし、僕も早速出かける準備をした。
 新年早々、慌しい。

「なんかいーましたかー」
「いや、なんいも」

 どたばたしながら、準備を完了させる。

「よおっし。さ、行きましょ」
「おー」

 外に出様と玄関に向かう。僕もそれについていく。
 と、突然、こっちに戻ってきて、

「そうだ、肝心なこと言うの忘れてました」
「?」
「あけまして、おめでとうございますっ」
「あ、ああ、おめでと」
「じゃ、行きましょっ」

 そして、改めて出かける。
 なんか良く分からないけど。
 ま、今年も楽しそうではある。

(次回、温泉編にケイゾク) 日記 リーフのコーナー