セリオさんの提案により、私たちはせんとうに行くことになりました。
ところでせんとうとはなんでしょう?
何らかの行列の先頭でしょうか?
それとも尖塔? 仙人さんが居るのは仙洞としても、まさか戦闘でしょうか?
この国では、それを職業とする一部の方々つまりぐらっぷらー以外はあまり戦闘を行うことは無いと聞きます。
とすると、これから向かうところは特別に戦闘を行うところつまりふぁいとくらぶでしょうか?
なぞです。ですが、セリオさんもご主人様もなんだか楽しそうな顔をなされているので、あまり水を差すようなことも言えません。
「……? ユニちゃん? 何難しい顔してるの?」
「あ、いえ。何でもありません」
いけません。セリオさんに心配をかけるようでは。
男の人は家の外に出ると7人の敵が出ると言います。
私は女性型なので半分の端数切捨ての3人ぐらいはいそうな感じです。
気を引き締めてかかりましょう。
辿りついたのは、やや古作りな建物でした。でっかく「ゆ」と書かれたたれまくがかけられています。
どうやら、ここが決戦の場のようです。
と。
「あ、ごめん。僕ちょっと用事があったんだ」
突然ご主人様がそのようなことを言ってきました。
「なにごとですか? なんでしたらご一緒しますけど」
セリオさんはそう言いますが、
「いや、だいじょーぶだいじょーぶ」
そう行って、一人で行ってしまわれました。
謎が多い方です。それはともかく。
「じゃ、私たちだけで入ろっか」
「分かりました。では、お供します」
「……いや、別にそんな神妙な顔しなくても」
いけません。セリオさんに心配をかけてしまいました。
落ち着くために深呼吸ひとつ。
はい。決心はつきました。セリオさんに習った言葉によるところの「かくごかんりょう」です。
横開きの扉をガララと開け、私たちは中に入りました。
中は意外と狭い部屋でした。
少し小高くなった場所にレジ-でしょうか?-があり、そこには人の良さそうなおばさんが座っています。
おそらく門番さんでしょう。外見に騙されてはいけません。
セリオさんはその方にお金を支払いました。料金表を見るにセリオさんと私の二人分。意外と安いのですね。
そして、セリオさんは『女』のたれまくのかけられた通路の方を進みます。反対側には『男』と書かれたたれまくが。
男女では戦闘能力に格差が出来ますから、レギュレーションを分けるのは妥当だと言えるでしょう。
それにしても、セリオさんはまったく動じる様子がありません。さすが人生の先達です。すごいです。
13と17の違いはあるといえ、ロールアウトは私とたった半年しか違わないと言うのに。
通路を抜けると、そこは少し開けた場所でした。げたばこみたいな棚の中に、それぞれ大きめなざるが置かれています。
どうも、その中には衣服が入れられているようですが……。
「んじゃあユニちゃん、ここに服入れよか」
と言うなり、セリオさんが服を脱ぎ始めました。
いきなりなのでびっくりしました。どきどきです。
しかし、考えてみれば普段着では戦闘しづらいですし、服を変えれば、凶器などを持ちこむことも出来ないでしょうから妥当なルールです。
でもどきどきしました。
ともあれ、私もそれに従いました。
と、あろうことかセリオさんは服を脱いだまま、タオル一枚だけを持って奥のほうの部屋に向かってしまったのです。
いくらなんでも無防備過ぎます。私も服を脱いで、その後を追いました。
奥にある扉を開いたセリオさん。その向こう側に見えるのは……。
お風呂場でした。
「いやー、たまには広いお風呂もいいね」
「……はい。そうですね」
私たちは湯船に浸かっています。
確かに湯船は広く、足を伸ばしても全然平気です。
しかし……戦闘をしている人は一人も居ません。どういうことでしょうか?
私は何か間違っていたのでしょうか?
すっかりくつろいで居る様子のセリオさんに聞くのも忍ばれます。
部屋の中を見回しても、おかしな様子は無く、ただの公共の浴場です。
もしかして、せんとうとはそう言うものなのでしょうか?
しばらくぼぉっと湯船に浸かっていました。
そのうち、ある可能性に気づきました。
そう、戦いとは、何も直接殴り合ったり蹴り合ったり絞めたり折ったりするだけではないのです。
そのことに気づいた私は。
セリオさんの胸を見てみました。そしてしかる後に自分のものを。
「……? ユニちゃん? どうかしたの?」
「……」
私は敗北しました。
*
次の日。
来栖川エレクトロニクスHM課17型企画開発部に、テストタイプのひとつであるユニより『直訴』と書かれた手紙が届いた。
内容は簡潔。ただ一言『豊胸』。
しかし、開発方針からか担当者の趣味からかその希望は却下された。
ま、そんなに落ち込むことも無い。彼女は成長期であるし。